エスカにのせて
近所の喫茶店が閉店する。
近所と言っても歩いて20分くらいかかる距離にあり、営業時間がとても短いので、なかなか行けなかった。
この店ではエスカが食べられる。
エスカ=エスカロップ。
根室のご当地グルメ的な洋食。
根室以外で食べられる場所はほとんどない。
注文を通される時の、「エスカ」という小気味よい響きが好きだ。
ポークカツとデミグラスソースは洋食の王道中の王道。だけど、エスカのメインは筍入りのバターライスである。
本場西洋料理とは違う、日本的洋食感がとても良い。
注文して食べたエスカは美味しかった。
美味しかったのだが、少々物足りない。バターライスの筍の量が少なかった。
人間、初めての衝撃が一番強いように作られている。
あの衝撃はもう二度と感じられないんだなぁ。
なんとなくの同じことの繰り返しではダメだと言われた気がした。
昔は大盛りでも余裕だったエスカだったが、カツとデミグラスソースの重厚さに、食べ終わる頃には胃が重たくなってしまった。
これも年齢の所為である。
出来ることはその時しないといけないものだとも言われた気がした。
エスカを食べ終わり、普通に店を出た。
常連でもなんでもない。顔を覚えられているわけでもない。
別客との会話によれば、この喫茶店は他の人に明け渡すらしい。
たまたま別れの場に居合わせただけの僕は、店の人とどこかでばったり会っても分からない。
根室がもっと近かった頃の思い出が、エスカにのってこのまま消えて行ってしまう気がする。
だから、今度は自分で筍バターライスを作ってみようと思う。
エスカにのせて思い出が蘇るように。
年齢を重ねるとは、そういうことでもあるはずだ。