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囲む霧

 先を見越せないと不安になる。初めて見る試験の問題。思ったより読みづらくて、あらかじめ区切った時間内で終われるか心配になり、全力を注げられないかもしれない。数学でも計算ミス防止と効率化がせめぎ合って意識を仲介する手が震える。後から考えればすとんと腑に落ちるものも、時間と戦っていると判断力が鈍くなる。

 好奇心で、冬の富士山に挑戦した生配信の切り抜きを見た。左手には空と、少し下に雲が見える。もっと内側を歩けなくはなかったと思うが、雪が深く積もっていたせいか斜面すれすれを歩いている。視聴者からはやめとけといったコメントも散見されたが、構わず主は際を進む。柵がなくなった時、ぞっとした。斜面は曰く 30 度ほどあるらしい。

「あ、滑る」

 画面が下へ下へと進んだ。最後に見えた青いストックがなんとも悲しかった。

 頭にモヤがかかった状態だと、こういうことも起こってしまうのだなと思いたいが、何だか他人事のようで頭が発言を許さない。好奇心って怖いな、とただ感じる。

 僕はこれまで好奇心で人は行動すると大口をたたいていたが、そんなひとことで済ましてよい問題ではなかった。ちゃんとセーブできるようになっている。だから生存競争に勝った人間がここにあるというのを忘れていた。

 このことを簡単に説明してはいけないし、僕が口出しする内容でもない。でも変えなくちゃと思う。それがよく分からない。

 無謀すぎた。けれど、多分彼なりに頑張った成果で、これが正しいと思って進んでいたんだと思う。空回りなんかじゃない。閉山中に登ったことは問題だけど、どうして途中で諦めようとしなかったのか。彼の心が太かったからか。何でも真面目に頑張る同級生を思い出してしまう。

 気安く「これを教訓にして……」など、とんでもない。彼を尊重した言葉が必要だが、彼の努力と最期に格差がありすぎて顔から感情がなくなる。

 こんなあっけなく死んじゃ駄目だった。もっと幸せになってほしかったな、とオブザーバーの僕は思う。生放送主もはじめて聞く方だったし、彼のツイッターによると持病もあったそうだ。「努力は無駄」とかそういうことではない。無駄なんかじゃない。無駄なんかじゃ……。

 彼と思われる遺体は見つかったそうだが、傷がひどい状態だったという。悲しすぎる。でも、発見されて良かったなと思った。このまま雪に埋もれてエベレストに代表されるふうに放置されずに済んで、まだ救われたのかなと思う。どうかゆっくり休んでください。

 

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 最後に、この文章を読んで不快になられた方がいると思います。ごめんなさい。心がとても動かされて、思わず記事を書いてしまいました。多分、あとから見返したら不謹慎な内容ばかりかと思われます。本当に申し訳ありませんでした。