中国市場動向:コロナ環境下でより威力を発揮するVR/AR関連サービス
こんにちは、GCP Xの堀江です。
with コロナ・afterコロナの環境をいち早く経験している中国における、スタートアップ・インターネットサービス関連のトピックを取り上げるシリーズです。
初回はこちらでした。
予防・流行制御関連のサービスを前回の記事に挙げましたが、今回はコロナ環境下でより威力を発揮するVR/AR関連サービス、という観点で見ていきたいと思います。
※中国関連情報は、言語的なハードル及び情報が玉石混交でファクトが抑えずらい性質を持っているため、必ずしも正確な情報ではない可能性があること、予めご承知おきください。
Topics ※2020年5月8日時点(前回より微修正)
1. コロナ環境下における予防・流行制御関連のサービス
2. コロナ環境下でより威力を発揮するVR/AR関連サービス(本日の内容)
3. オンラインオフィス関連サービス
4. インドア経済(宅经济) 関連サービス
VR/ARといえば、ゲーム等のエンターテイメント関連のユースケースが我々に最もなじみのある領域ではないでしょうか。少々古い情報ではありますが、2021年にはVR/AR市場規模は12.4兆円に達し、ビジネス領域としても、ハードウェアセールスだけではなく、広告・eコマースなど新しいビジネスモデルを生んでいくと予想されていました。
日本における肌感覚としては、まだまだVR/ARのビジネスへの活用の広がりはまだ先だなと感じる一方で、with コロナ・afterコロナ世界で特定の領域で一気に加速する可能性を感じるトピックをご紹介します。
不動産の取引での活用
贝壳找房(中国版レインズ(民間企業)のイメージ)は、AIのデータベースを利用し、不動産情報などに関する、オンライン不動産取引の一連の流れを可能にするサービスを提供しています。
サイト上では物件の閲覧が中心で、アプリでは以下詳述のサービスを提供しています。
①AI讲房:TTS(音声合成)技術を活用して、間取りや日照、アクセスの便利さ、マンション団地などの部屋の情報について、AIが実際の音声で説明するなど、AIが不動産仲介人の役割を果た
②VR看房:内見をVR技術によりアプリ視聴可能に
③内装设计:400万件の不動産物件や10万件の内装デザインのデータや顧客のニーズを元に、AIによるVR内装デザインサービスを提供
驚いたのが、コロナ環境下におけるそのトランザクションの増加です。
・2018年にVRサービス(アプリ)がスタートし、今年2月のVRテープの視聴数は1047万回と、1月と比べて34.6倍増加
・VR販売部門で初めてオンラインでオープンしたプロジェクトとして、西安市のある地域の住宅団地の販売において、VR販売部門は200人以上の住宅購入アドバイザーと1万人以上の仲介業者をオンラインで接続し、5,766組以上のオンラインVRツアーを開始
・ 販売開始からわずか8分16秒で1,068セットのオンライン購入申し込みを記録達成
日経産業新聞の記事にも、別の会社の同じような事例が紹介されています。
VRによる内見などそれ自体は新たしい概念ではないと思いますが、それはあくまでオフラインでの購入の補助ツール的な役割だったと思います。(コロナ環境下とはいえ、)実際の購入/申し込みまでVRを駆使してオンラインで実現したというのが大きなポイントではないでしょうか。
更に、贝壳找房のアプリでは、AIによるVR内装デザインサービスも提供しています。ユーザーが「北欧風内装、紺色、一人暮らし」などのキーワードを設定すると、AIが自動的に内装のデザインを提案してくれます。
贝壳找房は、物件購入後の住宅設計やリフォーム/リノベーション領域までバリューチェーンを拡大し、賃貸、中古住宅取引、新築住宅購入などの分野において、包括的なデジタルオンラインプロセスを実現を目指しているのだと推察されます。
with/after コロナの世界において日本においても、これまでなかなかオンラインのみでの取引が実現しなかった不動産取引が、VR/ARの技術を使って加速するかもしれません。
医療現場での活用
医療現場においても、VR/ARをコロナ環境下で活用されている事例があります。
VR活用
2月24日、昆明医科大学第一附属病院で以下のようなVRシステムが感染現場の医療を支えるシステムとして紹介されています。
5G+VRリモート診療/訪問システム
病室の患者をVR空間で遠隔診療することを可能にするシステム
・情報の同時同期による感染症対策:システムにより、VRヘルメットを装着した医療従事者が、パノラマでの病室訪問や患者の遠隔診療を実現し、感染症のリスクを減らすことが可能に
・8Kパノラマ、VRビデオライブストリーミングなどの技術を組み合わせ、5Gネットワークの高帯域と低遅延の特性を利用して高精細リモート診断を可能に
・同時に、家族もスマートフォンなどでシステムにアクセスし、入院患者の状況把握や医師の診断内容をを聞いたりすることが可能に(患者のニーズに応じて訪問システムをオフにすることができる双方向シールド機能も具備)
AR活用
次はARの活用として、感染現場の医療を支えるシステムの具体例として紹介されているのはこちらです。
肺炎患者向けAR診察システム
・雲南省昆明医科大学が中国联通(中国聯合通信:中国政府によって設立された中国通信業者)、亮风台(ARプラットフォーム)との提携で提供している新型肺炎オンライン受診サービス
・コロナに関してはこれまでの臨床では前例がなく、専門医が不足する中で、別の病院の患者を別の病院の専門医が遠隔で診療することを可能に
・AR技術によって、3次元で実際の臓器を再現し、臓器の形状、大きさ、微細構造を見ることで病変の縁、柔膜、直径などがはっきりとわかる、立体的で直感的な状態把握を実現
これらの例は、より質の高い医療サービスの提供や、物理的な距離の制約を超えた診療という側面だけでなく、医療従事者を感染拡大から守るという側面もあります。
with/after コロナの世界において、この医療従事者自身を守るというインセンティブ構造が、この例のような最先端の医療機器の導入を促進し、医療現場のDXが加速する材料になるかもしれません。
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最後に
以下のような事が考えられるかもしれません。
・with コロナ・afterコロナの世界において、これまでオンライン化が進んでいなかった領域のオンライン化のスピードが格段に上がる可能性
・そのトレンドの中で、VR/ARの活用によって、UI/UXを深められる・オフラインUI/UXをオンラインで再現/補完できるようなサービス領域については、オンライン×VR/ARの浸透が加速する可能性
・また、5Gにより4Gをはるかに凌ぐ高速・大容量・低遅延の通信が可能になり、VR/ARの浸透のサポート材料になる(参考:矢野経済研究所の調査)
上記のような可能性を鑑みた時に、VR/ARの技術を取り込む事によって新たに生み出せる付加価値はどのようなものがあるでしょうか。
コロナ環境下においてネガティブなニュースが続きますが、これを契機としてテクノロジーによるイノベーションやその社会実装が一気に加速する事を期待したいですね。
GCP X 堀江