正統論争について思う事。


正統テコンドー

 正統性云々の論争とは無縁の様に見えるテコンドーも二大流派の1つであるITFテコンドーは「正統跆拳道」を標榜しています
 元々、テコンドーというのは韓国陸軍の崔泓熙将軍が韓国独立直後から自身の部下たちに指導していた武術の名前でした(当初は空手の名前を使い公にテコンドーを使い始めたのは1954年以降)。
 そして、崔泓熙将軍は民間の空手道場を統合してテコンドー道場と書き換えさせ、テコンドーの国技化を図ります。
 この時、テコンドーとして統合された民間の空手道場は勿論反発しましたから、テコンドーという名前でありながら従来の空手の稽古をするという歪な状態が続きます。
 この時の民間の空手道場の集まり(大韓跆拳道協会)が後々のWTFテコンドーへと発展していきます。
 日本では「世界テコンドー連盟(WTF)というのは創始者の崔泓熙がカナダに亡命した後にテコンドーを失ったために韓国が作った団体」とされていますが、実際には大韓跆拳道協会は60年代から崔泓熙の国際テコンドー連盟(ITF)と対立し、独自の技術体系を構築していたのです。
 その証拠にITFとWTFの両流派には重複する型が存在しません。空手の場合は別の流派であっても一部の型は重複している事を考えると、この対立は根深さを感じます。つまり、崔泓熙将軍はテコンドーの創始者ではあっても、WTFテコンドーにとっては命名者ではあるものの創始者では無いのです。
 そんなWTFテコンドーですが、1988年にはオリンピック種目になってしまいます。崔泓熙からすれば「テコンドー」の名前を盗まれた訳ですから、崔泓熙は生前、様々なセミナーなど公の場でWTFテコンドーを「偽物」として批判していた事が記録として残されています。
 
カナダ人テコンドー家Alex Gillisの著書「A Killing Art: The Untold History of Tae Kwon Do」の中では崔泓熙が空手と同様にWTFテコンドーに対する憎しみに満ちた言動が記録されています。
「(WTFの師範から学んだ修練者に対して)そのインストラクターの名前は知らない。偽物だ。今まで払った月謝を取り戻した方が良い」
「WTFの中身は空手と変わらない(テコンドーではない)」
「WTFの使い手は戦闘で命を落とす。自殺行為だ」
「(女性修練者に対して)WTFを学んだ男とは結婚するな。あいつらは武器を持たない(WTFの型には空手同様に金的を狙う攻撃が多い為、WTFを学んだ男は去勢されているという事も揶揄したダブルミーニング)」
 しかし、同時に崔泓熙は分断された朝鮮半島の統一と同時にテコンドーがITFテコンドーの技術で統一される事を夢見ていました。
 このような背景を考えると、ITFテコンドーの修練者が正統テコンドーを名乗ったりITFという名前に固執してWTFテコンドーとは別物である事を強調する理由が良く分かると思います。
 余談ですが、過去に私(WTF修練者)がITFテコンドー赤帯の若者と合同で自主練をした時に、やたらと上から目線でWTFを見下したような物言いをされた事がありましたが、創始者の言動を考えると無理もないし、本人には悪気は無いんだと思うようになりました。
 とはいえ、韓国ではテコンドーと言う言葉が文化圏の名前の様に用いられていて、XMAやKポップアイドルのテコンドーダンスなど実戦性・武術性の欠片もない場所にも幅広く使われていますから、そのあたりの節操の無さはITFテコンドー側からすれば不愉快だよなぁとも思うのです