【Tips】睡眠 2023

⚫︎書評のようなまとめ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎

睡眠時間を削って勉強時間を捻出したいアラフォー♂が睡眠本を読んだ備忘録。

睡眠時間を削り質の良い睡眠がとれないと、グリンパテックシステムによる脳内掃除ができず、認知症の原因とされるアミロイドβのような老廃物が回収されないまま蓄積されるらしいが、文献④ではアミロイドβについて残念ながら未記述。ショートスリーパーの確率は25万人に1人らしく、当然ながらわたしもその中の1人ではないだろうから、5時間睡眠は魅力的ではあるが認知症になりたくないので④非採用。

ゆえに今後の睡眠時間は、文献中最も少ない①の『7時間+15分昼寝』を個人的に採用。

あとはコーヒーは1日3杯ぐらいに留めておいて夕方以降はノンカフェインに変更しよう(カフェインの半減期は5〜7時間らしいので)。

⚫︎参考文献⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎
①最高のリターンをもたらす超・睡眠術
 2023/3  西野精治,木田哲生
②賢者の睡眠
 2021/8  DaiGo
③睡眠こそ最強の解決策である
 2018/5  マシュー・ウォーカー
④朝5時起きが習慣になる5時間快眠法
 2016/12  坪田 聡

⚫︎情報比較⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎

⚫︎推奨睡眠時間
文献①
  7時間睡眠+15分昼寝 P42

文献②
  7.5時間(7時間切った日はお酒に酔った時と同じくらいに判断力が低下)

文献③
  最低でも8〜9時間欲しい

文献④
  5時間

⚫︎ショートスリーパーの確率
文献②
10万人に4人

文献④
「5時間以下の睡眠でも眠くならず、脳の機能もまったく低下しない人の数を全人口に対するパーセンテージで表すなら、四捨五入してゼロということになる」。慢性的な睡眠不足でも脳の機能がまったく低下しない人もいるにはいるが、その数はきわめて少ない。自分がその1人である確率は、雷に打たれる確率よりもはるかに低いだろう。(ちなみに一生のうちに雷に打たれる確率は1万2000分の1だ)。

⚫︎カフェイン
文献②
・昼寝でのコーヒー活用 P167
1)昼寝前にコーヒーを飲む(1〜2分でサクッと)
2)20分間だけ昼寝をする
体内に吸収されたカフェインが血液を通じて到達するまでの所要時間は約20分。つまり、コーヒーを飲んでから眠気が抑制されるまでには20分近くの猶予があるということ。

・1日に摂取するカフェインの適量 P284
健康な成人で450ml(小さめカップ3杯ぐらい)

文献③
・カフェインの半減期は平均して5〜7時間
・1杯のデカフェのコーヒーには、通常のコーヒーの15〜30%のカフェインが含まれている。(8% 。kindleの頁の代わりの%)

⚫︎アルコール
文献②
アルコールは就寝の4時間前までに

文献③
飲むな。(78%)
アルコールは睡眠を断片的にする。夜中に何度も目が覚め、そのため寝ても疲れがとれない。飲んでも朝までぐっすりだという人は、夜中に起きたのを覚えていないだけだ。  第二に、アルコールは現在わかっているかぎり、もっとも強力なレム睡眠抑圧因子の1つだ。体内でアルコールが分解されると、アルデヒドとケトンという化学物質がつくられる。とくにアルデヒドが、レム睡眠にとって大きな障害になる。たとえるなら、心停止の脳バージョンのようなものだ。脳波の鼓動を止め、夢が見られない状態にしてしまう。昼から夜にかけてアルコールを摂取すると、たとえ適量であっても、夢を見るレム睡眠が奪われるということだ。

睡眠とアルコールに関しては、いったいどうするのが正解なのだろうか。厳しすぎると思われるだろうが、アルコールが睡眠に悪影響を与えることは事実であり、これだけ科学的な証拠がそろっていると否定のしようがない。夕食と一緒に1杯のワインをたしなむぐらいなら影響はないと思うかもしれない。しかし、そのアルコールを体内で分解して排出するのに、肝臓と腎臓が何時間にもわたって働かなければならない。生まれつきアルコールを分解する酵素が多い人でもそれは同じだ。 夜のアルコール摂取は、あなたの睡眠を阻害する。望まれていない答えなのは重々承知しているが、それでも私からのアドバイスは、やはり「飲むな」にならざるを得ない。

※ (個人録)
 寝る1時間前に摂取して覚醒した、しなかったお酒
 *摂取量の計算式
  飲料の量(ml)× 濃度(20度なら0.2)× アルコール比重(0.8g/ml)
  =純アルコール量(g)

 ▼入眠後覚醒したお酒
  ・アサヒザ・カクテルクラフト ライム香るジントニック 
   アルコール度数5% 400ml
    → 400ml x 0.05 x 0.8g/ml =16g

 ▼覚醒しなかったお酒
  ・アサヒ贅沢搾り グレープフルーツ  
   アルコール度数4% 350ml
    → 350ml x 0.04 x 0.8g/ml =11.2g



⚫︎その他Tips ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎

⚫︎文献① ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎

・6時間睡眠を2週間続けると2日間徹夜した状態 P14
 睡眠と脳の働きに関して、ペンシルベニア大学などの研究チームが行った有名な実験があります。この実験から得られた結果は、「6時間睡眠を2週間続けると、集中力や注意力は2日間徹夜した状態とほぼ同じレベルまで衰える」という驚くべきものでした。
 ちなみに、徹夜した人の脳の働きは、酎ハイを7〜8杯飲んで酔った状態だといわれています。3日間の徹夜となると、それ以上の酩酊状態です。つまり、 6時間睡眠を2週間 続けている人は、毎日、酔っぱらった状態のような脳で、しかもそれに気づくことなく仕事や勉強、社会的な活動などをこなしているわけです。
 睡眠不足による体の異常は察知しやすくても、脳への影響はそれだけ自覚しがたいとい
うことです。

・睡眠不足の 4 つのサイン P18
 1)朝起きてから 4時間後に厩気がある
 2)昼間にだるさ、しんどさを感じる
 3)電車や車の中で居厩りをする
 4)休みの日に普段より 2時間以上長く寝る

・睡眠負債 P21
 たとえば、多くの人が、私たち人間は夜が来たら自然に眠るものだと考えていないでしょうか。そして、布団に入り、目を閉じて眠りに落ちることができれば「眠れた」と思い込んでいないでしょうか。しかし、睡眠には何時間眠ったかという「量」だけでなく、深く眠れているかという「質」がたいせつです。量も質も足りていない睡眠が続くと、多くの場合それは借金のように積み重なっていきます。それを「睡眠負債」と言います。

 睡眠負債とは何かを知っていただくため、1990年代の実験を紹介しましょう。睡眠時間平均7.5時間の成人に、毎日ベッドで14時間過ごしてもらいました。はじめは13時間程度の睡眠で、それが徐々に短くなり、3週間後に平均睡眠時間8.2時間に固定されました。8.2時間に回復するまでには毎日好きなだけ寝ても3週間かかりました。たった 40分の睡眠負債を返済するのに 3週間もかかるということです。睡眠不足が続いても、週末にたっぷり寝れば回復できると思い込んでいる人は少なくありません 。 しかし、 一度たまった睦眠負憤をなくすのはとても困難で、週末の寝だめ程度では解消されないのです。

・大人になっても睡眠によって脳が発達する P23
 人間は、脳が未発達の状態で生まれてきます。それと比較して、牛は生まれたらすぐ立ち上がりますし、モルモットは目が開きすでに歯もあり活動を始められます。脳が発達した状態で生まれてくるのです。
 そういう動物の睡眠は、生まれたときすでにおとな(成獣)の睡眠に近い状態にありま す。しかし、人間は、発遣段階に応じた適切な睡眠をとることで捻々に脳が発達していきます。これを 「脳の可塑性」と呼びます。脳は刺激に反応した新しい神経回路を作り出し、その過程で不必要な回路を除去しながら大人の脳に発達していきます。 よい眠りは大人の脳の「海馬」の発達にも大きく影響します。詳細は後章でお話ししま すが、記憶を司る脳の海馬は大人になっても発達を続ける唯一の場所であることが、多くのエビデンスから証明されているのです。
 言い方を変えれば、 大人の脳も眠りによってコンディションを高めれば成長し「頭がよくなる」のです。反対に量も質も足りない睡眠は、働き盛りや学び盛りの脳にダメージを与え、ひいては加齢を早めるリスクを高めるといえるでしょう。

・海馬 P36
 海馬は、脳の奥深くに存在する大脳辺縁系にあります。大脳辺縁系とは、記憶、情動の表出、意欲などに関与している複数の部位の総称で、そのなかで海馬は、記憶のうちでもとくに短期記憶と呼ばれる一時的な記憶の保存作業を担っています。新しい記憶は、いわば記憶の玄関口であり「記憶の港」である海馬を通じて、次の目的地(長期記憶・消去)へ出発していきます。
 海馬は睡眠時間によって大きさが変わるということが、 これまでの研究でわかっています。海馬の大きさは海馬の働きに直結していて、記憶の港のたとえでいえば、港が大きくなればその分一度に多くの情報を留めることができます。逆に、港が小さくなっていけば、それだけ港に入る情報が少なくなり仕事や勉強のパフォーマンスに影響が及ぷのです。この海馬の働きに深く関係するのが睡眠です。

・頭がよくなる睡眠とは P37
 海馬の働きを高め、記憶の港を大きくする睡眠に大きくかかわるのが眠りの質です。ここで簡単に、睡眠のメカ二ズムについてお話しします。
 眠りには、ノンレム睡眠(脳も体も休息している状態)とレム睡眠(脳は活動していて体が休息している状態)との2種類があり、寝ついた後にすぐ訪れるのがノンレム睡眠です。最初の約90分間持続するノンレム睡眠が、 睡眠全体のなかで最も深い眠りで、細胞の増 殖や新陳代謝の促進、アンチェイジング効果
などに影響するグロースホルモン(成長ホルモン)もこの入眠直後のノンレム睡眠中に分泌されます。そしてこの時、海馬から大脳皮質への情報の移動と保存が行われていることも、近年の研究から明らかになりました。
 この最初の深いノンレム睡眠は、まさに「貴金の90分」と呼ぶべきものです。質のよい睡眠をひと言でいえば、最初の90分問でしっかりと深い睡眠を得ることです。そうすれば、記憶力だけでなく、日々の仕事や勉強の精度を上げる集中力や思考力などにも良い影響が及ぶでしょう。

・レム睡眠中に海馬の周辺で起きていること P38
 海馬はさまざまな角度から研究されています。その一つが「レム睡眠中に海馬で新しい神経回路の形成がなされ脳の発育がうながされている」という仮説です。
 人間の発育段階には睡眠がたいせつで、とくにレム睡眠が特別な役割を担っている可能性があります。胎児が母親のお腹の中で足で蹴るような動きをすることがありますが、それを「ぴくつく睡眠」と呼び、胎児がレム睡眠の時に体が「ぴくぴく」と反応しているととらえる研究者もいます。
 胎児の発育段階には、外部や内部からの刺激に反応してさまざまな神経回路が形成されますが、そのとき脳内では神経の突起のようなものが伸びていて、さらに不必要なものは除かれ脳が形成されていきます。これはP23でもふれた「脳の可塑性」によるものです。人間のように、生まれたときに脳がまだ十分に発達していない種では、新生児や発育段階時のレム睡眠中も、脳内では同じようなことが起きています。ですから、小児の発育段階において、睡眠のなかでもレム睡眠が新しい神経回路の形成と深いかかわりがあるのは確かなのですが、それがそのまま大人にも当てはまるかといえば、その点はまだ解明されておらずまさに研究の最中にあります。近年はノンレム睡眠の研究にも注目が集まっていますが、レム睡眠の発見直後から、レム睡眠の研究はさかんに行われており、レム睡眠が記憶の整理や定着に関与していることは、多くの実験から明らかになっていました。脳での可視化の技術も進み、2015年に、レム睡眠と「脳の可塑性」に関する次のような実験結果が発表されました。マウスの睡眠中の神経伝達と結合の変化を観察した実験です。海馬の情報伝達は、神経細胞の樹状突起から飛び出す「スバイン」と呼ばれる「棘」のような細胞突起によって行われています。樹状突起とは、神経細胞の一部で、外部からの刺激や情報などを受け取るために、細胞体からまさに樹木の枝のように枝分かれした複数の突起を指します。
 スパインはレム睡眠中に形成されることが多いのですが、これらの画像から、まるで樹木の枝葉を切り揃えて「剪定」するかのように、一度できたスパインを除去したり、必要なものを残したりする役割もレム睡眠が担っていることがわかってきたのです。この実験によって、神経細胞の組織変化が可視化されたことは大きな進展でした。また、8時間や16時間といった長いスバンで睡眠中の脳の様子を観察したことも、この実験の画期的な点です。
 寝入りばなの90分、ノンレム睡厩の深い賑りがまず海馬から大脳皮質への情報の移動や俣存を助け、その深い眠りから切り替わったレム睡眠中には脳内の情報伝違を司るスバインの最適化を行うーーそうした睡眠中の脳内の働きは、残念ながら私たちの目に見えるものではありません。しかし、起床時の頭のスッキリ具合や気分の良し悪しにストレートに表れるものです。だからこそ、私たちは意識的に眠りにかかわり、改善する姿勢を忘れてはいけないのです。「最近、仕事の効率が悪い」「年齢には勝てないな」などと嘆いている方こそ、少し睡眠への意識を変え、最初の90分をしつかり眠る習慣をつけていただきたいと思います。

・7時間睡眠+15分昼寝 P42
 できれば7時間の睡眠をとりましょう。もし7時間確保できなくても、あるいは、7時間寝るつもりで寝床に入ったのに寝つけなくてもあまり気にせずに、昼寝すればいいやくらいに思っておきましょう。会社員だから昼寝など無理という人は、3分間静かに目をつぶるだけでもOK。
 なぜ「7h+プチ昼寝」なのか。それは睡眠中の記憶の整理にかかわる「睡眠紡錘波」の出現が最も増えるのは、明け方の時間帯で、睡眠後6〜7時間前後だからです。最新の睡眠研究の成果をひもとくと、睡眠紡錘波は睡眠周期におけるノンレム睡眠のステージ 2で出現する特有の脳波で、記憶と関連した脳の可塑性のプロセスにかかわっているといわれています。
 海馬と長期記憶を司る大脳新皮質の間を行ったり来たりする睡眠紡錘波の働きによって、朝になると海馬にあった記憶の大部分が大脳新皮質に移動し、海馬の容量に余裕ができます。これは、脳が十分な休息によって整い、回復した状態といえます。何時間寝れば脳が回復するのかは人によって異なりますが、多くの人に共通していえるのが 7時間という目安といわれているのです。
 日頃の就寝時間が5〜6時間を切る睡眠不足が慢性化しているとこの睡眠紡錘波がしっかり出ていない可能性があります。睡眠紡錘波の出現が少ないと、前日の記憶が整理されないまま記憶の港を占領しているため、今日新しくやってきた記憶が港に入ることができない状態になってしまいます。「疲れが残って頭が働かない」というのは、こういう脳の状態を指すのです。

・パワーナップが一日の脳のパワーを支える P45
 脳科学によれば 、 起床2〜3時間は、夜の睡眠によって記憶 が整理されており 、さらに脳がリフレッシュされているため、脳のバフォーマンスが一日で最も高い時間帯だそうです。7時間睡眠をしっかりとれれば、起床後のパフォーマンスに大いに期待ができます。
 その後、脳の働きは一日を通して右肩下がりになっていきます。ですから、最高の脳の状態で仕事や勉強に臨み、最大限に集中力を発揮したいなら、重要なタスクは一日のなかでも前半に行い、逆に後半になれば、あまり集中力を必要としない単純作業に充てるのが適しています。
 しかし、自分自身を振り返ってみても、午前も午後も集中力や判断力、思考力を必要する仕事に追われているのが現実です。そこで一日のなかで右肩下がりになる脳のバワーを回復させるのに大きな力を発揮してくれるのが昼寝です。
 昼寝が日中のパフォーマンスを向上させるという科学的なデータが多数出てきていることから、 昼寝(ナップ)とパワーアップを合わせた、「パワーナップ」という言葉が海外のビジネスパーソンにも浸透しています。
 厚生労働省が示した 「健康づくりのための睡眠指針」 (2014年) でも、 「午後の眠気による仕事の問題を改善するのに昼寝が役立ちます。 午後の早い時刻に30分以内の短い昼寝をすることが、 眠気による作業能率の改善に効果的です」と、昼寝の重要性が明記されています。

・目を閉じてリラックスするだけでも昼寝効果あり P46
 では適切な昼寝とはどのようなものでしょうか。大前提として、「夜の睡眠を邪魔しない」ということが挙げられます。昼寝は集中力を向上させるのに有効ですが、夜の睡眠の代わりにはなりません。昼寝では、夜の睡眠中に大量に分泌されるグロースホルモン(成長ホルモン)や夜の睡眠を促すホルモンである メラトニンの分 泌はほとんど起こりませんし、記憶、情緒の安定、論理的思考といった高度な脳機能を回復させることもありません。
 昼寝はあくまで、一時的に眠気を解消し、集中力を高める補助的な睡眠です。「7時間+プチ昼寝」を意識して、まずは夜の睡眠時間を確保することが基本となります。
 夜の睡眠を邪魔しない昼寝のポイントは、「午後3時まで」「20分程度」のニつです。
 人間の体内時計では、午前2〜3時に一日でいちばん強い眠気が発生し、その次に眠気が発生するのは午後2〜3時、いわゆる昼食後です。このタイミングで行うと昼復は効果的です。午後3時以降になると、夜の睡眠時の寝つきが悪くなったり、睡眠の質が蕗ちる原因になります。30分以上の昼寝は、深い睡眠(ノンレム睡眠のステージ3、4  p37参照)に入ってしまうため、夜の睡眠の質を下げてしまいます。20分程度では眠ることはできないという方がいると思いますが、目を閉じて机に伏せ、静かに過ごすだけでも効果が得られます。その効果は 、目薬やマッサージ以上だといわれています。
 目と脳は脳神経によって直結していて、脳が処理する情報の 8〜9割以上が視覚を通して集められており、その目を休ませることは、疲れた脳にも休息をもたらします。普段、目を開けているときは、周波数の高い活動的なβ波が出ていますが、目を閉じるとリラックス時に出るα波が出始め、脳波にも変化が現れます。
 昼寝をするのに理想的なのは、一人になれるような空間で、目を閉じても安全で静かな 場所です。人が入ってこない会議室や教室などの空き部屋を利用し、電気を消して過ごしましょう。それが難しい場合は、耳栓やアイマスクで情報を遮断し、五感を使わないようにします。
 また昼寝の効果を上げるコツとして、直前にカフェインをとっておく方法があります。カフェインの覚醒作用は30分後に効き始めるので、昼寝が終わる頃にちょうど覚醒作用が働き、頭がスッキリした状態で仕事や勉強に臨めます。

・就寝前は「記憶のゴールデンタイム」 P55
 睡眠面談で学生に、記憶の定着には学習直後の睡眠が必要だという話をすると、寝る1 時間前に記憶を必要とする教科の勉強に取り組むようになります。しかし、同じように就寝 1時間前に勉強しているにもかかわらず、成果が表れる学生と、いまひとつ成果が表れない学生が出てきました。
 記憶には、「互いに千渉する」という性質があります。脳に新たな情報が入ってくると、 「そういえばあの人も同じようなことを言っていたな」「以前覚えた公式と似ている」など と、脳は以前の記憶のなかで関連する情報を探します。すでに定着している記憶とひもづけることで、新たな記憶として強化させようとするのです。 逆にいえば、そうやって他の記憶とまったく関連のない独立した状態で記憶された情報は強化されにくく、新たな記憶に上書きされやすくなります。
 たとえば、午前中に勉強して覚えた内容は、午後の生活の中で脳に入ってきたさまざまな情報に干渉されやすくなります。つまり、記憶したいことがあるならば、覚えた後に余計な情報を脳に入れなければいいわけです。
 したがって、就寝前、とくに寝る1時間前は、一日の中で最も記憶に適している「記憶のゴールデンタイム」といえるでしょう。就寝前にせっかく覚えた学習内容が定着しなかった原因としては、就寝前の行動によって情報と情報が干渉しあい、記憶の定着が進まなかった可能性があります。

・グリンパティック・システムのデトックス作用 P61
 睡眠によるデトックス作用で脳のパフォーマンスが上がる——睡眠研究の世界で大きな注目を集めている「グリンパティック・システム」というものがあります。
 これは、ひと言で説明するならば、脳の使用によって溜まった脳内の老廃物を睡眠が除去するデトックスシステムです。たとえ肉体労働をしなくても脳を使えば、脳に老廃物が溜まるのです。1000億個以上の神経細胞と、その10倍以上もの「グリア細胞」の活動によって成り立っています。かつては、神経細胞が緻密なネットワークを張りめぐらせて、記憶や学習という脳の中心的な役割を支えているのに対し、グリア細胞は神経細胞に栄養を運んだり、電気信号を送る手助けをするなど、神経細胞をフォローする脇役と考えられてきました。
 しかし、最近の脳科学の研究から、グリア細胞は神経細胞の状況をモニターしながら、グリア細胞同士で情報をやりとりし、神経細胞のシナプス形成をコントロールしているらしいとわかってきたのです。そしてさらに近年、グリア細胞が睡眠中に担っている重大な役割が発見されました。脳の重量は約1400グラムで、一般的な成人の体重の約2%を占めるにすぎません。
その小さな脳が、日常活動にともなうエネルギー消費のうち、全身の4分の1近くを消費しています。
 一方、脳を活性化させ活発に使えば使うほど、活動の過程で有害な老廃物などのゴミが大量に生じます。代表的なものが、アミロイドβというたんぱく質です。アミロイドβのもとになる前駆体は、細胞の膜表面に存在し神経の成長と修復などの機
能を持ったんぱく質で、役目を終えれば断片化して排泄されます。その断片のなかでもとくに凝集しやすい断片が、加齢やアルッハイマー病などで脳内に沈着し、他の病態とも合わせて脳に障害をもたらし、認知症の原因にもなると考えられています。
これまで、脳にはリンパ系が通っていないため、そうした脳の老廃物の除去がどのように行われているのかについては解明が進んでいませんでした。しかし、近年、リンパ系に代わり、脳ではグリア細胞が脳の老廃物除去に関与していることがわかってきました。グリア細胞の表面には水を取り込むシステムがあり、そのシステムがリンパ液と似た「脳脊髄液」を脳細胞内に呼び込み、細胞内を流れることによって、老廃物を洗い流すーーこの脳のゴミを除去するしくみが、グリンパティック・システムです。

・睡眠には「記憶の消去」というリセット機能も P63
  このグリンパティック・システムは、日中にも機能しているのですが、睡眠中に最も活発に働くといわれています。覚醒時の脳は常に刺激にさらされ、グリア細胞はそれらを受けて脳の活動を支えるため に働いています。しかし、睡眠中はグリア細胞の活動にも余裕ができ、老廃物を洗い流す作業が行えるのでしょう。満席のスタジアムを掃除しようと思っても、通路や階段を自由に動き回ることは難しいですね。でも、試合後ならば水で洗い流すことも可能で、効率よく掃除ができ、ゴミも集
めやすくなります。ですから、毎日、質のよい睡眠をとる習慣がついているだけで、無理なく脳のデトックス効果が期待できるというわけです。
 ただ、グリンパティック・システムが機能するのが、 レム睡眠中なのかノンレム睡眠中なのか、また必ず睡眠が必要なのかなど、わかっていないこともまだたくさんあります。睡眠中は覚醒時の 4〜10倍ほど活発に働くというのが現在の定説ですが、さらなる解明に向けて、今さかんに総合的な研究が行わ
れています。将来的には、 グリンパティック・システムの解明がさまざまな疾患の予防や治療につながる可能性が期待されています。アルツハイマー病やパーキンソン病など、脳に老廃物や特定の物質が蓄積する神経変性疾患の治療や薬の開発にも、このグリンパティック・システムの働きが、重大なヒントになることは間違いありません。先にお話ししたように、睡眠は記憶を強化します。深いノンレム睡眠の間にたいせつな記憶は長期記憶へ移されますが、他方でノンレム睡眠中の脳の中では、「r記憶の消去」も行われています。
 人間は、「記憶の消去」がなければ頭を切り換えられません。
今日起こった心に障るイヤなことや、人生における苦しい体験をすべてを覚えているということはなく、ほとんどの場合は時間とともにその感覚や感情は薄れてきます。これは、ノンレム睡眠中に記憶の部分的な消去が行われるからです。
 グリンパティック・システムと記憶の消去の関係は未だ解明の途中ですが、少なくとも睡眠中に「脳のゴミ」を洗い流してくれるこのシステムが、脳のバフォーマンスを上げることに寄与している可能性は高いでしょう。
 イヤなことがあった日こそ、憂さ睛らしの方法を模索するより、さっさと眠るにかぎります。ネカティブな感情を引きずらないスッキリした目覚めは、スマートな脳の働きを呼び起こすでしょう。

・ブルーライト P68
 スマホやパソコンと睡眠との関係で考えられるのは、デジタルデバイスの液晶画面から発するプルーライトだといわれています。ブルーライトは目に見える光のなかで紫外線に最も近いエネルギーを持っていて、主に網膜の中心にある黄斑部にダメージを与えるだけでなく、脳を覚醒させます。光の強さや照度は、「逆2乗の法則」といって距離の 2乗に反比例します。つまり、距離が 2倍になれば 4分の 1の強さになり、逆に距離が 2分の 1になれば 4倍の強さになります。スマホの場合、同じようにブルーライトを発するテレピやパソコンよりも距離が短いため、ブルーライトの影響も大きくなるのです。とくに夜にこのブルーライトの光を浴びないことが 、睡眠にとってたいせつだといわれています。その理由は、よい睡眠をとるには、夜に脳の松果体からメラトニンという睡眠を促すホルモンが分泌されなくてはなりませんが、ブルーライトを浴びることでメラトニンの産生と放出が抑制されるからです。

・寝つきがよくなる仕組み P91
 生体リズムが狂うと、頭も体も疲れているのに寝つけないということが起こります。睡眠がたいせつなのはわかっているが、そもそもよく眠れないというときに焦点を当てたいのが入眠前の行動です。この場合、カギになるのは体温(深部体温)の変化です。 人間の体温は、一定のリズムで日内変動を繰り返します。それはおそらく野外で生活していた原始の人間が、気候の変動が起きても体内環境を一定に保つために、外部環境に左 右されない地球の自転に応じた24時間に近いリズムを必要としたからでしょう。日中に活動して体を動かせば筋肉や脂肪が熱を産生じますし、物を食べても内臓の動き によって熱が生まれます。体内に宿ったその熱は、夜になると手足の先から逃げていきます。
 手足の先は毛細血管が発達していて、この毛細血管は心臓から全身へ向かう動脈と全身から心臓へ戻る静脈をつなぎ、スイッチする働きを担っています。私たちの体表には、体の内部と同じ温度の血液が流れているので、車などについている、液体や気体の熱を放熱するラジエータという装置ーー冷却水や潤滑
油の冷却に用いられたり、温水や蒸気を熱源とした暖房に用いられたりしますーーのような働きを毛細血管が担い、手足の先から熱を放出させます。こうした体内活動によって深部体温が下がってきたところで眠れれば、寝つきが早くなり、質のよい睡眼に入れます。日中に熱をつくってそれを夜に逃がすことも、生体リズムの働きの一つなのです。

・入浴でいったん体温を上げる P93
 深部体温が下がることで私たちは眠りへといざなわれるわけですが、このことを証明する試みの中でもとくにユニークなのが、体のどこを冷やせば寝つきがよくなるのかを調べたオランダの実験です。手足、胴体、手足以外の全身、全身など、冷やしたり温めたりするエリアを自在に選択できる特製のスーツを、 2日間にわたって被験者に装着してもらったところ、この実験からも、体の中を温めると覚醒効果があり、冷やすと眠気が増強するという体温と睡眠の関係が確認されました。
このように、入眠と体温には密接な関係があります。手足からの熱放散が活発になり、深部体温が下がったタイミングで眠るのがベストですが、そのタイミングを逃してしまう と、なかなか寝つけなかったり、深い睡眠を得ることができず、翌日のパフォーマンスに 影響が出てしまいます。そして、睡眠負債がどんどん蓄積されていくのです。
 そんな悪循環に陥らないようにするためのいちばん簡単な方法は、生体リズムに合わせ た規則正しい生活を送ることにプラスして、就寝前の入浴を習慣づけることです。いったん入浴で体温を上げると、上げた体温を下げようとする体の調整機能が働きます。しばらくすると、入浴によって上がった深部体温は、入浴しないときの体温より低くなり、スムースな入眠へと導いてくれます。入浴の際 、40°C 程度のお湯に10分から15 分ほど浸かると、深部体温が約0.5°C上昇します。0.5°C上昇した深部体温がもとの体温に戻るには約90分かかります。これを踏まえると、寝る90分前に40°Cのお湯に、10分から15分程度入浴するのがよいといえます。帰宅が遅くなり寝る直前に入浴することになった場合は、あまり体温を上げないようにシャワーですますか、翌日の朝に入浴するのがよいでしょう。ただし、シャワーでは入眠効果はあまり期待できません。朝の入浴は、体温を上げ覚醒を強めてくれますが、その後、体温が下がり眠くなる可能性があるので要注意です。

・冷え性でも冬の寝室を温め過ぎない P94
 冷え性の方などは、つい体温を奪われない ように厚着や靴下の重ねばきをしがちですが、これにも注意が必要でず。手足の毛細血管から熱を放出することで深部体温が下がり、眠気が訪れます。このメカニズムを踏まえると、冷え性対策に靴下をはいて寝るのはむしろ逆効果です。熱の放散を妨害し、 i入眠を阻害してしまうからです。どうしても冷たくて眠れないときは、寝る寸前まで靴下をはいておき、入眠直前に脱ぐようにします 。あるいは、レッグウォーマーでパジャマの裾がめくれないようし、かつ、足首まで温めて足先は出すようにすると、放熱作用を妨害せずにすみます。湯たんぽを利用したり、電気毛布等であらかじめ布団を温めておくのもよい方法ですが、もちろん電気毛布を利用する際は、スイッチを切って寝るようにしてください。冷え性の方は、運動などによる体質改善で手足の血行をよくすることも心がけてください。 深部体温は睡眠中に下がり、朝になれば上がってきます。入眠時は室温は少し低めがよいのですが、明け方に室内が冷え切っていると起きづらくなるだけでなく、朝の頭の状態もスッキリしません。また、健康面でも問題が生じます。とくに中高年以降、明け方に起きやすいヒートショックは、寝室の温度とも関係があります。
明け方に自然に深部体温が上がるよううまくコントロールしていくと、 よい目覚めが得られ、 一日のバフォーマンスにもよい影響をもたらします。

・昼間の活動力を増やし体温を上げておく P96
 多くの名著を遺された評論家の外山滋比古氏が「思考の生理学」で、思考の形成に役立つ状態として、「三つの最中」つまり、「三中」を挙げてます。その「三中」とは、無我夢中、散歩中、入浴中。単純な作業や動きの最中は、脳が素晴らしいアイデアの浮かぶ状態になっているということでしょう。たしかに、好きな読書に熱中していると、思考が深まると同時に精神が整うような感覚が得られます。考えごとや悩みごとがあるとき、私はよく散歩をするのですが、近所をゆっくり一周し帰宅するとたいていアイデアはまとまり、悩みごとの答えも見つかっています。同じような目的で銭湯へ行くこともあります。お風呂も考えごとには最適です。長く湯船に浸かるとのぼせてしまいますから、足だけ浸けて1時間でも2時間でもボーっとしています。足が温まっているだけでも血流がよくなり、まさに「頭寒足熱」の状態になります。
 これら「三中」によって「頭が冴える」効果が期待できるわけですから、日中に立つ、歩くなど体をよく動かすことも同様に前頭葉を刺激します。前頭葉は、記憶を引き出す、論理的に考える、適切に判断するといった生きる上で重要な働きをしているだけでなく、クリエイティブ思考や発想力を高めたり、考えを切り替える作業を行ったりします。その人がその人らしく、持てる能力を発揮していくために機能します。
 さらに、睡眠の観点からも計り知れないメリットがあります。
日中にしっかり体を動かして体温を上げておくと、体内の活動性を高めてくれるセロト ニンというホルモンがストックされるといわれています。 そのセロトニンが夜になると睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を促し、夜の睡眠に好影響をもたらすのです。

・「一日のどこで体を動かすか」を意識する P98
 日中に体を動かすといっても、ランニングやスポーツを毎日継続するのは現実的に難しいでしょう。ここでいう日中の活動とは、日常のなかで立っている時間や歩く時間を少し増やす程度のことと考えてくださって結構です。一日中パソコンの前で作業をする職種の方は、肩や腰がガチガチに固まりがちです。肩こりや腰痛といった身体的な不調を感じながらも、仕方のないこととあきらめているケースも少なくないでしょうが、昼間にできるだけ立つ機会を増やすことをおすすめします。座っているときよりも立っているときのほうが前頭葉の働きがよくなり、認知能力や集中力、判断力が上昇することが研究で明らかになっています。最近、取り入れる企業が増えていると聞くスタンディングデスクで、立ってパソコン作業を行うのも―つの方法です。自宅でのリモート勤務でしたら、ちょうとよい高さの台や家具を利月するのも一案でしょう。魃強や会議なども、立った状態で行ってみるといいかもしれません。とくに、アイデアや判断が求められる場面では、じっ座っているよりも立っているほうが、雑念がふり払われます。
 私も、職場で長い電話対応になった際など、席で立ってみることがあります。「なんで立ってるの?」と周囲からいぶかしがられることもありますが、立つことで脳に刺激が与えられ、集中力や持続力が増す感覚が得られるのです。ちなみに、足は第2の心臓といわれています。現代人は、手指はパソコンでよく動かしているのですが、足指はお留守になりがちです。そこで「足指グーパー」をやると血流がよくなり、脳が活性化します。靴を脱いでやるとリラックス効果も高まります。運動不足を自覚していても、解消のための時間をとれないのが現実だと思います。だからこそ「一日のどこで体を動かそうか」と常に意識しておくことがたいせつで、そのためには自分が楽しみながら実践できる方法をたくさん知っておくことが、実戦の助けになります。

・ベランダや外階段で深呼吸10回 P99
 オフィス勤務や自宅でのリモート勤務が基本で外へ出るのが難しい環境の方は、昼休みにできるだけ外出しましょう。そして、トイレのついでなど細切れ時間を利用して、ベランダや屋上へ出ることをおすすめします。私はよく子どもたちに、「一日1回、ベランダに出て空気を10回吸おう」と提案しています。このとき遠くを眺めるようにすると、頭がスッキリします。オフィス内の日当たりがいい場所で休憩したり、窓際へ行くだけでも効果があります。室内の蛍光灯の明るさは500ルクス程度で、昼間の晴天太陽光は10万ルクス程度。普段、室内で過ごしている人は、200分の1程度の光しか浴びていないことになります。しかし、曇りの日でも3万2000ルクス程度の明るさがあるため、とくに窓際は有効活用してほしいスポットです。もちろん、曇りでもどんどん外へ出ましょう。外階段があるオフィスならば、エレベーターを使うより健康やダイエットにもよいというおまけもついてきます。
 移動して場所を変えることで、脳の海馬にある「場所ニューロン」という組織が刺激され、海馬全体が活性化するといわれています。脳が「これまでと違う場所」と認識してリフレッシュされるので、昼休みや休憩時に移動してみると頭の働きが活発になります。出勤した日の昼食時におすすめなのは、自前のお弁当やお店からテイクアウトしたランチを公園のベンチなどで楽しむアウトドアランチです。オフィス街のパプリックなフリースペースを利用してもいいですね。居心地がよいと感じる、お気に入りの場所を見つけておくのがポイントです。太陽の光に当たり、公園の緑や花壇を眺めながらとるランチは、体温を上げる効果だけでなく、午後からの集中力によい影響を与えてくれます。光や風など自然のなかにある揺らぎを感じてみてください。昼と夜は24時間のなかでつながっており、夜の睡眠と昼の生活は互いに影響を与えあっています。日中の覚醒度を高めることは、その日の夜の睡眠によい影響を与え、次の日の脳の働きをさらに高めてくれるというよい循環を生みます。

・夜の眠気の正体とは P103
 どのような生活リズムを保てば夜の睡眠をよりよいものにできるのか。ここでは眠気が起こる仕組みにふれながら、生活改善のポイントを紹介します。
 本章では、生体リズムと睡眠の関係を取り上げていますが、生物の生体リズムを司どる体内時計の中枢は、脳の視床下部の「視交叉上核」ところにあります。視交叉上核は、体温、ホルモン分泌リズムなど、人間に備わっている24時間周期の体内リズムをコントロールしています。人間の体内時計は24時間ちょうど ではなく24時間より少し長いので、その微妙な誤差をリセットするのが朝の太陽の光です。網膜で感知した太陽の光によってて視交叉上核からら活動開始の信号が発信されます。視交叉上核はいわば、全身の体内時計を統括する詣揮者のような存在なのです。
 このとき、視交叉上核からの情報が上頸部神経節を介して脳の松果体に伝達されると、メラトニンというホルモンの分泌が抑制されます。このホルモンが、夜に脳の松果体で分泌されるために体温低下や眠気を誘発します。メラトニンの血中濃度が高くなると眠くなることから、睡眠ホルモンとも呼ばれています。朝の光を感じると、網膜にある視覚には関係しない「メラノプシン」という受容体が視交叉上核へ信号を送り、メラトニンの分泌は抑制され、私たちは覚醒状態に入ることができるわけです。

・睡眠ホルモン「メラトニン」P104
 睡眠ホルモンであるメラトニンの材料になるのがセロトニンです。幸せホルモンとも呼ばれる、私たちの覚醒を司る物質です。私たち研究者は、睡眠と覚醒のメカニズムに関連するさまざまなホルモンを分子レベルで研究しています。たとえば、セロトニンを染色する技術によってこのホルモンが脳だけでなく腸にも存在し、体内のいろいろな場所にストックされていることがわかってきました。セロトニンは必須アミノ酸であるトリプトファンから合成され、太陽の光や身体活動によって合成が促進されます。セロトニンは脳や体で蓄えられていますので、数日程度光を浴びなくてもとくに問題はありませんが、北欧で見られる季節性感情障害(太陽が一日中出ない極夜の時期に現れる鬱症状)は、セロトニンの減少がその要因だと考えられています。合成・貯蔵されたセロトニンの大部分は、脳や体で神経伝達を担いますが、一部がメラトニンの材料になり夜間に合成、分泌が起こります。メラトニンはセロトニンとは異なり、脳で蓄えることができず、日没の数時間後の夜間になると合成され、すぐに放出されます。そのうえ、メラトニンのスムースな分泌には条件があり、夜になって光を浴びるとすぐに合成の抑制が生じます。質のよい睡眠を得るためには、朝起きたらカーテンをシャッと開けて光を浴びる、日中に太陽の光をたくさん浴びて活動するといったことが欠かせないのですが、いちばんたいせつなことはメラトニンが夜にしっかりと分泌される習慣を身につけることです。なかでも心がけたいのは、就寝前に光を浴びないことです。

・夜の過ごし方が質のよい睡眠の基軸 P106
 質のよい睡眠のために、夜の時間をできるだけ暗い環境で過ごすように心がけてください。私の場合、夕食後は、好きな音楽をかけてゆったりと過ごします。リビングを問接照明に切り替えて静かにしていると、しだいに眠気が訪れます。とても心地よい状態ですから、他のことはもう何ひとつやりたくなくなくなります。たとえば、「書類にサインを」といった些細な作業を妻に頼まれても、脳がまったく反応しないほどです。メラトニンの血中濃度が高まった状態で、副交感神経が優位になっているわけです。

・金曜日の早寝はいいことずくめ P113
 金曜日の早寝は、実はいいことずくめです。仮に普段より1時間早く寝たとしたら、翌朝の土曜日は1〜2時間ほど長く寝ていてもオーケーです。何せ解放感あふれる金曜日は、「次の日が休み」という安心感からよく眠れる環境が揃っています。このタイミングでガツンと眠れば、深く質のよい睡眠が得やすくなります。こうして、金曜日に普段より2〜3時間多く睡眠をとれたら、 たった一晩でも脳はかなりリフレッシュされ、生体リズムの乱れも起きません。心身のリカバリーもスムースにいきます。
 お酒が好きな方は、土曜日の夕方のなるべ く早い時間から飲み始める習慣に変えていってはどうでしょう。夜遅くから飲み始めると、睡眠を阻害する原因になってしまうのですが、飲み始めてから就寝までにたっぶり時間があれば、体への負担は最小限ですみます。些細なことと思われるかもしれませんが、このちょっ とした工夫で月曜日の朝が変わります。もちろん、時間や飲酒量などの目安を持っておくことも忘れないでください。 睡眠は、今日このときをたいせつにする気持ちがまず必要ですが、その気持ちを持続さ せていくためには、実現・持続可能な睡眠習慣の目標を立てるアクションが求められます。
昨日は眠れたけど今日はイマイチということは誰にも起こります。頭の働きが常に絶好 調でキープできるわけではありません。

・徹夜より、眠くなったら寝る「分割睡眠」 P115
 睡眠圧が高まったところで仮眠をとると、いちばん深い睡眠に入れるので短い時間でも目覚めがスッキリします。本来、睡眠とはまとまった長時間をしっかり眠るのが理想ですが、それが難しいときは、眠くなるのを待って眠気を感じたときにしっかり寝る「分割睡眠」という方法があることを覚えておいてください。分割睡眠は、徹夜対策のみならず加齢による中途覚醒や短時間睡眠で悩む人にも―つの解決策になります。眠気のタイミングを逃してしまうと、眠たくて仕方ないけど眠れなくなり、生体リズムが乱れる原因になります。眠れないという悩みにさいなまれるよりも、分割睡眠で対策をとったほうが賢いといえるでしょう。私自身が積極的に実践している睡眠方法でもあります。
 具体的な方法を紹介していきましょう。明朝までに仕上げなければならない仕事かあるとき、作業にかかる時間をあらかじめ逆算しておき、眠くてたまらない状態になったときに15分、30分、1時間など細切れに寝ます。もちろん、しっかりとスマホのアラームをかけておきます。睡魔に負けて机やソファでウトウトという眠り方がいちばんもったいないので、寝床できちんと横になるのがコツです。目覚めたら、体を温める、立つ、頭がスッキリし、すぐ仕事や作業を再開できます。今日の徹夜は、今日一日のダメージでは終わりません。脳と心身の疲れとして確実に蓄積されていきます。睡眠負債をさらに増大させ、記憶力をはじめとする脳の持つ力を削りとっていくことにもつながります。

・覚醒を促すには深部体温が上がる飲み物を P126
 スムースな入眠は、深部体温が下がるタイミングを逃さないことだと先にお話ししましたが、覚醒を促すにはその逆の、深部体温が上がる工夫をすればよいのです。味噌汁やスープなどの汁物や、ホットコーヒーやホットミルクといった飲み物を朝食に取り入れる工夫をしてみましょう。生野菜のサラダを温野菜に替えてみるのもいいでしょう。

・セロトニンをつくる原材料、必須アミノ酸のトリプトファン P127
 夜になるとメラトニンの材料になるのがセロトニンであることはすでにお伝えしました。セロトニンは、昼間に太陽の光を浴び、活動して体温を上げることで、脳内や体内のさまざまな場所に蓄えられますが、このセロトニンをつくる原材料になるのが、必須アミノ酸のトリプトファンです。トリプトファンは、

大豆、納豆、チーズやヨーグルトなどの乳製品、バナナ、魚介類や肉類などのたんばく質に多く含まれています。ですから、豆腐入りの味噌汁などは、睡眠ホルモンをスムースに分泌させるのに役立つメニューの代表といえます。必須アミノ酸は体内で生成することはできませんが、バランスのよい食事を心がけていればそれほど神経質になる必要はないでしょう。質のよい睡眠を求めるのならば、夜の食事を軽くし、朝からしっかり食べる習慣を実践してみてください。
 ただ、トリプトファンが含まれる食品を摂るのはもちろんたいせつですが、朝食で摂ったトリプトファンが日中の活動のおかげでその日のうちにセロトニンになり、そのセロトニンがその日のうちにその夜のメラトニンになるといった単純なことではありません。セロトニンは体内のさまざまな場所にストックされていて、トリプトファンが摂取されなければ合成されないわけではないのです。また、セロトニンは太陽の光を浴びることで分泌されますが、日本のような気候では、数日くらい太陽の光を浴びなくても大きな影響はないでしょう。
 ただ、 毎日の生活で、 太陽光を好んで浴びる人と、太陽光を回避する人では、年間を通じて照射量は大きく変わることも覚えておいてください。太陽光を回避すれば、太陽光で活性化されるビタミンDの量も減ります。ビタミンDは、食物からのカルシウム吸収を促し、血液中のカルシウム濃度を一定の濃度に保つ働きがあり、骨格を健康に維持するのに役立ちます。 骨量を保ち、 骨粗繋症を防ぐためにもビタミン Dは必須です。

・脳の過緊張をそのままにして寝ない P151
 一日が終わり、食事、 入浴など就寝までのルーティンを終え、あとは寝るだけという状態になっても、頭の中にいろいろな感情や情報がうずまいたままでクールダウンできないことはないでしょうか。「脳がパンパンな感じ」「頭がギュウギュウでほどけない」のは、脳が過緊張の状態にあるからです。
 脳の過緊張が起こる理由のーつが、自律神経の乱れ。 自律神経の働きを乱す原因として考えられるのか、 コルチゾールというホルモンの過剰な分泌です。コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホル モンの 一種で、心身がストレスを受けると急激に分泌されることから、 「ストレスホルモン」とも呼ばれています。通常、分泌が最も多い時間帯は起床時で、夜には少なくなり、身体の活動リズムを整えてくれます。
 ところが、 ストレスを感じるできごとがあると、 そのたびごとにコルチゾールが放出されてしまいます。それが一日中続くと、 夜になってもストレスフルな状態のまま、疲れているのに目がさえて眠れない、 などといったことになりがちなのです。
また、強いストレスが長期間にわたりかかり続けると、 コルチゾールの分泌が慢性的に増えることがあり、不眠症やうつ病などのメンタルの不調や生活習慣病などにつながるケースが多くなることがわかっています。
 ストレスコントロールで大事なのは、 防衛スキルでしょう。 できるだけストレスを減らして、コルチゾールの放出を避ける工夫が必要です。たとえば、 一つのメールが気になって、 朝まで寝られないことはありませんか。 私は、仕事にまつわるシピアな問題が含まれているに違いないと予測できるメールは、夜は読まずに朝にまわします。寝る前に読んでしまうと、考え込んだり腹が立ったりでコルチゾールが大放出されて脳が覚醒し、眠るべきときなのに脳が緊張状態になり入眠が妨げられる
からです。
 しかし、朝起きてから読めば、それほどたいしたことでもないと感じられます。このように、日常のなかでストレスを回避する自分なりの工夫をしていくことが、睡眠の質を落とさないコツです。

・中途覚醒はあまり気にしなくていい P165
 睡眠の途中で目覚めてしまう、中途覚醒を気にしている方も多いでしょう。中途覚醒は、30代以降しだいに増えてくる現象で、中高年になるととくに頻繁になりがちだといわれています。その理由は明確です。睡眠ホルモンのメラトニンは思春期をピークに減少するので、年齢を重ねるにしたがい、目覚めやすくなるのです。深夜に覚醒してもすぐにまた眠れるなら、あまり気にする必要はありません。自然現象だと受け流して、今の生活を続けていきましょう。中途覚醒するとなかなか再入眠できずに困っている人は、まず、目覚めてしまうことにネガティブなフォーカスばかりしていないか、自己チェックをしてみてください。  
 目覚めたときに、その日に起こったイヤなできごとや感情を思い返してますます眠れなくなるなら、見直したいのは中途覚醒そのものではなく、わざわざ負のループヘ迷い込む思考のクセです。ストレスを溜め込んでいないか、心身が疲れ過ぎていないか、生活を振り返るチャンスととらえてみましょう。
 とはいえ、中途覚醒の際のちょっとした心がけで再入眠へ誘える方法もありますので、ここで紹介したいと思います。中途覚醒したとき、いちばん気をつけてほしいのが光です。つい無意識にスマホをいじっていませんか。画面を眺めているうちに眠くなるかもしれない……というのは大きなカン違いです。光によって脳がどんどん覚醒してしまいます。就寝するとき、スマホはすぐ手の届かない場所へ置くなどの工夫をしましょう。もちろん、スマホ同様に光を発するテレビやパソコンをつけるのも避けたい行動です。みんいくでも、「スマホは電源を切り、別の部屋に置いて寝ましょう」と指導しています。トイレヘ行く習慣がある場合は、動線の確保がカギです。できるだけ部屋の電~をつけずにトイレまで安全に行けるよう、フットライトや人感センサーライト、蛍光テープを利用します。階段を使う際は、空間がうっすら見え、安心して移動できる<らいの灯りに調整していきましょう。
 暗闇でも見える時計を寝室ににないときは、いったん襄床を靡れる、静かな音楽を蒻く、白湯を飲再入眠できそうむ、ボーツとする、窓を開けてみるといったことがおすすめですが、やはり灯りには気をつけてください。そんなとき、時間が気になってしまう人がほとんどだと思います。そこで時計を見てしまうと、「あと○時間で起きないといけない」と、無意識のうちに脳が計算を始めます。脳はとても賢いのです。なかなか寝つけずにまた時計を見ると、どんどん時間が減っていく感覚が、ますます焦りを生むという悪循環を生じさせます。寝なきゃ寝なきゃと焦れば焦るほど、脳は覚醒してしまうのです。再入眠が難しいとき、翌日の都合や置かれた状況にもよりますが、眠れないならいっそそのまま起きてしまうというのも―つの考え方です。超早起きをしたのだというふうにとらえ、翌日に昼寝の時間を確保する。一晩中まんじりともせず寝床で過ごすより、メンタルヘのダメージも少ないでしょう。時間がわからないことでかえって不安が増幅する場合は、暗闇でも見える時計を寝室に置き、スマホで時間を確認しなくてすむようにしてください。日々のちょっとしたアクションで睡眠に対するネガティブな感覚をコントロールし、睡眠を人生の味方にしていきましょう。

・昼間のイライラ、クサクサを夜まで持ち越さない P184
 朝、家族とちょっとした言い合いになり、イヤな気分を一日中ひきずってしまった経験はどなたにもあると思います。そんな心の乱れは、その日のパフォーマンスに影響します。子どもたちを見ているとよくわかりますが、イライラしていたり、大きな不安があると、集中力を欠きます。いつも授業に集中できる学力の高い子どもであっても、「友人とけんかした」「先生に叱られた」「お父さんとお母さんが不仲だ」といったできごとのせいで、一気に集中力も学習意欲もなくなってしまうのです。このような子どもの頭の中では、「あいつ腹立つなあ」「失敗したなあ」「どうしたらいいんだろう?」といった、授業とは関係のない感情や思いがぐるぐるしています。子どもの集中力を高めるには、授業の間は授業とは関係のないことを考えさせないようにすることが有効です。そうすると、精神が安定し、落ち着きを見せ始めます。
 みんいくを通して、昼間の過ごし方のケアが、まわり回ってよい睡眠につながることが、多くの実例とともにわかってきています。心がざわついたり、クサクサするようなことがあったら、その感情を夜まで持ち越さないようにすることがたいせつです。たとえば、仕事中に心が乱れたと感じたら、その場を離れる。いったん外へ出る。状況が許すのであれば、その仕事から離れて別の集中できることに取り組んでみる。いっそ、昼寝をする。さらには早退する、有給をとる、休暇をとる。
 心が乱れるということは、自律神経が乱れるということです。その状態をまずフラットに戻そうと意識を向けるだけで心の安定がはかれ、夜の睡眠への影響は最小限にできます。

・セルフメンタルケアが睡眠を守る P185
 最近、スポーツジムでも、ビジネスパーソン向けのマインドフルネスのクラスが増えていると聞きます。睡眠のためにも、仕事帰りの深夜の激しい運動はできるだけ避けてほしいのですが、ヨガや呼吸法など、マインドフルネスの感覚を習慣づけるためのクラスであれば、よい効果が期待できるでしょう。仕事が終わってから就寝までの間は、前にも触れたように、睡眠へ意識を向けていきたい時間帯です。疲れ切って帰宅し、いきなりぐっすり寝ようと思ってもそれは難しいでしょう。たとえば、西野先生からお話しがあったように、夜は照明を落とした静かな空間で心を落ち着かせるという方法は、誰でも今日から気軽に実践できます。
 私の場合は、寝る前に瞑想をしています。よい睡眠のためだけに行っているわけではなく、趣味の一つでもあります。毎晩、帰宅後、食事、入浴などやるべきことをすませて就寝の態勢に入ったら、寝室で正座して、般若心経を唱えます。以前、高野山の宿坊で修行したことがあり、それ以来の習慣になりました。私にとって寝る前の瞑想は、睡眠へ向けて心と体を整えて準備していく時間で、言ってみれば「睡眠への助走」です。この助走に入れば、心身が心地よい状態になり、眠りへとゆっくりいざなわれていきます。こうしたルーティンを一つ持っておくと、「睡眠への助走」がスムースになります。もちろん、昼間の心のざわつき、不安、怒りなどの感情を落ち着かせリセットしてくれます。「睡眠へ助走」は、睡眠の質を上げることだけでなく、セルフメンタルケアにもつながるのです。


⚫︎文献② ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎

・脳の老廃物をしっかり洗い流せる寝方は横向き(ほとんどの動物は横向きに寝る)P123

・昼寝時間 P107
10〜20分:脳の疲れや認知機能の改善
30分:頭も冴えて思考力や理解力も向上し、さらにアンチエイジングの効果あり。
※眠りに落ちていなくても15分間目を閉じてぼんやりしているだけで、脳の疲れがとれて働きも向上するという研究報告あり

・換気 P139,140
 寝ている部屋の「空気の質」もっと言うと「二酸化炭素の量」が睡眠の質を左右することが判明している。換気をした部屋で寝たグループは睡眠の質が上がっただけでなく翌日の集中力や論理的思考力もアップしていた。

・雑事に多くの時間を使う人(P142)
 ドイツのライプツィヒ大学の論文では、不安になりやすい人ほど掃除や片付けさなどの「雑事」に時間を割こうとする傾向があることもわかっています。3年以上日記をつけている1300人のドイツ人(平均年齢51歳)を対象に、その人の性格と日記に書かれた「ありがちな行動」の関係を調べたところ、

 誠実性が高い真面目な人
  →仕事と勉強に多くの時間を使っている
 外向性が高い社交的な人
  →人との交流に多くの時間を使っている
 開放的で好奇心旺盛な人
  →読書とスポーツに多くの時間を使っている
 神経症傾向が高く不安になりやすい人
  →掃除などの雑事に多くの時間を使っている

という結果が得られたといいます。そう考えれば、不安があってなかなか眠れない人ほど、部屋が散らがちているとそれが必要以上に気になって、さらに眠れなくなってしまうとも言えるのです。

▼「書き出す」という行為で不安が解消される P220
 明日のプレゼン、大丈夫かな。ミスったらヤバいな。今日発生したトラブル、どう対応したらいいかわからない。今のペースじゃ、とてもじゃないけど納期に間に合わない。困ったな。
 こうした不安や心配事も脳を覚醒させる刺激となって、スムーズな寝付きを妨げる一因となります。ですから睡眠の質を高めるには、ベッドに入っても頭をもたげてくる”気がかりという名のストレス“をできるだけ和らげることも大事になります。
 そこでおすすめなのが、不安やストレスを「紙に書き出す」というアプローチ。
 不安の元凶そのものの解消はできませんが、ネガティブに転びがちな感情や思考を整理し、脳を落ち着かせてリラックス状態に導くためのシンプルかつ非常に効果的な方法です。
 これは脳の前頭葉を活性化してネガティブ感情をコントロールする「認知行動療法」のひとつで、
・ものことの事態や状況が整理され、明確に見えてくる
・自分を客観視できて、冷静になれる
・ストレスに晒された心を癒してくれる
といった効果が期待されます。悩み事は、人に話して聞いてもらうよりも、ノートに書きつける方が心が落ち着き、ストレスや不安も和らぐんですね。
 そこで、不安で眠れない夜とサヨナラするためのナイトルーティンとして、アプローチを紹介したいと思います。

▼「エクスプレッシブ・ライティング」で今日のネガティブ感情を整理する
P222
 ひとつめは、「エクスプレッシブ・ライティング」です。これは自分の頭のなかに湧いてくる思考や感情を、ひたすら紙に書き殴るというもの。アメリカの社会心理学者ジェームス・ペネベーカーによって考案されたテクニックで、「筆記開示」とも呼ばれています。
 エクスプレッシブ・ライティングは最高のメンタルコントロール術と考えられています。良質な睡眠を得られるだけでなくい自分自身の思考や感情に冷静に向き合うこにE平常心がもたらされ自制心も高まるため、人間関係のストレスが緩和さたり、面接や試験などでも緊張しにくくなったりするといった効果も期待されています。
 やり方は簡単で、毎日ベッドに入る前に最低でも8分間、できれば20分間かけて、自分が抱えている悩みや不安、気がかりなことなどのネガティブ感情を紙に書き出すだけ。
 最初のうちは「20分なんて長い!」と感じるかもしれませんが、いざやり始めるとあっという問に時間が過ぎてしまいます。
 やり方は簡単です。用意するのは「紙」と「筆記具」のみ。
 紙は何でもかまいません。折り込みチラシやミスコピー用紙の裏で十分。筆記具もペンでも鉛筆でも何でもOKです。あとはひたすら書くだけなのですが、それでもいくつかルールがあるので、次に挙げておきます。
1)ベッドに入る1時間以上前に行う
 お風呂に入る前でも、お風呂上がりでも、仕事から帰宅したときでもかまいませんが、寝る直前ではなく、1時間以上前に行ってください。
2)書く手を止めない
 大事なのは手を止めずに書き続けることです。とくに書くことがない、何も思いつかないという場合でも、「う〜ん」と考え込むのではなく、その思いをそのまま「何も書くことがない」「何も思いつかない」と書き出してください。
3)本心、本音を書く
 書いた内容は公表するわけでも、誰かに見せるわけでもありません。なので「こんなこと思ってるなんて、恥ずかしい」とか、みっともないとか、不謹慎だとか気にしなくて0k。自分を飾らず、我慢せず、思っていることを本心のまま書き出してください。
4)書いたら捨てる
 思い切り書き出したら、それでおしまい。とくに自分が書いたものを読み返してチェックする必要などありません。書き出した紙は丸めて捨ててしまいましょう。

 エクスプレッシブ・ライティングは最低でも4日は続けないと効果が薄れてしまうことがわかっています。まずは4H間のチャレンジから始めて、徐々に毎日のルーティンにしていきましょう。
 ネガティブな感情の処理は、”理性の脳“などと呼ばれ、自己コントロールを司る脳の前頭葉で行われています。エクスプレッシブ・ライティングを行うことで前頭葉一の処理機能が起動し、抱えているネガティブ思考やネガティブ感情、仕事や人間関係によるストレスなどが整理されてクリアになります。その結果、リラックスできて気持ちよく眠れるのです。

▼ 「プレディクション」で、明日への不安を解消する P226
 2つ目は「プレディクション」です。これは「明日の予測を書き出す」という快眠テクニックのこと。夜、明日の「予定の確認」をする人は多いと思いますが、ここでするのは、その予定がどうやって進んでいくのかを「予測」して「書き出す」という作業です。持ちよく眠れるようになるのです。
 簡単に言えば、「明日という1日は、多分こんな感じで進んでいくんだろうな」というストーリーを予測しておくということ。
 例えば、
 「0時までに△△関係の書類を仕上げる」
 「午後は0時からWeb会議で取引先にプレゼン」
 「夜はX時までにクリーニングを取りに行く」
 でもここで言う「予測」とは、前ページの図のように明日1日のおおまかな流れを、ストーリー仕立てで考えておくことです。そしてこうしたストーリー的な予測を、頭のなかではなく「紙に書き出す」のがプレディクションになります。
 明日の予定やタスクを書き出しておく人はいますが、明日1日のストーリーまでを予測して書き出す人はほとんどいないでしょう。
 明日の仕事が不安で眠れない。明日のプレゼンが上手くいかなかったらどうしようか
うか気がかりで目が冴える―。人間は、まだ見ぬ未知のものや知りようがない未来のことに対して大きな不安を感じるものです。
 そこで、プレディクションによって「未知なる明日」のより詳細な予測を立てて明文化しておく。「きっと明日はこんな感じなんだろうな」と思えることで、眠りを妨げる明日への心理的な不安を緩和することができるというわけです。
 前述したエクスプレッシブ・ライティングで「今日」のネガティブ感情を整理し、プレディクションで「明日」へ不安を抑制する。2つの「書き出すテクニック」をセットで実践すると、より高い快眠効果を得ることができると思います。

▼朝のNG行動①ネガティブなストレス予想 P280
 朝起きて新しい1日のスタートを迎えたとき、ふと、
 「あ〜、今日は苦手なお得意さんとの商談か。気が進まないな」
 「今日は1日中予定がパンパンで残業確実。面倒くさいなぁ」
 「今日って朝から営業会議じゃん。また部長に絞られるのか。嫌だなぁ」 
 など、その日の「嫌なこと」「憂鬱な予定」が頭に浮かんでげんなりするー誰にでもあることだと思います。

 でも、これは最悪。朝、やってはいけないNGアクションの筆頭です。
 ペンシルベニア州立大学の研究では、人間は「ストレスフルな事態が起きそう」と予測するだけで、脳のワーキングメモリ(情報を一時的に保持しながら、同時に処理をする能力で、日常のあらゆる判断や行動に関っている)の機能が著しく低下してしまうことがわかっています。
 実際にその「嫌なこと」「ストレスフルなこと」があろうがなかろうが関係なく、予測しただけで脳の働きが悪くなるのだそうです。
 私たちの1日の行動は、朝の行動に大きく左右されます。朝イチで、気分が滅入って凹むようなことがあったり、面倒くさいことを言われたりすると、その日はもうー日中イライラしているー。このように、朝に受けるネガティブなストレスは、1日中引きずってしまいがちです。
 人間の頭のよさ(IQ=知能指数)はそう簡単には上がりません。つまり、そう簡単に頭がよくなることはありません。しかし、逆は違います。頭が悪くなる(IQが下がる)ときは、いとも簡単に悪くなって(IQが下がって)しまいます。朝のネガティブなストレスは、簡単にIQを下げる要因の中の一つなのです。

・重要な局面でとんでもない決断ミスを犯してしまう
・信じられないような凡ミスを繰り返してしまう
・頭がぼんやりとして仕事が手につかなくなる
 こうしたケースは、ネガティブなストレス予測によってIQがダダ下がりしていることが原因だったりするもの。
 朝一番の「今日は嫌なことが多そう」とネガティブな予測は、それだけで思考力や集中力、判断力の低下を招き、その日のパフォーマンスに大きな悪影響を及ぼすことになります。大事なのは、朝起きたらとにかくポジティブなことを考えることです。たとえその日に嫌なことがあっても、「それを乗り越えたら気分がいいはず」「サクッと済ませて、夜は飲みに行こう」などと前向きな予測に変換してしまいましょう。


▼朝のNG行動② 起き抜けすぐのコーヒー
 朝起きたら、まずコーヒー。目覚めのコーヒーを飲まないと頭が冴えないという人は少なくないと思います。
 コーヒーに含まれるカフェインという成分を朝や午前中に摂取した方がいいという考え方は間違っていませんが、実は摂取するタイミングがすごく重要です。
 朝飲む場合、”起きてすぐ“というタイミングだけは避けた方がいいんですね。その理由は、目覚めを誘発する働きを持つコルチゾールというホルモンの存在にあ午前3時頃から朝にかけて分泌のピークを迎えるコルチゾールの働きによって、私たちの脳は徐々に覚醒していくのですが、その過程でのカフェインの摂取には気をつけた方がいいのです。なぜなら、カフェインがコルチゾールの分泌を妨げるからです。というより、カフェインとコルチゾール、お互いの覚醒作用が相殺されて、コルチゾールの分泌が抑制さ
 朝起きた直後にコーヒーを飲むと、本来増えるぺきコルチゾールの分泌が抑制されて覚醒効果が失われ、眠気が覚めずに体がだるいなどの症状が起きてしまいます。朝コーヒーを飲むなら起きてすぐではなく、「起きてから90分以上経ってから」がいいでしょう。

 ただし、それでもあまり飲み過ぎないように。
 1日に摂取するカフェインの適量は、コーヒーにすると健康な成人で450ミリリットル程度(小さめのカップで3杯くらい)と言われています。
 なかには朝だけでこの量に達してしまう人もいるかもしれません。しかし、カフェインを過剰摂取すると、刺激が強くなって典奮状態を招き、精神的な不安感や焦燥感、いらだ苛立ちなどネガティブ感情が生まれることがあります。
 そうなると、先に解説した『朝のNG行動①ネガティブなストレス予想』につながってしまう恐れがあるので、朝のコーヒー摂取量には注意が必要です。

▼朝のNG行動③ 頭を使わない簡単なタスク P286
 朝のうちはすぐには本気の仕事モードになれない。いきなり重要な仕事なんてしたくないから、手始めにメールチェックでもしようーーこんなふうに考えて、朝イチは簡単なタスクから手を付けるという人も多いでしょう。
 でも、それもまた、やってはいけない朝のNG行動です。
 朝イチで取り組むのなら、シンプルなルーティン仕事などではなく、緊張感のある重要な仕事や思考力や集中力が必要な難しいタスクにするべきなんですね。

 脳に負荷がかかる困難なタスクを「朝やるべきか、夕方やるべきか」について調べた研究があります。
 私たちの体にはストレスから生体を守るために「HPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎系)」という反応系列の仕組みが構築されているのですが、その働きは「朝が高く、夕方から夜になるほど低くなる」ことが、その研究でわかっているのです。

 つまり人は、朝の方がストレスに強いということ。もちろんネガティブなストレスは排除しなければいけませんが、自分にとって意味のあるポジティブなストレス(仕事への集中や緊張、前向きな思考など)ヘの耐性は夜より朝の方がが高いんです。ですから朝にこそ、メンタルの負荷が高い重要な仕事や難しいタスクをやるべきです。
 逆に言えば、朝にメールチェックやデスクの片付けのような簡単で頭を使わない作業しかしないのは、ストレスに強くなっている”自分のムダ遣い“で、ものすごくもったいないんですね。
 ストレスに強くなっている朝こそ、自分のためになる、やりがいのある、す。でも少しハードで困難な仕事に取り組むべきなのです。


⚫︎文献③⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎

・夢を見ているとき、身体はマヒ状態になる(15%)
 レム睡眠に突入すると、大きな変化が起こる。夢を見る段階が始まる数秒前になると、身体は完全に麻痺した状態になり、それがレム睡眠の終わりまでずっと続くのだ。このとき、全身の筋肉はまった<力が入っていない。私がこっそり部屋に入り、起こさないようにその人の身体をもち上げたら、まるで人形のようにぐにゃりとたれ下がるだろう。しかし、安心してもらいたい。動かなくなるのは自分の意思で動かす随意筋だけだ。意思とは関係なく動く不随意筋には力が入っているので、呼吸や心臓の鼓動が止まることはない。しかし、他の筋肉は完全に弛緩した状態になる。
 この筋肉を弛緩させるという情報は、脳幹から脊髄を通って全身に送られる。この情報が伝わると、上腕二頭筋も、大腿四頭筋も、すべて緊張を失ってぐったりする。脳からの指令にまったく応じない状態だ。レム睡眠によって、完全に身体を拘束されている。しかしありがたいことに、レム睡眠の刑期は永遠ではない。レム睡眠のサイクルが終われば、また身体の自由をとり戻すことができる。このように、レム睡眠時は、脳は活発に動いているが、身体は完全にぐったりしているので、研究者はレム睡眠時と覚醒時を簡単に見分けることができる。
 しかし、そもそもなぜ人間は、レム睡眠時に身体が完全に動かなくなるように進化したのだろうか。それは、身体が動かないおかげで、夢の内容を実際に行動に移さずにすむからだ。レム睡眠の間、脳内では行動の指令が次から次へと送られている。夢の中で、あなたは活発に動いている。母なる自然は賢いので、夢の中の動きが本物の動きにならないように、私たちに拘束衣を着せることにしたのだ。眠っているときは外界の情報が入ってこないので、夢の中と同じようにいきなり走り出したりしたら、大変なことになりかねない。おそらく人類という種は絶滅していただろう。脳が身体を麻痺させてくれるおかげで、私たちは安全に夢を見ることができるのだ。
 レム睡眠の間に、実際に脳から動きの指令が出ていることは、どうしたらわかるのだろうか(本人による夢の内容の申告は別にして)。そのヒントは、レム睡眠時にも身体が麻痺しない不運な人たちの存在にある。彼らは夢の中での動きを、実際に行ってしまうのだ。第1章でも詳しく見ていくが、この症状は大きな悲劇につながることが多い。

・レム睡眠が心の傷を癒す (61%)
 心の傷を癒やすには睡眠が必要であり、とりわけレム睡眠は欠かせない。しかし、レム睡眠の間に夢を見ること、さらにはつらい経験そのものを夢に見ることは、過去の不安や恐怖から解放されるために必要なことなのだろうか? シカゴにあるラッシュ大学のロザリンド・カートライトが、患者を治療する過程でこの疑問を解決してくれた。
 カートライトの調査によると、トラウマになるような体験をした直後に、その体験の夢を見た人だけが、その後に抑うつ状態を脱し、心の問題を克服している。彼らは出来事から1年後には、完全に回復したと判断できる状態になっていた。夢は見るが、つらい体験そのものの夢は見なかった人たちは、その体験を乗り越えることができず、1年たっても抑うつ状態を脱することができなかった。カートライトの調査によって、レム睡眠で夢を見るだけでは、トラウマを癒やすことはできないとわかった。つらい経験にともなうネガティブな感情を消したいのなら、それと同じ感情を喚起する夢を見なければならない。傷ついた心を癒やし、過去のトラウマを克服して前に進んで行くには、一般的な夢ではなく、ある特定の内容の夢を見ることが必要だ。

・レム睡眠が洞察力を養う(62%)
 顔の表情は、私たちをとり巻く環境の中で、もっとも重要な情報の1つだ。人間として機能するには、他人の表情や感情を読みとる能力が必要だ。これは人間だけでなく、高い知能をもつ霊長類なら備えておかなければならない能力だ。  脳の中には、感情のシグナル、とりわけ顔の表情を正しく読みとる仕事をする部位がある。そしてレム睡眠の間に整理されるのも、まさにこの部位だ。 レム睡眠はピアノの調律師のようなものだと考えるとわかりやすいかもしれない。感情を読みとる部位がピアノで、レム睡眠は夜の間にすべて正しい音になるように調律する。そうすれば翌日も、調律のすんだピアノで、わかりやすい感情も、わかりにくい感情も、正確に読みとることができる。 そしてレム睡眠を奪われると、この鋭く感情を見抜く能力も奪われることになる。まるで曇りガラス越しに世界を見ているような、またはピンぼけの写真を見ているような気分になるだろう。レム睡眠の夢を奪われた脳は、人の表情を正しく解読することができなくなる。そうなると、敵と味方の区別もつかなくなるだろう。

・レム睡眠が正常になればPTSD症状が緩和され、繰り返す悪夢に悩まされることもなくなるのだ。(62%)

・夢は創造性が生まれる場所 (63%)
 深いノンレム睡眠は記憶を定着させるという働きがある。しかし、それらの記憶を統合し、より高度な目的のために活用するのはレム睡眠の役目だ。レム睡眠で夢を見ているとき、脳はこれまでに蓄えた膨大な量の知識を吟味し、そこからある規則性や共通点を導き出している。そして翌朝になって目を覚ますと、頭の中の情報が整理され、画期的な解決策を思いついたりする。こう考えると、レム睡眠の夢は、情報の錬金術と言えるかもしれない。
 この「アイデアを生む」というレム睡眠の働きから、人類史上でもっとも大きな発見の1つが生まれた。すべての知識と、その知識の間にある関係を発見することほど、レム睡眠の知性の偉大さを物語るものは存在しないだろう。いや、わかりにくい表現だったら申し訳ない。わざと難解な表現をしているわけではないのだ。私はただ、ドミトリ・メンデレーエフが、1869年2月17日に見た夢の話をしているだけだ。その夢から、元素の周期表が生まれた。彼は夢の中で、すでに知っているすべての元素を概観し、その規則性を発見したのだ。
 ドミトリ・メンデレーエフはロシアの化学者だ。彼はその斬新な発想力で、存在がわかっている宇宙の元素には、何らかの規則性があるはずだと考えた。これを神の意図を探す試みと表現する人もいるだろう。メンデレーエフはこの挑戦に夢中になり、元素の名前と主な働きを書いた力—ドまでつくったほどだ。家でも、研究室でも、列車の長旅でも、彼は手づくりの元素カードを目の前に並べ、何らかの規則性を見出そうとしていた。こうして何年も自然の謎に挑戦し、そして何年も失敗し続けた。
 一説によると3日連続の徹夜の後で、彼のイライラはついに頂点に達した。頭の中では元素がグルグル回っているが、どうしても規則性を見つけることができない。メンデレーエフはついにあきらめ、眠ることにした。
 そして彼は夢を見た。夢を見ている脳が、起きている脳にはできなかったことを成し遂げた。脳内に詰まった知識を統合し、そしてひらめきの瞬間が訪れ、すべての元素をきれいに並んだマス目の中に収めたのだ。元素の「周期」と「族」を基準に、性質の変化に従って整然と並んでいる。メンデレ—エフ自身の言葉を紹介しよう。
 私は夢の中で表を見た。その表の中に、すべての元素がびったりとはまっていく。そして目が覚めると、すぐに紙に書いた。後で訂正が必要になったのは、たった1ヵ所だけだった。

 夢はたとえるなら、スゴ腕のインタビュア—だ。彼らは話を聞き出すのがうまく、聞いた断片をつなぎ合わせ、本人も気づいていなかったようなことを指摘してくれる。夢もそれと同じで、私たちから最近の経験をすべて聞き出し、それを「過去」という文脈の中にきれいにはめこんでくれる。
 最近知ったことの意味を理解し、すでに知っていることとの関連に気づく。そこから新しい発想が生まれてくる。これはすべて、夢のおかげなのだ。新しく学んだことを脳に定着させるのがノンレム睡眠の役割だとしたら、レム睡眠と夢の役割は、ある特定の状況で学んだことを、他の状況でも応用するための方法を見つけることだ。
 一般向けの講演でこの発見について話すと、たいてい同じような反論が出る。それは、睡眠時間が短いことで有名な歴史上の人物でも、たぐいまれな創造性や問題解決能力を発揮したではないかというものだ。そのときによく出る名前が、発明家のトーマス・エジソンだ。
 彼の睡眠時間が本当に短かったのか、今となっては知るよしもない。しかし、確実にわかっていることがある。それは、エジソンはよく昼寝をしていたということだ。彼は夢がもつ創造的な力に気づいていた。夢を見る睡眠を「天オの空白」と呼び、とことんまで活用していた。
 昼寝をするときのエジソンは、まず肘掛けのある椅子を仕事机の脇にもってくる。机の上には紙とペンが置いてある。それから鉄のフライパンを右の肘掛けの真下になる床に逆さまにして置く。それだけでもかなり謎の行動だが、エジソンはさらに、鉄製のボールベアリング2個か3個を右手に握る。そして肘掛け椅子に座り、ボ—ルベアリングを握った右手を肘掛けの上に載せ、そこでやっと眠りに入る。
 夢を見はじめると筋肉が弛緩し、右手に握ったボールベアリングが下に落ちる。それが真下にあるフライパンに当たり、大きな音がする。エジソンはその音で目覚めると、夢に出てきた創造的なアイデアをすべて紙に書く。たしかにこれは天才的だ。

・理想的な寝室の温度は18.3度(79%)
布団やパジャマが一般的なものであるなら、ほとんどの人にとって、理想的な寝室の温度は摂氏18・3度だ。これを聞いて驚く人は多い。寒すぎるのではないかと感じるからだ。もちろん、その人独自の体質や年齢、性別によって多少の違いはある。しかし、これは推奨される1日の摂取カロリーと同じで、だいたいの目標にするには悪くない数字だ。現代人のほとんどは、気温が高すぎる環境で眠っている。そのことも、眠りの質や量に満足できない一因になっているだろう。たしかに寒ければいいというわけではなく、12・5度を下回ると、よほど暖かい布団やパジャマでないかぎり、むしろ眠りに悪影響を与える。とはいえ、たいていの人が、室温20~22度ほどの暑すぎる環境で眠っていると思われる。不眠症で睡眠外来を受診すると、たいてい寝室の温度を尋ねられる。そして、今より3度から5度下げたほうがよいとアドバイスされるのだ。

⚫︎文献④
・コルチゾール (39%)
 コルチゾールはストレス耐性を担うホルモン。人間の体内では、目覚める1~2時間前から急激に分泌が盛んになる。コルチゾールの分泌によって、心はウォーミングアップし、「今日のストレス」に備えるのだ。

・二度寝の効果 (40%)
 二度寝の効果はほかにもある。二度寝をしているときの脳は、リラックス効果を促すアルファ波の影響が強くなり、脳内麻薬の一種「エンドルフィン」が分泌される。 エンドルフィンは、自分の好きな音楽や小川のせせらぎなど、心地よい音を聞いたときに多く分泌され、心身の緊張を和らげたり、ストレスを軽減したりする効果がある。

・絶対に守りたい「二度寝」のルール
しかし、いくら二度寝が心身によい影響を及ぼすからといって、何時間も二度寝をしてはいけない。 抗ストレスホルモン「コルチゾール」を最大限に分泌させ、かつ毎日の生活に影響のない程度の二度寝をするには、「二度寝は5分、一度だけ」というルールを守ることが重要になる。二度寝を10分以上すると、それはもはや二度寝とは呼べないくらいの深い眠りに入ってしまうからだ。


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