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【格闘系レイヤー必見】素人感を消す回し蹴り講座(WTテコンドーのトルリョチャギの蹴り方)

 コスプレイヤーの皆様、こんにちは。
 このノートではWTテコンドー歴19年の根っからのテコンドーオタクの私が、綺麗に見せる蹴り方について説明して行きたいと思います。
 実戦で使える蹴りや相手を倒す蹴り方の話ではないのでお気をつけください。また、僕自身は日頃noteでは偉そうな事を書いてますが、選手としては大した成績も残せず、かと言って指導者になれる程の技量がある訳でもなく、twitterやnoteで机上の空論を垂れ流しているだけのオタクですので、こちらのノートはテコンドーオタクの一意見としてお読みいただけたらと思います。

回し蹴り(ミドルキック)って何?

 上の動画の様な蹴りを回し蹴りと呼びます(WTテコンドーではトルリョチャギと言います)。
 一般的にキックボクシングや総合格闘技などの格闘技では相手の腹を蹴る時はミドルキックと呼ばれ、顔を蹴る時はハイキックと呼ばれています。
 似た名前の蹴りで後ろ回し蹴りと区別をする為に、前回し蹴りと呼ばれる事もあります。
 動画は普通のテコンドーオタクに過ぎない僕のミドルキックです。
 ちょっと、これをベースに話をするには心もとない所が有ります。
 目の肥えた方々には「なんだ、この程度の蹴りしか蹴れない人間が書いたノートなのか。あてにならないや」と一蹴されてしまうでしょう。そこで、この蹴りを叩き台として、プロ格闘家のミドルキックと比べてみたいと思います。

回し蹴りのコツは上半身にあり

 まず、下の動画はムエタイの世界では伝説的な選手であるセンチャイ選手のミドルキックです。めちゃくちゃ凄い蹴りです(格闘技に詳しくない人は僕の蹴りをベースに比べてみると凄さが際立つと思います)。
 一度目はそのまま見て頂いて、二度目は設定で再生速度を0.25倍にしてスローで見てみてください。

 スローで見てみると、センチャイはミドルキックを蹴る際に、最初に上半身を大きく回転させているのが分かると思います。

 先ず、腕を振って蹴り足側の肩甲骨を前に伸ばし、軸足側の肩甲骨を後ろに引く事で最初に胸椎周りに回転(物理用語でいう所の角運動量)を作り、胸郭の回転で腰を引っ張る様にして腰を回しています。

胸郭。肋骨と背骨(胸椎)からなる。


 次に、蹴り足が床を離れて腰が回り始めたら、今度は最初とは逆に蹴り足側の肩甲骨を後ろに引き、軸足側の肩甲骨を前に伸ばす事で胸郭周辺の回転にブレーキを掛けて、腰から先の回転を加速させています。その為、スローで見ると蹴りのインパクトの瞬間、蹴り足側の腕は蹴りとは逆回転の方向に自然と流れ、軸足側の腕を中心に向かって絞っているのが分かると思います。
 インパクト直前に蹴り足側の脇腹を絞るように縮めると、胸郭が効率よく蹴り足を引っ張る事が出来るので、上半身で作った角運動量を効率良く蹴り足に伝える事が出来ます。

 この様に上半身全体を上手に使った蹴り方が綺麗な蹴りの条件になります。アクションやコスプレなどでカッコいい蹴りのポーズを決める際には、蹴り足や軸足の高さや角度などよりも、むしろ上半身に気を付ける事で素人感を消す事が出来ると思います。

二つ目のコツは蹴り足でしっかり地面を踏む事

 MMA(総合格闘技)のトップ選手で蹴りの名手として知られる朝倉未来選手のミドルキックも、センチャイと同様の上半身の使い方をしています。この上半身の回旋を支えているのが蹴り始めの時の下半身です。

 ここで、簡単な実験をしてみましょう。

 1 片足立ちになって、上半身を水平方向に半回転させてみる。
 2 両足を揃えて立った状態で、上半身を水平方向に半回転させてみる。
 3 両足を肩幅に開いて立った状態で、上半身を水平方向に半回転させてみる。
 4 両足を肩幅の1.5倍の広さに開いて立った状態で、上半身を水平方向に半回転させてみる。

 おそらく、4が一番上半身を回転させやすかったと思います。
 蹴りの回転を作るのは上半身ですが、上半身で角運動量を作る時には下半身がしっかりと地面を踏んでいる事が大切です。それでは、朝倉選手の下半身に注目して蹴りの動画を見てください。
 蹴り足が地面から離れて片足立ちになるまでの間に上半身が動き出して、回し蹴りの角運動量を作り出しています

 上半身で大きな角運動量を作るポイントはしっかりと地面を踏む事です。地面をしっかりと踏む事で、地面からの反作用(地面反力)を大きく得る事が出来ます。回し蹴りではこの地面反力(床反力)を上手く使うのがポイントです。
 しかし、軸足で強く床を踏む場合はその反作用が身体へのブレーキになってしまうため、特に蹴り足側で強く床を踏む事が求められます。
 動き出し始めた時から蹴り足が地面から離れるまでの間にしっかりと蹴り足で地面を踏んでください。
 ここでポイントなのは床を蹴るのではなく床を踏むという事です。(この踏むという言葉のニュアンス的には押すと言い換えてもいいかもしれません)
 かつて、WTテコンドーの一部の道場では足首を伸ばして床を蹴り、爪先を素早く地面から離す蹴り方をよしとする指導がされていました。しかし「テコンドーの前回し蹴りにおけるバイオメカニクス(木下、藤井)」によれば、実験の結果として足先で床を蹴る事で最初に蹴り足が床から離れた瞬間に蹴り足が速くなっていたとしても、インパクト時の蹴りの速さとは相関性が見られなかったと結論付けられています

 動画の朝倉選手の蹴り足に注目すると、膝関節の伸展が僅かしかないのが分かります。実は蹴りの際に蹴り足で床を踏むときに主に使うのは膝の曲げ伸ばしではありません。股関節を伸展させることで地面を踏んでいます。この時、膝の遊びが大きいと、股関節で踏んだ力がしっかり床まで届かないため、膝関節は固めて使っています。股関節の伸展には大臀筋やハムストリングスなど人体でも特に巨大な筋肉が関わっているため、股関節伸展を利用して床を踏む事で、大きな推進力や上半身の角運動量を得ることが出来ます。
 なお、この時に骨盤が後傾して腰が引けた姿勢になっていると地面反力をうまく得る事が出来ないので、床を踏んでる時には骨盤をしっかり立てるように意識しましょう。

股関節の屈曲と伸展

軸足の使い方+骨盤の回し方

 次に軸足の使い方について説明していきます。回し蹴りでは軸足も非常に大切です。

 具体的には、蹴り足で地面を踏み始めたら、軸足を浮かせて少しだけ前に出します。
 そして、蹴り足が浮き始めたら、軸足でしっかりと地面を踏んで膝を伸ばしてください。この時、踵をしっかり上げて母指球を軸に体が回転出来るようにしましょう。軸足を浮き気味にして母指球と地面が接する程度にすると体全体が抵抗なく回転出来ます。

 また、相手との距離によっては、軸足の膝を伸ばす際に片足ジャンプの要領で身体を飛び上がらせて軸足を前に移動させる事で長く蹴る事が出来ます。00年代以前のWTテコンドーでは、蹴り足の回転がコンパクトで振り回す蹴りのような威力が出せない分、上半身をしっかりと回して角運動量を作る事+軸足をスライドさせて前に出る推進力を使って体ごと相手に蹴りをぶつける事で威力を補っていました。

 さて、回し蹴りにとって重要と思われがちな軸足の回転ですが、無理に回し切ろうとせず、踵を上げておいて上半身で作った回転に釣られて自然に回るようにしておくのが良いでしょう。無理に踵を回そうとすると、軸足の膝に負担がかかってしまいます。
 怪我防止の観点から、基本的には膝とつま先は同じ向きを向くようにしてください(膝とつま先の向きが一致しない時に転倒するなどして大きな衝撃を受けると、膝の靭帯を痛めてしまい、最悪の場合では手術が必要で復帰まで半年以上掛かる大怪我に繋がる危険性があります)。したがって、軸足を180度回転させて相手側に思い切り踵を向ける場合は膝が必ず後ろを向くようにしてください。
 実用上、軸足を90度ほど回転させるだけで、膝さえしっかりつま先と同じく外側方向に向かせておけば、骨盤が自然と回り、十分に腰が入った蹴りになります。
 軸足と腰(骨盤)は無理して回そうとはせず、自然に任せるように回転させると良いでしょう。ただし、初心者の内は上半身で作る回転力が小さく、骨盤を回し切れなかったりします。その場合には意識して骨盤を180度回転させると良いでしょう。また、蹴り終わりに蹴り足を引いて戻す事を意識しすぎると、骨盤の回転が上手く作れなくなります。最初の内は蹴った足は前に下ろす様にするとよいでしょう。
 もし、それでも上手く蹴りのフォームがぎこちなくて、腰が入らなければではなくて背中を180度回転させる事を意識してください。背中を相手に見せる所まで回転させると腰が上手く回ります。

蹴り足の軌道は様々

 回し蹴りの蹴り足の軌道ですが、これは流派によってさまざまな考え方があります。例えば、伝統的な空手や少林寺拳法などの回し蹴りの場合には蹴り足を身体の横に抱え込んでから回す事で大きな軌道を描くので威力のある蹴りで相手を蹴る事が出来ます。

空手の回し蹴り

 一方で、WTテコンドーの前回し蹴りは蹴り足を身体の前方に抱え込みます。これにより蹴りの軌道は小さくなり相手に当たるまでの時間は短くなります。

WTテコンドーの回し蹴り

 また、同じテコンドーでもITFテコンドーと呼ばれる流派では斜め45°前方に蹴り足を抱え込んでおり、WTテコンドーと空手の中間の軌道を通ります。

 レイヤーの皆様は自分が演じるキャラクターが使用する格闘技や流派に応じて蹴り足の軌道を変えると更にリアリティが出て良いのではないでしょうか?

動画映えする蹴りについて

 ここまではポーズとしての蹴りを中心に話をしてきました。つまり、静止画映えする蹴り方に注目してきたのですが、動画映えする蹴りと静止画映えする蹴りは違います。

 例えば、静止画映えする蹴りの場合は大抵の場合は蹴りが当たる瞬間(蹴り足が伸び切った瞬間)が撮られる事が多く、極端な話をすれば、構えとインパクトの瞬間の二点だけプロ仕様になっていれば映えます。
 とはいえ、実際には途中仮定の動作がおかしければインパクトの瞬間の写真に矛盾が生じますから、ゆっくりでも途中仮定のフォームを気にして蹴る事が大切です。
 では、動画映えする蹴りとはどのような蹴りでしょうか?

 一つはスピードです。

 勿論、動画編集で1.2倍速にしたり、蹴り途中の何枚かの写真をコマ抜きしたりすれば蹴りは速く見えるようになります。しかし、コスプレイヤーさんの売り出し方によっては「加工乙!」的なコメントが発生し、武術オタク系の面倒くさいアンチが付きまといかねません。
 したがって、コスプレで蹴り動画を出す場合には、ある程度の蹴りの速さを出す為のトレーニングが必要になります。

 テコンドーのトレーニング方法について詳しく動画で学びたい場合(ITFテコンドー)にはMaster Lee先生のyoutubeチャンネルをオススメしています

蹴りを速くするトレーニング(簡易版)

 それでは簡易的に蹴りを速くするトレーニング方法を紹介したいと思います。ただ、残念ながら速くなると言っても滅茶苦茶蹴りが速くなる訳ではありません。せいぜい素人よりもマシ程度の速さですが、下の動画程度の速さを得るんだったら「コツさえ掴めれば誰にでも努力要らずで簡単に身に付きますよ」という話になります。

(僕が色帯時代の恥かしいほどイキってた頃にイキりながら撮影した下手糞な蹴り動画です。格闘技経験者系のコスプレイヤーの皆様はこれより蹴りが速い方々がザラにいらっしゃると思いますので指さして笑って頂けたら幸いです。)

 閑話休題。

 それでは動画でも蹴りを速く見せる方法と練習方法を紹介したいと思います。前回し蹴りに関する論文(テコンドーの前回し蹴りにおけるバイオメカニクス)によれば回し蹴りの動作は大きく3つに分けると、「蹴り動作開始」(Start to kick,以下,STR)から蹴り足が地面から離れる「蹴り脚離地」(Toe rises off the floor,以下,TOF)までのREADY局面、TOFから蹴り脚膝関節の屈曲が最大になる「蹴り脚膝関節最大屈曲」(Maximum knee flexion,以下,MKF)までのLEG UP局面、そしてMKFから蹴り脚足部がターゲットと接触する「インパクト」(Impact,以下,IMP)までのSTRIKE局面に分かれると定義されます。

出典:テコンドーのバイオメカニクス的研究 -前回し蹴 りの「素早さ」に着目して-

 この三つの局面の内、初心者の蹴りでは足が地面から離れて(TOF)から膝関節の屈曲が最大となる(MKF)瞬間までの時間が長くなる傾向が見られます。これを改善する為にLEG UP局面だけに注目した解決策の一つは筋力を着けて速く蹴るという事なのですが、今回は簡単にLEG UP局面が速くなる方法。つまり、LEG UP局面を速くするためのREADY局面を練習する方法を紹介したいと思います。

 それが「抜重腿上げ」です。
 地面に掛かる荷重を抜く事を抜重と言います。例えば体重計の上に立っていると体重計が指す針が自分の体重を指すはずです。この数字が地面に掛かる荷重の大きさを表します。例えば、体重計を上から押せば体重計の示す数値は瞬間的に大きくなります。逆に、体重計の上で膝カックンされたかのように膝と股関節の力を抜くと身体が真下に落ちていきます。この真下に落ちている間の体重計が示す数値は本来の体重よりも小さい値になります。これを抜重と呼びます。また、抜重で身体が落下するのを止める瞬間に体重計の値は本来の体重よりも大きな値になります。これは大きな抜重の落下を受け止める事で大きな床反力が得られる事を示唆しています。この抜重後に得られる床反力を利用して腿上げを行う練習が「抜重腿上げ」になります。

 READY局面で抜重を行い、抜重の反発をLEG UP局面に利用します。最初は両足の抜重を行い、正面に腿上げを行いましょう。
 実際の回し蹴りでは構えた状態から後ろ足で蹴る必要がある為、後ろ足で地面を踏んで身体全体を前に運ぶ必要があります。その為、両脚で同時に抜重してしまうと、前足にも大きな床反力が掛かってしまうのでブレーキになってしまいます。そこで、先ずは後ろ足だけを抜いて地面反力を得て、その瞬間に前え足だけを抜いて時間差で前足からの地面反力を得る様にして下さい。こうする事で、前足から得た地面反力がブレーキに使われず、両足から効率よく地面反力を受け取ってLEG UP局面に繋げる事が出来ます。

 これはコツさえ掴めれば誰にでも努力要らずで簡単に身に付く技術ですが、先ほどの色帯時代の僕の蹴りには無い技術です。したがって、これを身に付けるだけで僕の蹴りよりも速い蹴りが誰にでも簡単に身に付きます

まとめ

・最初は上半身をしっかりと回して回転を作り、軸足側の腕を絞って胸から上にブレーキを掛ける事で、腰の回転を加速させる。
・蹴り足で地面をしっかりと踏む事。踏むときは膝の曲げ伸ばしではなく、ケツ(大殿筋)を使って股関節を伸ばす事で床をしっかり踏む。
・軸足は90度ほど回転させる。ただし、無理して軸足を回す必要は無い。軸足でしっかり地面を踏んで軸足の踵を挙げておくと、軸足は勝手に回転する。
・腰(骨盤)は無理なく自然に回転させると良いが、しっかりと上半身で骨盤を引っ張って180度回転させる。背中を相手に向けるイメージで上半身を回転させると、骨盤が上手く返る。
・静止画ではフォームだけを気にすれば良いが、動画の場合は速さも必要であり、その際はどうしてもトレーニングが必要になる。
・回し蹴りを局面ごとに分けると、READY局面、LEG UP局面、STRIKE局面に分けられる。この時、READY局面をしっかりと練習する事で蹴りの動画でも違和感のない速度で滑らかな蹴りが蹴れるようになる。