フィギュアのジャンプと角運動量保存とエネルギーに関する覚書。

 フィギュアスケートで回転ジャンプをする際に、空中で回転する選手の慣性モーメントを$${I_1}$$、角速度を$${ω_1}$$とすると、角運動量は$${I_1ω_1}$$と書けます。ここで、手を開くと、選手の慣性モーメントが変化し$${I_2}$$となります。この時の角速度を$${ω_2}$$とすると、角運動量は$${I_2ω_2}$$と書けます。

 フィギュアスケートの選手が空中で受ける外力は重力のみなので、重力の作用点である重心を通る回転軸周りの運動量は変化しません。したがって、空中では選手全体の角運動量は保存するので、

$$
I_1ω_1=I_2ω_2
$$

となります。これを変形すると、変化後の角速度は、

$$
ω_2=\frac{I_1}{I_2}ω_1
$$

と得られます。

$${I_1>I_2}$$ならば、$${ω_2>ω_1}$$となるので、手を閉じるなどして慣性モーメントを小さくすれば、角速度が増えます。
一方で、回転のエネルギーについて計算すると、変化前のエネルギーは$${\frac{1}{2}I_1ω_1^2}$$であり、変化後のエネルギーは$${\frac{1}{2}I_2ω_2^2}$$となります。変化後のエネルギーについて先ほど得られた角速度を代入して計算すると、

$$
\frac{1}{2}I_2ω_2^2=\frac{1}{2}I_2(\frac{I_1}{I_2}ω_1)^2=\frac{1}{2}I_1ω_1^2×\frac{I_1}{I_2}
$$

となり、これは変化前のエネルギー$${\frac{1}{2}I_1ω_1^2}$$と一致せず、慣性モーメントを小さくすることで回転のエネルギーも増える事が計算できます。

 この力学的エネルギーの増加の原因は何でしょうか?

 外力である重力の仕事は全て並進運動の運動エネルギーの変化になるため、回転エネルギーを増やす事はありません。回転エネルギーの増加は筋収縮による内力の仕事によるものです。これは筋肉に蓄えられていた化学エネルギーが筋肉の収縮を通して回転エネルギーへと変換されたと言い換える事が出来ます。二つのエネルギーの差は

$$
\frac{1}{2}I_1ω_1^2×(\frac{I_1-I_2}{I_2})
$$

 と計算できます。これは、慣性モーメントを小さくすれば小さくするほど大きくなる事を示しています。逆に慣性モーメントを大きくした場合にはこの値が負になります。(この時、筋肉がブレーキを掛ける事で回転のエネルギーは筋肉や骨格へと流入する為、筋肉や骨格は本当に微細なダメージを受けることになります)

 この様に人体の運動中には筋収縮に伴うエネルギーの変化がある為、多くの場合で力学的エネルギー保存は成立しません。