きっと、大丈夫
新しい会社に入って3週間が経過した。
1週間丸々出張に出ていたこともあり、あっという間に過ぎた。
倍近くになった通勤時間や早寝早起きには慣れてきたが、仕事にはまだ全然慣れない。
今までの転勤の時もそうだったが、余裕がない時は悪く変わってしまったことに目が行きがちで、それを思い返しては溜息が出る。
良く変わったことに目が向けられるのはまだ少し先になりそうだ。
仕事のランチ先をだいぶ開拓出来た。
それぞれ3回くらい行ったので、認識されて話しかけられるようにもなった。
住まいが変わるたびにこういうことをしてきたが、今回がたぶん一番ほっとしている。
こうやって、新しい街に馴染んでいくんだと思う。
職場で気軽に口を開いていないから、友人と会う機会を増やしている。
気兼ねなく口を開けることの大事さに気付く。
先日、初めて行ったダイニングバーで食事をした。
他の客もいなかったので気兼ねなく会話をしていたら、お店のママのような人に、『きのう何食べた?』って知ってる?と声をかけられた。
カマかけ?ゲイバレ?
あまりない経験だったので驚いたけど、僕も友人も聞かれれば隠さず答えるタイプなので、話に乗る。
帰り際、ママは僕らの名前をメモに書き残して、覚えておくからまたいらっしゃい、と言って見送ってくれた。
そういう背中の押され方が身に染みるタイミングだった。
通勤時間が延びたのは嬉しくないが、定期区間が延びたのは嬉しい。
休日に、延びた定期区間の街まで散歩に行けるくらいには元気が戻ってきた。
お昼時、ふらっと入った餃子屋のテーブルに千鳥酢が置いてあり、それを見て僕は衝撃を受けた。
大きな千鳥の文字、書かれている古歌、三条大橋のラベル。
実家の食卓に常にあった、あのお酢だった。
実家を出て15年、千鳥酢のことなど忘れてしまっていた。ただ、思い返せば北海道では見かけない。
普通の穀物酢を当たり前に買うことに、いつの間にか慣れていた。
ただのお酢だと思っていたあの味。
なんか古めかしい絵だなと思っていたあのラベル。
三条大橋の欄干が、これほど郷愁を誘うものだったとは。
地元の関西を忘れたかったわけではない。
ただ、もう北海道歴が一番長くなり、自分は道民だと思っていただけだ。
もう二度と、渡らないかもしれない三条大橋のラベルと再会した。
僕は忘れていなかった。
今、この街の新しい場所で、新しい出会いが生まれている。
だから、きっと、大丈夫。