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ひとりディナーのハレーション | 虚構OLエッセイ(1)

仕事終わって帰りにさ「夕飯どうしようかなー」って考えもしないくらい脳髄からの司令でスーパーに入っていくことってよくあるじゃない?

でも、わからなくない? 何を食べたらいいか。

学校ではさ
「お米の栄養素は~?」
「たんすいかぶつー!」
くらいしか食事のことを習わないし。家庭科なんて家族へ食事を作る前提だし。1人で食べる夕飯の選び方なんて習っているわけがないし。

主婦の
「今晩何食べたい?」
「何でもいい」
「はぁ!? こっちは何を食べたいか真剣に悩んでいるのに何それ?」
とかいう犬も食わない悩みなんかよりも、パーフェクト自己責任になる「1人で家で何を食べるか」は切実な問題なわけ。

あ。答え知ってる、自炊でしょ。
自分で作るのがベストなの知ってる。そんなの言わなくていい。
でもなんかさ、自分ひとりで食べるために20分かけて料理してさ、食べるの5分って時間コスパ良くなくない? 良くなくなくなくなくない?

4人前を40分で作るんだったらよ、一人あたり調理時間10分になるわけじゃん。それなら有意義な時間って思うわけ。

そういう考え方だから、自分1人前で料理するしようとするとタイムアタックになっちゃうわけ。もうね、THE SQUAREのTRUTHかかって料理F1グランプリ開催はじまっちゃう。もしくはクッキングマリオカートね。過去に料理した自分というゴーストとタイム競い合って、抜きつ抜かれつヒァウィーゴーって感じ。

だから自炊をする気にはなれない。

じゃ、次の選択肢として弁当ってなる。
ちょっと待って。スーパーの弁当、白米多すぎ。ハリウッド・メシ師匠が作ったのかっていうくらい誇張しすぎた炭水化物。弁当民主主義国があったら米派が過半数超えでさーね、オ”ー。

でもわかる。コスパ最高の栄養素そして満腹感を呼び起こす食材、そう炭水化物。
牛丼なりラーメンなりパスタなり、外食でこれでもかっていうぐらい炭水化物が多いのは、その満足度のせいよね。

農業時代、工業時代じゃないんだからその時代のワーカーの炭水化物の配分そのままにしないで欲しい。
今のセレブたちは野菜とタンパク質な食事してるわ。 
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」なんていう炭水化物の時代は終わりなわけ。現代のアントワネットは、グラノーラと豆腐を食べてるわけ。

だから弁当に手が伸びない。

じゃあ何を食べればいいか、よね。

そう考えると、そもそも「食事って何?」ってなるじゃない?
青っぱな垂らしながら「ね”ぇ、ね”ぇ。ショクジっな”に?」みたいなバカさの滲み出た質問だけど。

2パターンあるね、食事の目的ってやつは。
1つは栄養摂取。
「えーよーせっしゅ?」
「体を動かすエネルギーをチャージすることよ」

もう1つは、コミュニケーションのツール、言うなれば儀式。
「ぎしきぃ?」
「家族との食事は同じものを食べるという部族として、飲み会やパーリィは上下関係や横の関係を強める社交として、夜のデートはセックス前の貢物として。そういう人間的な習わしのことよ」
「せっくすぅ?」
「交尾のことよ」

じゃ、1人で食べるってことは、儀式を取っ払い、栄養摂取を合理的につきつめればいいってわけよね。

合理的。お惣菜だけ買ってお皿に並べるなんていう、そんなまどろっこしいことすらしなくていいわけ。直で食べなさい、皿洗うのもムダね。

合理さを最大にした食事とは何か。
これはもう映画とかで軍隊が戦場で食べる行動食、レーションね。
ブロック状の栄養素の塊っぽい食べ物。

そう今は戦争なの。独身アラサー女子というしがない雑兵による孤独な現代社会という戦場での戦いなのよ!

スーパーで売っているレーションといったら、カロリーメイトね。
あの無骨な褐色の直方体。もうね究極の機能美、合理さと栄養の塊。

というわけで、カロリーメイトを2箱買って帰宅。

戦闘服から部屋着に着替える。
黄色い箱から袋を出し直方体を取り出す。
皿なんかに載せない。直で食べる。

もふ、もふ、もふ、もふ。
もふ、もふ、もふ、もふ。

超のど乾く。

あれ? カラッカラなのに目から水滴がこぼれるのはなぜ?

水分も足りないけど、他に何か足りなかった?何かのスパイス?
生クリームでもかけたら違ったかしら。

ううん、本当は知ってる。食事の最高のスパイスは愛情なんでしょ。
この物足りなさ愛情が足りないのよね。
戦場で死体の山の上へ腰を下ろしレーションをがっついたとしても、愛する人と一緒にいればご馳走になるに違いないわ!

は? って感じ。
恋愛至上主義者の戯言ね、愛を神聖視しすぎ。
1人で生きる辛さを受け止める勇気と覚悟がない人間がいいそうなことだわ。愛なんて来るのは拒まずだけど、追うものじゃないし。
あー、愛が不足しているのは認めよう。それは事実。
それでも、あたしは愛を追わんよ。愛が来い。

さらには、食事に合理さも求めるほどクールなわけでもない。
ディストピアな漫画みてたらレーション出てきて食べたくなった。
何を食べようか迷ったら、それをスーパーで思い出した。それだけ。
ちなみに「メイドインアビス」と「少女終末旅行」ね。おすすめ!
レーション食べたくなる行動食漫画だから注意。

というわけで何も解決していない「1人で家で何を食べるか」という問題。

思いついたものを食べる。レーションでもグラノーラでもケーキでも。
これは独り身にしかできない、わりかしハッピーな答えだとは思う。
そういう当たり前を、この独身OL戦争における貴重な楽しみとして噛み締めたいわ。

まぁでも、理想の答えは何かしらね。

テーブルクロスの上にあるロウソクがあと一口を残すワインボトルにハレーションをつくりながら影を揺らす中、母直伝のクリームグラタンを食べおわって談笑を交わしていたディカプリオ似の彼が、「ソース付いてるよ」って言いながら、指であたしの左口角をなぞったあとそのまま自分の口に運び、少し酔った目が穏やか細くなる。

誇張したかもだけど、こういうのなら来るのは拒まないでさーね、オ”ー。

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