短編小説『お前の娘の本当の父親、ガチでお前だったよ。酷えだろ、お前のカミさん托卵してやがったんだ』
え?
タイトルが何かおかしいって……?
いや、気にしないで下さい。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」「note」に同じモノを投稿しています。
市長や有力地方議員を何人も出してきた家系。
俺の上司である農協県連の理事は、その一族の出身だ。
人口十万を超え、一番、近い政令指定都市の通勤・通学圏内に有る今風の町並みのベッドタウンも、一枚、皮を剥がせば、そこに有るのは、ネット・スラングで言う「因習村」だった。
泊まり掛けの出張から帰ったその夜、上司が俺を呼び出したのは、市内で一番高級なレストランの……それも個室だった。
「おめえんとこの娘、ウチの息子と仲いいよな〜」
「は……はぁ……そうですか?」
「うん」
理事はステーキを食いながら、そう話した。
「お前も食えよ。美味えぞ」
「は……はい……じゃあ、いただきます」
とは言え、一から十まで人間的に問題が有る理事と向かい合わせでは、味を楽しむ余裕など無い。
「ウチのガキがさぁ……大きくなったら、おめえの娘と結婚するんだとか言い出しやがってよぉ……」
「え……まぁ、その……ちょっと……」
「心配だろ」
「し……心配……ですか?」
「ああ、実の姉弟が結婚するかもしれねえんだぞ」
何を言ってるのか、判らなかった。
どう反応していいかも、当然、判らなかった。
一体、何を言ってるのだ、この人は?
「何、阿呆みて〜な面してんだ、それだから、お前は出世出来ねえんだよ」
「え……えっと……」
「知らなかったのか? 俺、おめえの嫁とやったんだよ。お前の俺の子を産んで、お前の子として育てろ、ってな。おめえの嫁、おめえより頭いいぞ。この事を教えたり、ましてや警察に駆け込めば、お前が、どんな目に遭うか想像が付いたみて〜だからな」
「あ……あの……え……えっと……その……」
「早い話が、亭主の命が惜しけりゃ俺の子を托卵しろって命令した訳よ」
「な……な……な……」
理事が言っている言葉の意味を理解するまでに……。
「なにボケ〜っとしてる? 折角のステーキが冷めちまうぞ」
結構な時間がかかった。
理解した後は、理解する前よりも、どう反応すれば良いか更に判らなくなった。
「でさ、ウチの糞ガキが、おめえの娘と結婚したいって言い出したんで、おめえの娘、拉致して調べたら……ガチでホントにおめえの娘だったよ。俺さ、マジで怒ったよ。おめえの嫁、ひでえ女だって。あんな雌畜生、殺した方が、世の為、人の為だってな。だってよう……俺の子を産んで育てろって命令したのに、実の亭主の子供を托卵してやがったんだぜ」
だ……だめだ……理解が……追い付かない……りかいできたのは……このパワハラじょうしが……おれがおもってたより、はるかにヤバいやつだったってことだけ……ことだけ……ことだけけけけけけけ……って、おい、うちのかみさんとむすめはぶじなのか?
「でも、そん時、ふと、ある事に気付いて……病院で緊急の精密検査をしてもらったんだよ。おめえの嫁には、すまない事したな……この結果が先に判ってりゃあ……」
な……なんのことか……わからない……でも……うちのかみさんがしんでることだけは……たしかたしかたしかかかかか……。
「俺、SEXは出来るけど……子供を作れない体質だったみて〜なんだよ。そうなりゃ、当然、出てくる疑問は1つだ。俺の息子だと思ってた、あの糞ガキは誰なんだよ?」
わかんない、わかんない、わかんない、わかるのは……さっさと、このばからにげたほうがいいことだけ……。
「ところでステーキ、早く食えよ」
えっ?
「実んところ、俺にとっちゃ、このステーキは、あんまし美味くねえんだよ。俺の子供もフリしてただけのクソ餓鬼の肉なんでな。でも、おめえにとっては、その肉はクソ美味い筈だぞ。だって……実の娘の肉なんだからな」