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オレンジ

 お昼ごはんにパンを食べた。お弁当を毎日作ってもらうのも大変だと思うし、こちらとしても週に一度くらいは好きなものを食べたい。利害の一致である。

 最近、通学路にコンビニができた。朝は頭がよく動かず、時間の余裕もないから目に飛び込んできた商品を適当に選ぶ。今日買ったパンの一つは、新発売の「しっとりオレンジブレッド」だった。英語表記は "Orange" らしい。

 現代文の授業では梶井基次郎の「檸檬」、漢文では劉輝の「売柑者言」をしている。何かと僕は柑橘類に囲まれているようだ。

 また、米津玄師の「Lemon」も様々な層に愛される曲だ。少しマイナーだがとらドラ!のエンディングテーマも「オレンジ」だ。それらに共通するのは、何か甘酸っぱいものの直喩だ。

 形容詞は守備範囲が広いものから、超専門的なものまである。いずれも複数の状態や感情をひらがなや感じに込めた切ないものだ。形容詞は人間でなければ存在しなかっただろう。もし感情のない、例えばアンドロイドやロボットにとっては必要がない存在だ。

 たから「しっとり」なのだ。「がっつり」ではない。食べると少し涙腺が緩むような、誰かをなくしたような、そんな気分になるからだ。この言葉を思いつくまでどれくらい時間がかかったのだろうか。試作品を食べたときの第一印象なのか。僕はそう感じた。

 新発売という言葉は好きではない。一部の人にとって美味しいと感じる味なことが殆どだからだ。しかし、僕はこの「しっとりオレンジブレッド」を推薦したい。人々の共通した、共有できる感情だからだ。