GrounddigginG : 01 「めめ」編
”GrounddigginG”は、GroundbreakinG収録曲のうち、ある特定の楽曲に惹かれた方向けに、媒体問わずそれと同じ系譜を持つであろう楽曲をいくつか厳選・紹介し、次なるdigへの道を示すことをコンセプトとした連載記事企画です。記念すべき第一回は『GroundbreakinG 2021 BOFXVII COMPILATION ALBUM』に収録されている「めめ」から導かれるdigへの道を紹介していきます。担当ライターは空読無 白眼です。
0. 「めめ」について
BOFXVIIに出場していた偽名チーム『のなめす』から登録されたBMSの一つ。
タイトル・アーティスト・ジャンル表記が全て「めめ」に統一されたりと、文字情報の時点で他登録作品にない異質さを醸し出していた。その一方で曲本編は、クリック系ノイズと重々しいパッド音源から成るマイクロサウンド音楽から始まり、後半では雰囲気そのままに歪んだキックが様々なリズムで襲い掛かり、最後には荒々しいノイズミュージックへと変貌し締めるという、ひらがなのみの文字情報から想起されるであろうゆるいイメージとは別ベクトルの異質さも合わせ持っている。
なお、このBMSを制作した「めめ」の正体は、エレクトロニカ・IDMを主軸とした唯一無二の作風を武器に、BMSのみならず様々な音楽シーンで活躍するアメリカ出身のBMS作家、Frumsである。
以上の特徴をもとに、「めめ」に惹かれた方が次に聴くべきであろう楽曲を5つ提示していこう。
1. Alva Noto - uni acronym (feat. anne-james chaton)
「めめ」の最大の特徴である、クリック系ノイズから成るマイクロサウンド音楽を語る上で欠かせないのが、ドイツ出身のアーティストCarsten Nicolaiが手掛けるソロプロジェクト、Alva Notoだろう。ソロで活動しているのはもちろん、日本が誇る作曲家、坂本龍一との共作アルバムを複数枚リリースしたことでも有名である。
そんな氏がリリースした楽曲の中で、この項で紹介するのが「uni acronym (feat. anne-james chaton)」だ。
一つ一つが繊細ながらも鮮明に聴覚に刺さってくるクリック系ノイズと、無機質ながらも存在感がある低音から構成されるミニマルビートを土台に、既存のアルファベット3文字略称単語が順番に唱えられるという、音そのもの以外にも独特なコンセプトを持ち合わせた曲となっている。MVでは各アルファベット3文字略称単語が唱えられるたびに、それに該当する画像やロゴが数秒表示される、見ていて面白い表現になっているので、曲と合わせての視聴を推奨する。
2. 池田亮司 - Data.Matrix
先述のクリック系ノイズから成るマイクロサウンド音楽の主要アーティストは、実は日本にもいる。それが池田亮司である。楽曲制作のほか、その楽曲に合わせた映像パフォーマンスライブ、インスタレーション作品展示と、聴覚のほかに視覚表現でも魅せる活動をしている。
そんな池田亮司がリリースした楽曲の中で、この項で紹介するのが「Data.Matrix」だ。
前述の「uni acronym (feat. anne-james chaton)」よりも主張が激しいながらも、透明感あるやわらかい印象をも受けるクリック系ノイズ群をベースに、曲の後半から冷たいパッドシンセとどこか壮大な旋律を持つストリングスがじわじわと頭角を現わし、終盤それらの音像がノイジーに歪むことで曲のクライマックスを迎える、マイクロサウンドにしては珍しくゆっくりながらも感情的な展開を持つ楽曲となっている。
なお、この楽曲と前述の「uni acronym (feat. anne-james chaton)」それぞれが収録されているアルバムは、どちらも『Raster-Noton』というレーベルからリリースされており、早い話「めめ - めめ」からdigを繋げるには、そこからリリースされているアルバムを聴いていけばあらかた済んでしまう。しかし、それだけでは記事的に面白くなくなってしまうので、digの脈絡となる他レーベルからの楽曲も紹介する。
3. 半野喜弘 - dub
半野喜弘は、「真夜中の五分前」「ピンクとグレー」等の映画の劇伴制作を中心に活動する作曲家だが、一方で本名義または副名義『RADIQ』を用いたエレクトロニカ・ダンスミュージックのアルバムをリリースする活動も並行して行ってきた。そのうちの一つ『9 modules.+』は日本のエレクトロニカシーンを築き上げてきたレーベル『PROGRESSIVE FOrM』にて、レーベルを立ち上げてから間もない頃にリリースされたアルバムで、その収録楽曲である「dub」を、この項で紹介していく。
序盤はクリック系ノイズの中でも高音域のものがリズム隊の中心となり、それに並行してバックで超音波のような音を一定のリズムで反復的に鳴らせることで、音楽を聴いてるというよりも、脳内で耳鳴りの一種が起きているような体験が得られる。曲が進行していくにつれ、その他のクリック系ノイズ、グリッチされたピアノらしき音とトラックの数が増えていき、それに並行してその音群から織りなされる、聴いていて不安になるような雰囲気もジワジワと増していく。
4. Junichi Akagawa - Fetish Extro
『横浜ダンスコレクションEX2014』にて「テルアビブ-ヤッフォ・横浜文化交流賞」を受賞した経歴を持つJunichi Akagawaが、GroundbreakinGと同じくネット上に無料でアルバム・EPをリリースするネットレーベルの一つであり、以降一般流通CDをリリースするまでになった『Hz-records』からリリースしたアルバム『Consistency Test』の収録曲「Fetish Extro」を本項で紹介していく。
今まで紹介してきた楽曲らと共通してクリック系ノイズがビートの土台となっているのは、ここまできて言わずもがな、この楽曲については特定の和音からなるワンコードと、間を置いて鳴るプラック音からなる空間が、どこか理知的な印象を聴く者に与えてくれる。個人的にはミニマルデザイン系パズルゲームのチュートリアルステージのBGMに合いそうだと思うのだが、ここで非VGMをゲームで例えるのは安直だろうか。
5. Kazumasa Kubota - Wasurenagusa
前述4曲は「めめ」最大の特徴であるグリッチ系ノイズから成るマイクロサウンド音楽を軸に紹介してきたが、最後に紹介する「Kazumasa Kubota - Wasurenagusa」については、「めめ」が持つ重々しいパッド要素と終盤の激しいノイズミュージック要素から導けるdigの選択肢として紹介したい。
今まではどちらかというと静かな曲を紹介してきた中、いきなり音の情報量が増えた曲をこれから聴かせる関係上、聴覚の情報量の強大な差を体験させてしまうことをご了承いただきたい。
ノイズミュージックというと、基本は強大な音量のノイズ音のみでそれ以外の音はあまり足さないイメージが筆者の中にあるのだが、この「Wasurenagusa」については、開幕から鳴る美麗なアンビエントパッドが終始バックに存在し、そこにインダストリアルなノイズが合わさることにより、綺麗さと凶暴さを同時に表現しており、筆者のノイズミュージック遍歴としては異質なものとして位置付けれる。音の種類は違えど、轟音ギターで空間を表現するジャンルであるシューゲイザーに近いものを感じる、という評価も一部の層で得ているようだ。
以上、GrounddigginG #1「めめ」編をお送りしました。
いきなりDopeな選曲となりましたが、近年のBMSシーンでは中々お目にかかれないスタイルの音楽を、今回の記事を通して布教することができたのであれば幸いです。
“GrounddigginG”は今後も複数回に渡り、様々なライターによる紹介を連載していきます。次回以降もお楽しみに。
担当ライター:空読無 白眼 (@9domu_46i)