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取締役会資料がスタートアップ経営にもたらす意外な価値とは?

こんにちは、GCP Xの堀江(@RH_nage)です!

日常生活や旅行など、特に知らない場所を移動する上で、地図を活用して行動する(意思決定する)事は日常茶飯事だと思います。Google mapがない世界など想像できません。

更に、例えば集団で山登りすることを想像すると、集団で同じ地図を見て、目的地・行き方・所要時間などをクリアにすることが、必要不可欠なプロセスではないでしょうか。

僕はこの地図という概念が好きで、スタートアップ経営においてもアナロジーが効くと思っています。とりわけ、スタートアップ経営における共通の地図の1つとして取締役会資料を捉えてみることで、意外な価値がもたらされる、という話を書きたいと思います。

前職ではスタートアップ側として取締役会を運営する立場で、GCPXでは株主の立場で取締役会に関与しており、それらの経験も踏まえてまとめてみます。

※前提として考える取締役会の性質やスタートアップのステージ
・取締役会には法定決議事項の討議・意思決定やガバナンスなどの役割もありますが、本記事は経営会議としての取締役会を想定したコンテンツです
・特に対象となるのがアーリー~レイターあたりが中心です(それ以降ですと、よりコーポレートガバナンスの色合いが強くなっていくため)

そもそも取締役会資料はなぜ重要なのか?

取締役会資料と聞くと、毎月作成しなければならない少し面倒な資料、というネガティブなイメージを持っている方もスタートアップ側では少なくないかもしれません。そもそも取締役会資料はなぜ重要なのか?

SequoiaのPartnerのBryan Schreierが書いたPreparing a Board Deckという記事の中で以下のように記載されています。

十分な準備をする
取締役会の目的は、準備に費やす時間を最小限に抑えつつ、創業者として得られる価値を最大化することであるべきです。もちろん、準備を全くしなければ、取締役陣のフォーカスを維持するのに苦労することになります。
だからこそ、良いボードデッキが非常に重要なのです。

プレゼンテーションが取締役会の成功に大きく貢献するというのは、奇妙に聞こえるかもしれません。しかし、考えてみてください。取締役会の仕事は、アドバイスをしたり、問題解決をしたり、ベストプラクティスを補強したりすることです。これらすべてがトピックに沿ったものであれば、会社づくりのプロセスをガイドするのに役立つのです。
(翻訳文のみ掲載)

リードインベスターとしてVCから出資を受けているスタートアップは、そのVCの社外取が取締役会に参加するのが一般的です。VCの立場からすると、投資先との基本的なタッチポイントは取締役会などの経営会議が中心であり、この会議体の質如何で、VCとして出来る経営支援の質に直結してきます。「取締役会から創業者として得られる価値を最大化する」ためにも、取締役会資料の質を高める意義は十分あると思います。

取締役会における取締役会資料の果たす意義

取締役会は、経営におけるPDCAサイクルの最上流に位置するものでしょう。言い換えると、
①会社経営における重要な情報が報告され、
②その情報を元に議論をし、
③経営判断・意思決定をしていく場
です。

経営陣(含む外部投資家としての社外取)がこのPDCAサイクルを取締役会という会議体で行うためには、参加者が同じ地図の上、すなわち取締役会資料の上に立つ必要があります。 

この地図がないと、「有意義な議論に足る情報がそもそもが不足していて意思決定できない」、「一貫性がない場当たり的な議論しかできない」といったことになりかねません。そのような状態では、取締役会で経営におけるPDCAサイクルを回すことができず、スタートアップ経営の質が低下する事にも繋がります。


取締役会資料を十分準備して取締役会を運営すると、経営の質が高まる

逆に、取締役会資料のコンテンツを十分準備すると、経営の質が高まることにも繋がります。

社外取/VCから適切な経営へのインプットに資する
会社としては、知見・経験のある社外取/VCから適切なインプットを引き出さない手はないでしょう。そのためにも、会社側から適切なコンテンツを提供しないと、社外取として適切なインプットができない/表層的なインプットになってしまいかねません。

特に経験上、悪材料ほど会社から情報が出てこない慣性が働き、結果として、社外取が経営の実態を掴み損ねるケースが起こってしまいます。

心情的には、株主たる社外取が参加する会議において、きれいな姿・うまくいっている姿(だけ)を見せたくなるものです。

悪材料は出来るだけそう見えない見せ方をしたり、あえてハイライトせず埋もれさせたり、、なんてこともあるのではないでしょうか。一方、大抵そういうものは、後々更に悪くなった状態で顕在化していくものです。

悪材料を含む必要十分なコンテンツを議論のテーブルに上げることは、社外取からの適切なインプットに直結します。更に、それは目の前の経営課題に健全に向き合う取締役会の文化醸成にも繋がっていくでしょう。そのためにも、きれいな姿・うまくいっている姿(だけ)を見せたい欲を捨てる覚悟が時には重要です。

経営陣がステップバックして会社の状況を俯瞰できる
あるGCPの投資先の経営者が、「月に1回深夜に創業期からの投資家とディスカッションする機会を設けている。毎日プロダクトに向き合い続ける中で、ステップバックして考える非常にいい機会として、創業期からずっと継続している。」とおっしゃっていました。

経営陣はとにかく時間軸/粒度が多種多様なイシューに日々取り組んでいますし、時に短期的な/目の前のイシューにフォーカスしている事も多いと思います。一方で、ステップバックして会社の経営状況を俯瞰することで見える景色もあります。取締役会は毎月必ずあるので、ステップバックの良い機会として位置付けると良いと思います。

先に挙げたPreparing a Board Deckという記事の中でも以下のように述べられています。

ボードデッキを準備することは創業者であるあなたにとっても大きくステップバックする機会になります。これは非常に重要なことです。あなたがやらなければ、他の誰もやってくれません。

取締役会の準備は、自分自身を日々の生活から引きずり出し、月面に座って地球を見るように会社を見る機会として扱いましょう。
・あなたは実行していますか?
・あなたはイノベーションを創出していますか?
・採用していますか?
・経営チームを構築していますか?
・顧客基盤を成長させていますか?
・あなたが最後に打ち出した計画に沿って実行していますか?
・そして、その計画はまだ十分に勝てるものでしょうか、それとも新しい計画と新しい目標が必要でしょうか?
(翻訳文のみ掲載)

特に、取締役会「資料」として、言語化したコンテンツに落とすことに価値があると思っています。名著「イシューからはじめよ」でも、言語化について以下のように強調されています。

「人間は言葉にしない限り概念をまとめることができない。」
「言葉を使わずして人間が明晰な思考を行うことは難しいことを、今一度強調しておきたい」



冒頭ご紹介した引用にもあった「取締役会から創業者として得られる価値を最大化する」ためにも、是非ステークホルダーの力をレバレッジする目的で、また経営陣がステップバックする絶好の機会と捉え、取締役会資料の準備に向き合ってみてはいかがでしょうか。

経営状況が苦しい時に価値を発揮することも

少し別の観点で取締役会資料を捉えてみます。スタートアップ経営においては、会社の成長が停滞したり、何か雲行きが怪しくなる事も当然起こり得るでしょう。

こういう時は、普段静かな社外取/VCなどが詰めモードになったり、色んな参加者があーでもないこーでもないと議論が発散したり、こういう情報を欲しい、もっと経営会議の場でこういう議論をすべきだとか、方々からのインプットがバラバラで経営陣が困る、みたいな事が起こりうります。こうなると余計問題が悪化して、負の循環に陥ってしまうこともあるでしょう。

心当たりありませんか?

資料をちゃんと作っておけばそうならないのか?というとそんな単純な話ではないと思います。一方で、常日頃から必要十分な情報を開示し、討議・意思決定をしていたのであれば、防げる余地もあるでしょう。山登りで道に迷ってしまったとしても、地図を見て現在地を把握し、戻り方に一定の目星がつけば、不安や混乱も低減します。

別の観点では、どれだけ説明責任を果たしていたのか、どれだけ経営努力をしていたかは、過去の取締役会を通じたコミュニケーションによってわかる/伝わるものだと思います。

まとめ

一定の質の取締役会資料をもって取締役会が運営されると、意外と中長期で経営のPDCAサイクルの向上に貢献し、スタートアップ経営にじわじわと効いてきます。

忙しくて取締役会資料の準備に時間をかけれない、というのが実態だと思いますし、必要以上にかけるべきではないと思います。一方で、その手間を上回るだけの価値も同時にもたらすものだと考えており、是非一歩コンテンツを深めてみてはいかがでしょうか。

取締役会資料の設計思想につづく

取締役会資料の価値の概念的な話を書きましたが、じゃあそれを実現するためには具体的にどう資料を設計していけばよいか?が次のトピックです。少し長くなるので、次の記事で続きを書きたいと思います。

GCP X堀江
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