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初恋は何度も実らない

「でも、理想の彼女といえば、彼女なのだ。」
 日記は続く。

「( 彼女と ) 価値観が合い、真面目で、勉強・音楽が得意で、普段は静かだが……、身長も丁度良くて、身体もいろいろ良い、……なぜ僕は2年ちょっと、この魅力に気づかなかったのだろうか。」

 振られた訳ではない。片思いだった。恥ずかしくてほとんど話せなかった。部活の部門も違ったので、お互いの顔が見えない時間が多かったのだ。

「彼女はいつも1人で頑張っていた。」

 僕たちの部活は「陰キャ」の集まりだ。いつもゲームやアニメの話をして笑い声をあげているから、かなり近寄り難い部活であろう。しかし、彼女にこの傾向は見られなかった。なぜこんな部活に入ってしまったかを引退前に聞きたかった。

 いや、話してくれたのだ。顔を赤らめながら、
「本当は、声優になりたくて……」

 びっくりした。声優になることよりも、まさかそんな夢を 2 年間心の奥にしまっていたという!補足しておくと、僕が入っていた放送局は「技術」と「アナウンス・朗読」の二部門があって、彼女は後者だった。前述の通り毎日頑張って発声練習を嫌がらずにやり、筋トレまでこなしていた。大会でも毎回良いところまではいくのだが、最後の大会はまさかの予選敗退(彼女は「朗読部門」に出場した)。彼女は報われなかった。

 その後一人で落ち込んでいたらしい。僕からしたらチャンスだ。上手く言葉をかけてあげたら少しは興味を持ってくれるかもしれない。しかし、これは放送局員の奇妙な思い込みだった。彼女はしばらく姿を見せてくれなかった。

 彼女は頑張ったが、僕はちっとも努力をしなかった。僕は「技術」担当で、他に女子の同級生が一人いた。僕はその子が憎い。僕が悪いのは知っているけど、なんだか人生を狂わされた気分になる。負のオーラが均一を図ろうと僕のプラスな心に侵入してくるのだ。

 その女子は不幸に不幸を呼び起こすような人だった。いつも言い訳と愚痴ばかりで、成長が全く見られない。他の人にあたりが強いけれど、作品だけは独創性の高いものをつくった。それに絞って言えば色々な人から評価されていたが、僕は違和感を抱いていた。

 あいつは大切なものを忘れているのだ。

 その女子の作品は「同人」のようだった。性癖が同じ人同士で交流するのが同人だ。コンテスト向けに制作する作品を「同人」と混同していた。そのため、ごくごく一部の人にしか受けない作品をつくったのだ。なお、「色々な人」は僕を除く放送局員のことだ。放送局自体が同人サークルな雰囲気があったのも原因だろうか。

 ドラマの完成後、顧問に作品の批評をしてもらうのがセオリーだが、珍しく先生は何も言わず、これで良いと言うのだ。これはその女子が狂った常識の下で矛盾のないように予防線を貼りまくってつぎはぎだらけになった作品を見せつけたことを意味する。

 そもそも、その女子が創ったのはドラマだ。ドラマ!脚本はともかく、7 分程度の作品でも内容によっては 2 週間以上かけて制作することもある。これが許せないのだ。本当は関わりたくもない人、しかも「同人」関係のドラマを、朝から晩までスタッフとして無休無給で怒られながら働かされるのだ。本当に悔しい。なぜ僕なのか。僕は僕でドキュメンタリー番組をつくっていて、それで手一杯だというのに。

 地区大会は、「彼女」の朗読が 1 位通過、「その女子」のドラマも 1 位通過、そして僕がつくったドキュメントは 2 位 ( 数校中 )だった。もううんざりした。何度も言うが、これは怠惰な僕が原因なのは理解してほしい。だけれど「その女子」の自己中心的な態度に顔を真っ赤になるのを抑えるので精一杯だったのだ。

 地区を見事に通過した学校は全道大会へと進む。それを通過したら次は夢の NHK ホールだ。僕の学校は昔は全国の常連だったらしいが、近年は全道止まりだった。そのため、「彼女」と「その女子」は全道の壁を破れるのではないかと顧問たちから期待されていた。

 大会前、僕はあのドラマを呪った。全国には行ってみたかったけれど、他人の人生を蹴り飛ばしてまで創った作品で全国大会出場など心が許さなかった。何度でも言うが、その女子は普段から他人の悪いところ、ネットに同調する社会のバッシング、お金に貧しい家庭なのに自分でお金を使いまくるのに「お金がない」と周りに向かって騒ぐ。ある時精神疾患を抱えていると教えてくれたが、正直言い訳にしか聞こえなかった。

 僕もネットの診断で ( 所詮ネットだが ) うつの傾向があると何回も言われた。一度学校に行きたくないと親に泣きながら行った所、一日休んでまた行け。ただし勉強はすること、と言われるだけであった。きっと病名をつけたら批判の的になるという配慮だろう。

 自身も精神疾患が疑われる立場から物申すと、厳しいようだがその人にどんな症状があっても周りに迷惑をかけてはならないと思う。もしかけざるを得ないなら、まずポジティブな心。そして、感謝の気持ちを忘れるな。動作一つでその人の印象はかなり変わる。

 僕は「その女子」にいつも振り回されたから、「彼女」についていけばよかったと思っている。悪いことがあってはじめて彼女の良さに気づけた苦すぎる恋の話でした。ちなみに大学は同じではなく、しかも本州に行くそうで。