中国市場動向:リモートワークアプリにおける、アリババとテンセントの覇権争い
こんにちは、GCP Xの堀江です!
with コロナ・afterコロナの環境をいち早く経験している中国における、スタートアップ・インターネットサービス関連のトピックを取り上げるシリーズです。
前回はVR/AR関連サービスについて取り上げました。
今回はZoomに代表されるような「リモートワークアプリ」を深ぼっていきたいと思います。特にコロナ環境下で爆伸びしている印象があるこの領域。中国では、実はあのアリババとテンセントがそれぞれ提供している2大アプリが覇権争いをしているように見受けられます。
※中国関連情報は、言語的なハードル及び情報が玉石混交でファクトが抑えずらい性質を持っているため、必ずしも正確な情報ではない可能性があること、予めご承知おきください。
はじめに:直近のビジネスカテゴリーにおける人気iPhone appはリモートワーク系が独占
さて、突然ですが直近の中国で、iPhone appのBusiness Categoryで、ダウンロード数Top3は何だと思いますか? 気になったので、こちらのサイトで調べてみました。
少し見にくいですが、アリババとテンセントのリモートワークス関連サービスがほぼ独占しています。
緑:Ding Talk (アリババ):リモートワークプラットフォーム(詳細後述)
青:WeChat Work (テンセント):同上
赤:Tencent Meeting(テンセント):要すればZoom
※対象期間:2020/2/28 - 2020/5/27
ちなみに、気になったので日本とアメリカも調べてみたところ、両国とも以下が独占しています。
1位/緑:Zoom
2位/青:Google Meet
3位/赤:Microsoft Teams
※対象期間:2020/2/28 - 2020/5/27
日米中、コロナ禍によってリモートワーク関連サービスが爆伸びしているのがよくわかります。
現在、中国におけるリモートワークの2大アプリ、アリババのDing TalkとテンセントのWeChat Workが上位を独占しています。
アリババといえばEC、テンセントと言えばWeChatやゲームなど、両社ともToC領域のメガプレイヤーという印象かもしれませんが、To B領域でもメガプレイヤー級の存在感があります。
更に、単なるリモートワークアプリ留まらず、ソーシャルコマース(※)領域まで一気通貫しているサービスであることが見えてきました。
※ソーシャルコマース
ECにおけるマーケティング手法の一つ。SNSやブログなどのソーシャルメディアを活用して商品やサービスを訴求する。従来の口コミと異なり、SNSなどは友人や知人、もしくは共通の価値観を持つ人からの情報となるため、その信頼度や影響力を活かして販売促進を行う。
インテージより
中国におけるリモートワークの2大アプリを深堀りながら、その意味合いを考察していきたいと思います。
中国における2大リモートワークアプリ、WeChat WorkとDing Talkの概要
2つのアプリの基本機能は、一言でいうと、以下のようなリモートワーク関連機能の殆どを網羅する全部乗せのスーパーアプリです。
2大リモートワークアプリの基本機能と類似サービスイメージ
・チャット:slack/Teams
・ビデオ通話:Zoom/Google Meet
・スケジュール管理:Google calendar
・ドキュメント管理:Dropbox/Google Drive
・タスク管理:Atlassian
・ワークフロー:ERP系
・勤怠管理:ジョブカン
リモートワーク関連機能でいうと、細かい違いはあれど2つのアプリに基本機能に大きな差はない、という印象です。
強いて違いを挙げると、Ding Talkのほうが、より経営管理やワークフローのデジタル化といった、オフィスワーカー向けの手厚い機能を持っている印象です。例えば、休暇申請などへのワンストップのモバイル申請承認機能、テレワーク時の勤怠状況を記録するオンライン勤怠記録、コロナ禍における日々の健康状態レポーティング機能などです。
圧倒的なユーザー数
公開情報ベースのユーザー数関連の定量的情報を見てみます。
WeChat Work(テンセント):
・2019年末のユーザー数は6,000万人で、250万社が使用している
・2020 年 1 月 1 日から 2 月 21 日まで、DAUは562万から1,374万人に増加
Ding Talk(アリババ)
・2019年6月時点のユーザー数は2億人を超え、1,000万社が使用
・2020 年 1 月 1 日から 2 月 21 日まで、DAUは2,610万から1.5億人に増加
ソースはこちら
WeChat Workに比べてDing Talkが、特にDAUでケタ1つ大きいのは、学生(学校で)に使われているからだと考えられます。
また利用社数もDing Talkの方が約4倍多いですが、これはアリババが運営するECサイトの店舗経営者をユーザーとして抱え込んでいるからと考えられます(参考)。
両者の戦略的な注力は、リモートワーク機能を超えたソーシャルコマース観点での提供価値
2つのアプリは、それぞれベクトルは異なりますがソーシャルコマースの観点での提供価値が存在するのではないか、と考えられます。要すれば、自社のマーケティング・プロモーションを行うプラットフォームとして、このリモートワークアプリが機能しているイメージです。
理解を深めるための中国人の消費行動の特徴
前提としてのソーシャルコマースの理解のために、中国人の消費行動の特徴を念頭におくと、解像度高くイメージできると思います。
・中国市場は日本以上に口コミが重要視される文化。日本と比べて偽物や粗悪品が多く流通しているため、様々な情報を元に信用できる商品か見定める必要がある
・ また、中国当局の規制管理下に置かれているマスメディアが、信憑性に欠けているという考え方から口コミ文化が発達したとも言われている
・ 知り合いに推薦された製品を好んで買う傾向にあり、中国での販売にとってソーシャルメディアの重要度は増している(ライブコマースが急成長していたり、強力なインフルエンサーが売上を上げるのもこう言った背景だと思料)
・ 従い、微博(Weibo)や微信(WeChat)などのSNSを介して商品を見つけ、ECで購入することが多い
前置きが長くなりましたが、ソーシャルコマース観点で、WeChat WorkとDing Talkをみていきます。
WeChat Workが可能にするToC向けプロモーション
運営会社のテンセントはWeChatという巨大なToC向けアプリを展開しており(≒LINE)、WeChat WorkとWeChatの連携による、プロモーション機能(Moments)が存在しています。
イメージとしてはLINE公式アカウント(旧LINE@)が近いかもしれません。Momentsは、WeChat Work上で同僚だけでなく、一般のWeChat ユーザーともメッセージをシェアできる機能で、昨年12月にリリースされたものです。
例えば、あるハイブランド製品を取り扱うセールスパーソン(WeChat Workユーザー)が、個人ユーザー(WeChat ユーザー)とアプリ上で繋がり、商品に関するコミュニケーションをアプリ上で出来るというものです。
更に、すべてのセールス活動はダッシュボード上に蓄積されていき、いわゆるCRMツールとしての機能も持っています。参考記事
WeChat Workに対抗して、Ding Talkも新機能をリリース
2020年2月にDingTalk 5.0を発表し、ソーシャルコマースに資する圏子/Circleと呼ばれる機能をリリースしています(WeChat Workに対抗した機能、と言われています)。
平たくいうと、facebookのグループのような小規模のコミュニティのSNSを作成する事ができ、双方向性のあるコミュニケーションができる場所です。
Circleの概要
・ Momentsと同様に、Circleでは、組織や企業がソーシャルメディアの投稿に対してプライベートcircleを作成し、メンバーの投稿に「いいね!」や「コメント」をつけることができるようになる
・ circleには、目的やユーザーに合わせた、大きく4つのタイプが存在している。
①企業や組織とそのメンバーを対象とした「社内交流」
②先生や学生を対象とした「オンライン教育」
③ビジネスパートナーを対象とした「ビジネス交流」
④ファンを対象とした「コミュニティ運営・管理」
・ 企業内での社内利用だけではないという。ビジネスパートナー、学生や教師、プラットフォームや企業/小売店、ファンも自分のサークルを作成することができる。
・ 例えば、学校の先生もcircleを使って宿題やお知らせ、写真などを投稿することができる。そして、アリババのタオバオのようなプラットフォームは、同社のECプラットフォームで販売している小売店と一緒にcircleを作ることができる。
元々Ding Talkではタオバオ(アリババのECモール)と連携し、WeChat Workのように顧客とチャットのような双方向型の交流が出来る機能がありました。そこに、さらにSNSの要素を入れたのがcircleだという位置づけと理解しています。
Circleのイメージ
これはYOUKUというアリババ子会社の動画サービスで、Netflixやyoutubeに近いイメージです。タイムライン的な所に新しいMusic Videoが出たよ!とポストして、いいねやコメントが来ているシーンです。
なお、インターネット上の公開情報をリサーチしても、まだそこまで多くの事例や記事などはなく、リリースが今年2月だったこともあり、まだ発展途上なのかもしれません。
ソーシャルコマースが中国人の消費行動に根差したプロモーションのありかたで、それを(個人ではなく)企業として実現するためのプラットフォームとしてリモートワークアプリが機能していると考えられます。
2大アプリの現状から考えられる意味合い
当初は単なる高機能リモートワークアプリだと思って色々と調べていましたが、深ぼるとユニークな側面が見えてきました。と同時に、いくつか日本の起業家/スタートアップ経営者にとっても意味合いがありそうです。
To Bのスーパーアプリ化の加速
日常生活のあらゆる場面で活用できる統合的なアプリをスーパーアプリと称し、特に先行事例として、今回取り上げたテンセントのWeChatとアリババのAlipayが有名です。国内においてはソフトバンク/ヤフーのZOZO買収、LINE統合などで、和製スーパーアプリが出てくるかもしれません。
これらは基本的にはTo C領域ですが、To B領域でもスーパーアプリ的な流れが加速するかもしれません。テンセント・アリババは、既存のTo C領域のプラットフォームというアセットをレバレッジして、To B領域でも急速に成長しています。
今回の記事で取り上げたように、リモートワークアプリ/サービスは、親和性のある別の領域まで統合されるプラットフォームに収れんされていく可能性を感じます。
この記事のためのリサーチをしている中で、 AmazonがSlackと連携したというニュースが飛び込んできました。
こういった動きを見ても、今後GAFAMによる、機能特化スタートアップの買収/提携などが加速して、リモートワークアプリ領域でも、彼らがDing TalkやWechat Workのような統合されたソリューション化していくかもしれません(まあ、G Suiteは既にそれに近い部分はありますね)。
日本では米中のメガプレイヤーに飲み込まれてしまうのか
冒頭紹介したアプリランキングでも上位3は全てアメリカのアプリでした。国内においても、米メガプレイヤーによるドミナント化が進むのか、、iPaaSやAPI連携によって機能特化のSaaS群が合従連衡していくのか。
はたまたWIth/Afterコロナのオフィスワーカーを支援するサービスを展開する新しいスタートアップが誕生していくのか。
日本にもリモートワーク関連の素晴らしいスタートアップが沢山あります。コロナ禍でのゲームチェンジを好機と捉え、米中に負けない産業・サービスを期待したいですね!
GCP X堀江