迷いの森
「なんだろう、この液体は…?」
いつもの様に週末の行楽を終えて家路に着いた時、ふと来た道を振り返ってみると、それは落ちていた。
アスファルトの中心できらりと光るその物体は、ちょうど握りこぶしくらいの大きさで、こんな人気のない真夜中でも、異様なほどの新鮮味を帯びていて、兎にも角にも不気味な光景だった…。
もし、それが何者かによっての行ないだとしたら、いったい誰によってなのか。
おそらく真相は、闇の中でたった今眠ったところだろう。
立ち止まった私は、それを手に取ってみた。
「青い…!?」
犯人はきっと外来種で、体内から油を噴き出してしまう様な生態系のヤツに違いない。最初はそんな風に思っていた。
しかし、そこに落ちていたのは、私の知らない未知なるものだった…。
それは、少し粘り気のある粘液で、そして何よりも青み掛かっていた。街灯の明かりに照らされたその生彩に富んだ青色は、美しくもあり、まるでどこかの異世界にでも通じている様な、魔術的魅力を放っていた。
そういえば昔、風の噂で聞いた事がある。
その油とはまた打って変わって、ある特殊な体液を吹き出す、そんなモンスターがいるというのだ…。
「何か嫌な予感がする…」
徐々に雲行きが変化し始めたのは、その時からだっただろうか。それまで良好だった視界の前に突如として森が現れたのだった。
この森を越えなければ、あの水晶には辿り着けない。
入り口の脇にいるはずの番人は今日はいない。それは、私がここに来るのが初めてではないからだろう。
右手に杖、左手に炎、そしてある呪文を唱えながら、暗澹たるその魔境を目差すべく、再び動き始めるのだった。
「火よ、我と共に進め」