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母は衝突父は路肩、そして僕はダッシュした

 アンラッキーとはこのこと。我が家の災難が一度に押し寄せてきた。

 父の趣味は「ポケモンでGO!」らしい。そんなアーケードゲームはないと思うが、マイカーに乗り毎日弟を引き連れ街中を巡回しているそうな。そんな父が職場にでかけた。十年以上も同じ道を走っているからできる業である。

 一方母のスマホは弟に取られかけているから、対抗策としてポイントカードを持っている。毎朝 7 時になると真っ先に青看板のコンビニに向かう。携帯電話会社からのポイントで、どうやら新商品が安く買える手段があるらしい。さすがベテランだなと思っていたが、そんな母がコンビニの駐車場に入ろうとしたときだった。

 対向車線のトラックが母より先に出ようとしていたらしい。物珍しかったのか母はトラックに見惚れてしまい、一切のものが見えなくなってしまった。トラックが出ると母の車は駐車場へ侵入。そんな時、影に隠れていた別の車が母方へ向かっていたのだ。

 ヒヤリハットである。相手の車が止まってくれたから幸いにぶつかることはなかったが、母はもう少し周囲を見渡すべきだった。運転手がイケオジだったとしても。

 もう、我が家には車は 1 台で良い気がする。運転中、父はポケモンのことで頭がいっぱいだったらしい(、ということにさせてくれ)。ぼんやりとしていると、何か横から音がした。慌てて気を取り戻すと、少し位置が左寄りだった。車の半分は歩道に乗り上げているようにも見えた。うん、そういうことなのだ。

 さすがの父も懲りたようで、気をつけるとは言っていたが、今夜またしても自分(?)探しの旅に出かけていった。懲りてないじゃないか。

 これだと僕の親が恥ずかしく見えるので、自分の話もしよう。学校での出来事がきっかけだった。

 2 時間続きの体育の授業があった。体育館じゅうに重い音が響き渡っていた。部活の子が中心となりチームをつくり、背丈よりも高いかごにボールを入れる技術を磨いていた。

 僕はもう体育をしたくないと思った。バスケはむしろ好きなのだが、世の中は厳しい。皆で楽しめる体育なんてなかったんだ。練習したかいがあって、負け越しの僕らのチームは、今日は善戦した。バスケが弱い小生は交代でぱぱっと入れると聞かされてホッとしたが、結局ホッとしなかった。調子は良かったのに、バスケ部の子が試合に熱中していたせいで僕を交代することを忘れていたのだ。無事ピー、と試合終了のホイッスルが鳴る。柿ピーでも食っていたほうがマシだった。僕は世界で一番無駄な時間を過ごした。

 ムキになるとはこのことなのか。怒りを必死に飲み込みながらボールを片付け、ホームルームをやり過ごした。終わったら速攻ダッシュだ。走ればバスがやってくる、かもしれない。

 陽はまだ沈まぬけど、僕は走った。ズッ友なんていないけど。間に合わなかった。ブリュッセル。

 結局 1 km 走った。ヤケになっていた。バスは来ぬし、バスは来たけど満員だし、悔しくて、悔しくて走った。ようやく乗れた時には顔がつやつやになっていた。

 まだ僕のシェイクスピア劇は終わらない。乗り越えの時間がタイミング悪く、目の前で堂々と発車していった。ヤケがやけくそになった。デパートの地下に行き、穴場の料理店で焼きそばを頬張った。400 円で腹を満たせる良いところである。

 その足で塾へ行き、先日の自己採点をした。もうしていたけれど、早く帰りたいという気持ちがあった。ぶっきらぼうにその採点用紙を先生に渡すと、顔をしかめられた。

「低い。あまり勉強していないな?もっとちゃんとやりなさい!」

 僕のフィルターを通してこう聞こえた。普段は笑っている人なのに、今回は真面目そうな顔をしている。目をそらすために分け目が目立つ髪に注目していると、低いトーンで「さようなら」と言われた。これにはオウム返しで正解だったと思う。「僕は悪くない」。

 そんなこんなで、晩御飯もあまり箸が進まなかった。落ち込んでいた僕の事情を話すと、父から先程の話を聞いたというわけだ。まあ、家族だもんね。

 痛みも分け合った。