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センターシュミレーション【一日目】

 目はぱっちりと午前 2 時に開いた。寝なさすぎも良くないからごろごろして、なんとか 6 時まで耐える。カレーの匂いがするから、理性よりも先に体が僕を引っ張る。

 食事は「いつもの」がちょうどよい。張り切って作った豪華なものも、緊張しているお腹には相性が悪い。いつものウインナーカレーが幸せだ。お母さん、いつもありがとう。

 前日に準備していたつもりが、かなり抜けていた。バスの運賃。チョコレート。ティッシュ。出発 10 分前に気づいてどたばたしたので、結局小走りでバス停に向かうこととなった。他の受験生はいなさそうだった。

 バスに乗って、定期券を読み取り部にタッチ。しかし、今日は何も反応がなく首を傾げていたところ、運転手さんが、不調なので整理券取って乗ってくださいーというから、ああそうなのかとぼんやりと思って混んでいる中相席で座らさせてもらった。

 寒いけど、手袋はしたい。やっぱり液晶パネルに反応する手袋をしていけばよかった。いちいち脱ぐのに時間がかかるし、寒い。外はマイナス三度だ。真冬ほどではないけど道民でも寒い。カイロを貼りたくなる気持ちはわかる。

 緊張をほぐすために、久しぶりに iPod で音楽を聴く。ずっと Spotify に浮気していたもんだから帰りを心配した母親みたいな目を向けられている気がした。やはり音楽は聴いていたほうがよい。よいしか言ってないけど、よいを重ねたらよい結果が出る気がするのだ。

 会場についたのは一時間前だった。まだ十人程しかいない。そんな中でも音楽を聞き続けて、精神統一をはかる。なんとか持ってきたチョコレートの効果は絶大。頭がしゃきっとして、試験を受けるぞー!おー!って気持ちになった。

 社会、国語、英語と文系科目をこなしていき、帰りは 17 時台だった。暗い中風とともに雪が降り、追い出しをされているようだった。山のてっぺんにある会場の地面はつるつる。親が迎えにきてくれたが運転は慎重にしていたらしい。一人でさくさく歩く同級生に手を振り、ちょっと前に出発した駅前行きのバスを追いかけるように車は発進した。


 全体を通すと、時間の余裕、はかなり重要だと思った。ギリギリで会場に来た子は顔を真っ赤にしていた。話し声もうるさいし、もう少し空気は読めんのかといつまでも陣取っているおじさんのような感想が浮かんだ。集団としての機能が薄れて個人中心の社会になっていくんだろうけど、どうも僕は人と気が合わない。まだ村八分を避けて誰かと同調して生きていたほうが自分らしい気もする。そんなことを帰り道に考えていると自分が惨めに思えてきた。明日もあるんだから、しっかりと気合を入れて頑張ろう。

 ちなみに自己採点はしない。問題用紙が回収されているからそもそもできないんだけど、本番もしない。良かったにしろ悪かったにしろ、次の日に影響が出るのは間違いないからだ。