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言葉使い

 作詞家は言葉をたくみに扱うことができる、予想の斜め上という言葉がよくあてはまる職業である。普段使わない言葉の組み合わせを用いることにより、曲を聞き流している人に対して驚きと感動を与える。

 人は予想外のことが起きると感情が発生する。目の前にいる人が明日には会えなくなると切なくなり、泣く人もいる。おかしなことがあれば笑う。そのような心理学に近い分野に精通していなければ上質な歌詞をつくるのは難しそうだ。

 メッセージ性が強い、とはどのようなことを指すのか。一つに共感があげられる。実は、人間は過去の記憶をゴミ箱に捨てているわけではなく、古びた鉄の扉のような固くて開かない場所に封印している。それも似たようなことがあれば魔法がかかったようにその記憶だけがすっと取り出されるのだ。これは「予想外」の出来事、本来は起こり得ないことなので人の感情が揺らぐ。

 映画やドラマでよくある回想シーンで、映像にはネピア調のフィルターがかかり、音声にはエコーがかけられる。これは現在と過去を切り分けるために使用するが、これは過去の呼び出しを促す効果もあると思う。色あせたものは年代物を意味するから、脳は過去という情景でいっぱいになる。そしてエコーが「かかった」せいで、その言葉が頭から離れなくなる。これで魔法にかかり、過去の出来事が思い出されて感動するのだ。

 一方、ショッキングなことは別の「予想外」にあたる。良い意味では日本のラグビーチームが南アフリカを破ったことが例にあげられる。ほとんど注目されていなかったが、誰も見ていない中でリーチ・マイケル率いるチームは強豪を撃破した。これは共感とは違って過去の経験がないが、あまりにも強烈な出来事だったため、脳が特別なことだと認知して強く記憶に残ると思う。言うまでもなく、悪い意味では震災である。

 これが面倒なのだ。きっと競争が激しいのだろう。歌詞は人々の記憶に「強く」残そうとありとあらゆる手段を用いて脳を刺激してくることがある。行き過ぎた例では不適切な暴力的な言葉だろう。「日本死ね」は理由があって「死ね」と言っていたわけだが、少しからかわれただけで「死ね」というのは大間違いだ。ちっとも建設的な会話ができていない。この傾向は動画投稿サイトのいわゆるユーチューバーにも一部見られる。大金を使えばいいのか?取り扱いが極めて難しい政治に素人が物申して炎上する?はっきりいって下衆だ。ゴールデンタイムのバラエティ番組ばかり見ているからそういうのが面白く思えるのだろう。もう少し高度な話題を使えないのものか。