見出し画像

メイン11 放課後の怪談

【11話あらすじ】白田が夜の学校で幽霊を見たと言い出し、本物かどうか確かめに行くにことなる。その間小西は、中学の部活の後輩と再会するが…

夏休み
白田はサッカー部の活動のため、昼から学校に来ていた。この日は日光を浴び続け、ハードな練習が続いた。前半で水筒の水を飲みきってしまった白田は、最後の練習試合中、軽い熱中症で倒れかけた。

水に濡らしたタオルを被り、日陰のベンチに座る白田の元に小西が駆け寄る

小西
 おい、大丈夫かよ。

白田
 うぅ〜ん。ダメかも

小西
 ほら、飲めよ

小西は自分の大きな水筒を差し出す

白田
 え、いいの?

小西
 俺のミネラルウォータだからミネラル取れるし。ほら、森田先生の塩分チャージ飴、余計に取ったから、やるよ。

小西が水筒と飴を手渡す

白田
 マジぃ?マジありがとう。お前優しいな

白田はミネラルウォータを飲み、飴を舐める
小西は白田の隣に座る

小西
 …中学の時に後輩が熱中症になっちゃって、それで試合負けたことあんのよ。だから、それから気をつけてんだよね。水分と塩分はマジで大事だからな!

白田
 ふーん

顧問の森田先生が2人に近寄る

森田先生
 白田、大丈夫か?

白田
 いや、ちょっと…だいぶしんどいです。

森田先生
 保健室行っても良いぞ。多分今空いてるから。お前ベッドで横になった方が良いぞ。

白田
 マジすか…じゃあ行って来ます

白田はゆっくり立ち上がり、ミネラルウォータを一口飲んで小西に返した

白田
 ありがとな

小西
 おう。もし無理そうなら帰る時俺荷物持ってくから

森田先生
 これ持ってけ

森田先生はどっさりと塩分チャージの飴を白田に渡した

白田
 ありがとうございます…


白田は電気が付いている保健室の扉を開ける

白田
 すいませぇん…休ませて欲しいんすけどぉ

保健室には誰もいないようだ
白田は保健室のエアコンの温度を勝手に下げてから、靴を脱いでベッドに横になった

白田
 うぅ…気持ちわりぃ


数分後
白田の荷物を持った小西がやって来た

小西
 白田ー?お前の荷物持って来てやったぞ。

白田
 あーありがと。あれ?もう部活終わったん?

小西
 おう、みんなバテちゃって先生が早めに終わらせた。大丈夫そ?

白田
 あぁ…さっきよりマシかも。もうちょいしてから帰るわ

小西
 あっそ。無理すんなよ。


小西は保健室から出て、玄関に向かう

遠山
 あれ?小西先輩?

小西が声の方向に振り返る

小西
 おぉ…遠山じゃん

小西の中学の時のサッカー部の後輩、遠山 駿とおやま しゅんが同じ制服を来て立っていた。背は少し低めで制服を着崩していた。

遠山
 小西先輩もここだったんすね笑。偶然。

遠山は小西を少し見下したような態度で話す

小西
 そうだね。遠山はサッカーやめたの?

小西は少し居心地が悪そうに話す

遠山
 あーはい。帰宅部っす。先輩はサッカー部なんすね笑

遠山は小西のカバンからはみ出すサッカーユニフォームを見る

小西
 あぁ…うん。……もしかして俺のせい?

遠山は目線を逸らし、両手をポケットに入れる

遠山
 ……別に。元々そんなガチじゃなかったんで。

小西
 そっか…。

小西は目線を下げる

遠山
 …じゃ、おつかれっす

遠山は小西の横を通り過ぎる

小西
 うん

小西は振り向き、遠山の背中を見る



1時間後
白田は冷えた保健室でぐっすり寝ていた。
そこに保健室の先生がやってくる

南先生
 ちょっと!起きなさい!

白衣を着たおばさんがカーテンを勢いよく開けた

白田
 うわぁっ…はい!

白田は驚き飛び起きる

南先生
 もぉびっくりしたっ。大丈夫?もうあたし帰るから、とっとと出てって。

南先生は帰る支度を始める

白田
 はあい…

白田は保健室を見渡し、時計を見る。時刻は8時前で外は薄暗かった。

南先生
 熱中症?遅くなっちゃったわ〜。ごめんねぇ、会議だったのよぉ。まあそのあと坪倉先生と世間話してたんだけどね。明日も会議でもぉ嫌になっちゃうわ〜

白田
 あぁ…寝たらだいぶ良くなりました

白田はベッドの上で体を伸ばす

南先生
 もうとっくに正面玄関閉まってるから、裏口から帰るのよ

白田はカーテンを閉めて、ユニフォームから制服に着替える

白田
 裏口ってどこにあるんですか?

南先生
 東階段の横の用具室の隣。分かりにくい場所にあるのよねぇ。冬になるとあそこ真っ暗で怖いからどうにかして欲しいわ

白田は先生と一緒に保健室を出て、一度正面玄関から自分の靴をとって来て裏口に向かったが、普段使わない廊下で白田は迷ってしまった。

白田
 あれ、なくね?…こっちかな?

白田は細い廊下を進み、来たことのない場所に出てしまう

白田
 あれ、ない。えー先生についていけば良かった

白田が頭を抱えていると、遠くから音が聞こえる
ピチャ……ピチャ……ピチャ……

白田
 ……何の音?

白田は耳を澄ませて、辺りを見回す。電気は付いていなく、薄暗い光だけが差し込む。人の気配はない。南先生の言った通り、学校にはもう誰もいないようだ。
白田は恐る恐る音が聞こえる方向へ足を運んだ。
音は近くに聞こえる。廊下の角を曲がっても音の主は見えなかった。音が止まった。

白田
 …気のせい?

白田は引き返し、再び裏口を探す。すると先ほどよりも大きくピチャ……ピチャ……ピチャ……と音が聞こえてくる

白田
 ……。

白田は少し怯えながら階段の上を見る。階段の踊り場には外の街灯の黄みがかかった緑色の光が差し込み、逆光で人のシルエットが見えた。その姿を見ると、膝から下がない骸骨のような老人が、肩の高さまである杖を持ってこちらを見ていた

白田
 ……うわぁぁぁ!!!………ああああ!!!

白田は尻餅を付いて、急いで起き上がり、走って逃げた。走りながら出口を見つけ、遂に学校の外に出られた。
白田は息を切らしながら自転車置き場に走り、急いで自転車に乗って家に帰った。


次の日
白田は数学の補習のため、学校に来ていた。
隣に同じく補習仲間の関口がいる。白田は昨日の出来事を関口に話すか悩む。

白田
 …なあ、お前幽霊信じる?

関口
 は?何急に。信じねーけど。

関口は補習の課題をしながら、バカにしたように答える

白田
 …あっそ。

白田は呆れて前を向く

関口
 何だよ。お前は信じんのかよ

白田
 ……俺も信じてなかったけど

白田は口をつぐむ

関口
 何が言いてーんだよ。ハッキリ言えって

白田
 …昨日見ちゃったんだよ。幽霊

関口は手を止めて白田の方を向く

関口
 は?どこで

白田
 学校。部活から帰ろうとしたら、ピチャ、ピチャって足音みたいな音がして、階段見たら武器持った骨みてーなじじいの幽霊がいたんだよ!!

白田は小さい声で叫ぶ

関口
 は?それただの武器持った骨みてーなじじいじゃねーの?

白田
 足がなかった!!てか学校に武器持った骨みてーなじじいいるわけねーだろ。いや、あれは絶対幽霊だね!この学校が出来る前に死んで地縛霊になった骨みてーなじじいの霊なんだよ。

関口
 いや生前から骨みてーなのかよ。でもこの学校が建つ前、ここ田んぼだったらしいじゃん。去年、創立40周年記念で校長が話してなかった?

白田
 そうだっけ?でもあれは絶対幽霊だよ!俺見たもん!!

白田はつい声が大きくなる

丹波先生
 白田、うるさいぞ。何だ、真っ黒黒スケでも見たのかー?

教卓でパソコンを使っていた先生が、パソコンの画面から顔を覗かせ白田を注意する

白田
 …違います

白田は関口に近づく

白田
 俺今日の夜確かめようと思うんだけど、付き合ってくんね?

関口
 はぁ?何で俺が行かなきゃなんだよ

白田
 頼むよー。なんかあった時、そのたくましい筋肉で俺を守ってよぉ

白田は関口手を合わせてお願いポーズをする

関口
 嫌だよ。自分が行くって決めたなら、自分のことは自分で守れ

白田
 そんなぁ〜。関口のアニキィ

猫又
 僕も行っていい?

白田
 うわっ!……え、猫又さん

白田の後ろの席に座っていた生徒が声をかける。猫又 藍ねこまた あいは女子生徒だが制服は男女兼用のスラックスを着用している。髪は短く中性的な顔立ちをしている

関口
 幽霊好きなの?

猫又
 うん。もしこの男の言うことが本当ならば、その霊は日本の古くからいる悪霊かもしれない。もしそうなら僕の仲間になって欲しいんだぁ

猫又はまるでアニメの世界のキャラクターのような話しかたをする

白田
 …猫又さんって、喋るとこんな感じなんだ

白田は関口に目線を送る。猫又は普段誰とも話さず、発言は滅多にしない

関口
 あぁ…なんて言うか、変わってるね。オカルト好きなの?

猫又
 好きというか、日常って感じだな。僕は悪魔と人間のハーフだから、ここでは人間の姿をして生活しているだけで、これは仮の姿なんだ。巨悪の力が貯まって本来の姿に戻ったとき、人間界を制服するための仲間を今集めている最中なんだ

白田
 つまり霊が見えるの?

白田は困惑した表情で質問する

猫又
 …今は人間界を知るために、人間モード99%にしてるから、本来の力は1%しか発揮されないんだ。残念なことに今は闇魔法も使えない。ふっ、君たちと同じさ

猫又は不気味に笑いながら答える

白田
 …見えないってことね



補習が終わり、関口と猫又は一旦帰宅し、白田の部活が終わる7時に学校に待ち合わせることになった。
部活中、白田はこのことを小西にも話した

小西
 お前ピュアだなー笑笑!!幽霊て!ガハハハ笑

白田
 …いいよお前は来なくて。俺たちだけで行きますー

小西
 行かねーとは言ってねーだろ。幽霊じゃなくて、ただ骨みてーなじじさんだって証明してやるよ

白田
 小西…ありがとう。行こう、友よ。

白田は小西と右手でハイタッチした



放課後7時にサッカー部の部活が終わり、正面玄関で白田と小西は、関口と猫又と合流する。
白田が幽霊を見た時間は8時だったため、それまで涼しい保健室で時間を潰すことになった。白鳥先生は今日も会議で、きっと昨日ように長く話して帰ってくると踏んでいた

関口
 お前がそのじじいの幽霊見た時間、8時なんだろ?何でこんな早く待ち合わせたんだよ

白田
 俺が暇じゃん。

白田はベッドに寝っ転がる

関口
 …ダル、お前

小西
 いいじゃん。30分したら、学校見回ろうぜ。ワンチャン違う幽霊に会えたりして

猫又
 違う霊…

小西
 てか、猫又さん?帰るの遅くなって親心配しない?女の子なんだから

小西は白田が寝ているベッドの足元に座る
猫又は入り口近くのソファに座る

猫又
 …この世界では僕は女に区分されるだろうけど、半悪魔の本来の僕に性別はないんだよ。連れション出来ない男だと思ってくれて結構

猫又は小西を睨む

小西
 …へぇ

小西は白田と関口の方を見る。2人とも小西が言いたいことは言わずとも理解した。

30分後

小西
 そろそろ行く?

関口
 あぁ、そうだな。おい、行くぞ白田

白田はベッドの上で寝ていた

猫又
 …置いてく?

3人が白田を置いて入り口に向かった時、保健室の扉が開く

小西、関口
 うわー!!

南先生
 キャー!!!

白田
 うわっ何?

白田が飛び起きる

南先生
 あー!もうびっくりした!!何よあんたたち!

小西
 …すみません。俺らてっきりお化けかと

関口
 おい

南先生
 失礼ね!!誰が化け物よ!というかこんな時間まで何してんのよ

関口、小西、猫又、白田
 ……。

ことの経緯を南先生に説明する

南先生
 ちょっ笑笑……そういうことね…ブフッ笑笑

白田
 笑いすぎじゃないすか?

南先生
 ごめんごめん笑笑、はぁ。………ブフップププ笑

小西
 もういいよ、とっとと行こうぜ

4人は入り口に向かう

南先生
 はいはい、ごめんね。幽霊ついでにもう一つ面白い話聞きたくない?

関口
 え?

南先生は涙を拭いながら、話始める

南先生
 あれは…今日みたいに蒸し暑い夏だったわ。世間話しが長引いて帰るのが遅くなって、薄暗い廊下を電気もつけず歩いてたら…「助けて」ってどこからか女の子が泣いている声が聞こえてくるの。

南先生は怪談話の語り手のように話す

南先生
 「誰か泣いているのかな?」心配になった私は、辺りを見たの。でもどこにも泣いている女の子は見つからない。そして、4階のさらに上にある展望室に行ってみたの。階段を登って、目の前の扉を開けると…

4人は唾を飲む

南先生
 真っ白い顔をした女の子が這いつくばってこっちに来たのよーーー!!!

南先生は怖い顔でみんなを見る

小西
 うわーー!!

関口
 …冗談ですよね?

南先生
 いいえ。本当よ。坪倉先生も聞いたって。今日もいると思うから、試しに行ってみなさい

白田
 いる、って分かるんですか?

南先生は少し間を空けて話す

南先生
 まあ、あの日が近いから、さらに助けを求めているのかもね

南先生はニヤッと笑う

猫又
 ……。


4人は意を決して幽霊捜索に出た。まずは南先生が言っていた、「4階の蒼白女」を探すつもりだ。夏の7時代はまだ薄暗い程度だが、窓が無い場所は暗くて何も見えない

小西
 結構暗いな…懐中電灯持ってくれば良かったか?

白田
 いざとなればスマホのライトあるからいらねーだろ。てか、お前ビビってんだろ

小西
 ビビってねーよ!!

関口
 でもさっき「うわー」って叫んでたじゃん

小西
 それは南先生の顔にビビったんだよ

猫又
 展望室ってどこにあるんだ?

白田
 えー、確かあっちの方じゃ無い?

4人は4階まで上がり、廊下を進む。
すると何やら声が聞こえてくる。

関口
 何か聞こえねーか?

4人は耳を澄ませると、女の子が泣いている声が聞こえる。「助けて」という声も聞こえる

猫又
 蒼白女のレクイエムだ!

4人が先に進むと、展望室へつながる階段を見つけた。階段にはダンボールやらの荷物が置いてあり、足の踏み場がない。泣き声は確かに上から聞こえてくる

白田
 行くか

小西
 え、ガチで行くのかよ

白田
 ここまで来て引き下がれねーだろ

関口
 そうだな

4人はゆっくり階段を登る。泣き声はどんどん大きく聞こえる。扉の前に近づくと、泣き声は聞こえなくなった。
白田は小西たちにアイコンタクトをしてから、ゆっくり扉を開ける。
薄暗い部屋の中、目の前に数人の顔面蒼白の女が立っていた

白田、小西、関口
 うわーーー!!!

顔面蒼白の女
 キャー!!何ですか!!

部屋の明かりがつけられる
よく見ると、白いお面を被ったこの学校の生徒だった。周りに数人普通の生徒が不審な顔でこちらを見ている

白田
 え?何これ

女子生徒
 は?こっちのセリフです。ここ演劇部ですけど

関口
 演劇部…じゃあ泣いてる女の子って…

女子生徒
 演技です

小西
 あのババア!!

猫又
 南先生が僕達に、君たちのことを「蒼白の女」と怪談話をしてきたんだ

女子生徒
 あぁ、南先生は演劇部の顧問ですよ。もうすぐ大会が近いので、遅くまで練習させてもらってるんです



4人は展望室から離れ、南先生に文句を言おうと再び1階の保健室までやって来た

小西
 何だよ。先生帰ってんじゃん。

関口
 この調子じゃ、白田の話も演劇部ってオチじゃねーのか?

白田
 はぁ?俺のは本物だしぃ!

猫又
 静かに…何か聞こえる

猫又が話を遮る
4人は耳を澄ませると、ピチャ…ピチャ…と水っぽい音が聞こえる

白田
 これだよ!これ!俺が聞いたの!近くにいるぞ

4人は音の方へ足を運ぶ。たどり着いた先は、昨日白田が幽霊を目撃した場所だった。

白田
 …この上だ

白田が階段を登ろうとした時、小西が腕を掴む

小西
 本当に行くのかよ。もし幽霊じゃなくても、不審者とか、殺人鬼とかだったらどうするんだよ

白田
 …確かに。でもな、人間1番怖いのは分からないことだ。だったら知った上で対処するしかねーだろ

関口
 音が止んだぞ

4人は意を決して階段を登ろうとする

猫又
 ハックシュン!!!

小西、関口、白田
 わーー!!!

3人は1番後ろにいた猫又の方を見る

猫又
 すまない。ここ埃っぽくて

白田
 悪魔の力でどーにかできもんかな?

猫又
 あ……

猫又は目線の先を見つめる

関口
 ん?どした?

3人は振り返り猫又の目線の先の物を見る。
そこには足のない骸骨のような見た目の老人が階段の踊り場に長い棒を持って立っていた

白田、関口、小西
 うわーーーーー!!!!!!

3人は猫又を置いて走って裏口から外へ出た

関口
 あれ?…はぁ…猫又さんがいないぞ

小西
 え!…はぁ…置いて来ちゃった?

白田 
 はぁ…大丈夫だろ。…あいつ仲間にするとか言ってたし…女扱いしてほしくねーなら…はぁ…自分でどうにかできるだろ…

猫又
 僕なら無事さ

ドアの前に猫又が立っていた

関口
 おお、大丈夫か?

猫又
 来てみなよ

3人は猫又に連れられるまま先程の場所に戻る。角を曲がると、目の前に先程の老人が現れた

白田
 わっ!!!

白田は尻餅をつく

小西、関口
 わっーー!!

老人
 大丈夫かい?

老人は尻餅をついた白田に手を差し出す

白田
 …え?

白田は老人を上から下まで見る。ちゃんと両足が生えている。よく見ると膝下までズボンの裾を上げていた。
白田は老人の手を掴み、起き上がる。

猫又
 どうやら彼は幽霊ではないらしい

老人
 驚かせしまったようだね。私は勤続30年の用務員の宇佐美 源五郎うさみ げんごろうだ。

猫又が階段の電気を付ける
明かりのもとでよく見ると、武器のように見えた長い棒は、モップだった。骸骨のように痩せ細っているが、よく見ると優しい笑顔を浮かべていた

小西
 ピチャ、ピチャって聞こえた音ってもしかして

宇佐美
 あぁ…これで階段を一段一段拭いていたんだ

老人はバケツに入った水と、モップを見せる

関口
 だから間隔的だったのか

白田
 ズボンの裾上げてたから、足細すぎて逆光で見えなかったのか……

白田は両手で顔を隠す

宇佐美
 まさか君たち、私を本物の幽霊だと思ったのかね?ワハハハハ笑笑。おかしいね笑

白田は恥ずかしくなって顔を隠してしゃがむ

小西
 あー白田さん?幽霊見たんだっていうのは、宇佐美さんのことだっんだってね

小西は意地が悪そうな声で白田に追い討ちをかける

宇佐美
 …幽霊はいるぞ

関口
 え?

猫又
 本当か?

宇佐美
 あぁ。数日前から、サッカーコートに子供の霊がよく出るようになったんだよ

白田、小西
 サッカーコートに!?

さっきまで部活でサッカーコートを使っていた二人は目を合わせる

宇佐美
 あぁそうだ。最初はサッカー部の子だと思って、注意しに行こうとしたんだ。この上の階段からいつもその子を見つけるんじゃが、声をかけようと外に出てみると、消えてしまうんだ

老人は階段を登って、踊り場から外を見る

宇佐美
 ほら、いたぞ!見えるか?

4人は急いで階段を登り、サッカーコートを見る
するとある男子生徒がサッカーコートの真ん中でリフティングをしていた。とても上手に見える

小西
 …あれ遠山じゃね?

関口
 見えんの?

小西
 俺目は良んだよ

白田
 誰?

小西
 中学の時の後輩。昨日言った、熱中症になって試合出れなかったやつ

白田
 あ〜

宇佐美
 何だ知り合いだったのか。これで明日からよく眠れるわい

猫又
 帰るようだぞ

男子生徒はボールを持って離れる

小西
 俺ちょっと言ってくるわ

小西は急いで階段を降りて、サッカーコートに向かった。ちょうど校舎から外に出ようとしたとき、遠山と出会した

遠山
 うおっビビった笑。小西先輩じゃないすか。何してんすか?

小西は息を切らす

小西
 いや、こっちのセリフだわ。お前何してんの?

遠山
 は?別に何もしてないっすよ

遠山は両手をポケットに入れる

小西
 リフティングしてたんだろ。上から見てた

遠山
 はっ?

遠山は機嫌が悪くなる

小西
 サッカーやめたんじゃなかったのかよ

遠山は黙って横を向く

小西
 ごめん。やっぱ俺のせいだよな。俺があの時無茶言わなければ、少しでも休憩取ってれば、お前は倒れなかったし、試合にも勝てたかもしれねー

遠山
 ああっもう!!マジでダルいっす。そういうのいいんで、もうほっといてもらえません!?

遠山は声を荒げる

遠山
 別にいんすよ。先輩がどう思ってようが。そうじゃねんすよ。

遠山は両手で髪を上げる

遠山
 俺憧れてたんすよ。小西先輩に。サッカー上手いし、ストイックで。練習サボりたかったけど、先輩が真面目に頑張ってたから、俺もサボらずやりました。休憩入れずに練習してる先輩、かっこいいと思っちゃいました。その結果がこれ。分かるでしょ?俺の言いたいこと。

小西
 遠山…

遠山
 憧れてた先輩の背中ついて行ったら、大事な試合前にぶっ倒れて、顧問に体調管理がなってないってキレられて。俺の判断ミスなんで、先輩関係ねーっす

小西
 …お前優しいな

遠山
 は?え、俺の話聞いてました?

小西
 どう考えても俺の責任なのに、自分のせいだから、俺は関係ないって言うんだろ?優しいなー。めっちゃストイックじゃんお前!

小西は笑顔で言う

遠山
 はぁ…?先輩いつからそんなアホになっちゃったんですか?

遠山は呆れた顔で小西を見る

白田
 なんだ、しっかり人間じゃん

白田と関口、猫又、宇佐美がやって来る

遠山
 え、え?何すか

小西
 あのじいさんが、お前のこと子供の幽霊だって言ったんだよ

遠山
 は?あのじじい…。おい、誰が子供の霊だ!じいさん。

遠山は少し離れた宇佐美に叫ぶ

宇佐美
 制服まともに着てりゃあー、いくらかましじゃねーのか小僧

関口
 知ってたのかよ

宇佐美
 ただの余興じゃよ

小西
 なあ、みんなでサッカーやらねーか?3対3で

白田
 え、6人って

全員がその場にいる人数を数える
白田、小西、遠山、関口、猫又…

宇佐美
 ……私も!?

猫又
 僕、球に触れると闇の力が逃げちゃうからパス

関口
 俺もサッカー得意じゃねーしな

小西
 じゃあ白田がキーパーで、俺と遠山の1対1でどうだ?

遠山は驚いた顔をしていたが、小西の眼差しでプレイヤーとして火がつく

遠山
 …いいっすよ

宇佐美審判のミニ試合が始まり、応援席では猫又と関口が観戦する。

関口
 結局幽霊いなかったな

猫又
 そうだな。僕お腹すいた

猫又は大あくびをする

関口
 …猫又さんって、本当はそんな幽霊興味ないでしょ?

猫又
 ……そんなはずないだろう。僕は悪魔のハーフで、日本を制服する日のために仲間を増やすのだ、くふふふ

関口
 「日本」?昨日は「人間界」って言ってた気がしたけど?

猫又
 あ…いや、そんなもの半悪魔の僕に取って重要ではない

猫又は取り乱す

関口
 俺中学の友達に、猫又さんみたいな人いてさ、よく「ブラッドナイトメア帝国」の話聞かされたんだわ笑。そいつ今はそれに対抗するため「ブライトウィングカンパニー」の協力を得るための旅に出てるらしいんだけどね笑。なんかな〜俺的に猫又さんのそれは、本物じゃない気がするんだよな〜

関口は少し笑いながら話す

猫又
 はぁ……そうだ。僕は悪魔とハーフじゃない。純日本人。人間界を制服する予定も力もないさ。

猫又は急にアニメ口調をやめた

関口
 …その喋り方は変わらないんだな

猫又
 ……。なぜ僕が厨二病口調をしてると?

関口
 …厨二病だから?

猫又
 違う。説明がいらないからさ。僕の体は女だが、心は男なんだ。だがこれを人に理解してもらうにはあまりに時間がかかる。親でさえ説明するのに苦労したのに、学校で会う人にいちいち説明してたらキリがない。厨二病風に話せば、僕は「そういう人」という風に見られて、余計な干渉されなくてすむ。君たちにとって僕は「扱いにくい多様性の人」じゃなくて「痛い厨二病」という扱いに変わるだろ?

関口は急に口調が変わりペラペラ話す猫又に少し困惑する

関口
 …確かにそうだな。初めましてでそんな話されちゃ、仲良くなるのに時間かかりそうだもんな

猫又
 だろ。「どうしてズボン履いてるの?」「どうして一人称が僕なの?」「どうして男口調なの?」は「厨二病だから」で片付く

関口
 でも…そのままでいいのか?

関口は猫又の方を見る

猫又
 君が思っている以上に、自分ことを1から説明するのって勇気がいるもんだよ。信用してない相手に腹の底を見せるようなもんだ

関口
 俺は、正直お前に話しかけられたとき、「仲良くなれねーな」と思ったよ。でもだんだん、全然まともな人間じゃんって思って、今もう俺ら普通に友達じゃん

関口は少し照れた笑顔を向ける

猫又は
 …そうか。そう言ってくれてくれしいよ

宇佐美が笛を鳴らす

宇佐美
 ゴーーール!!

2人がコートを見ると、白田がゴール前に横たわっていて、遠山と小西が息を切らして立っていた
どうやら遠山がシュートを決めたみたいだ

遠山
 やった!!

白田
 くっそぉ。何こいつ。1年のくせに普通につえーじゃん

小西
 そうだった。こいつすげー上手いの忘れてた

遠山
 現役サッカー部の方々、1年の帰宅部に負けるって笑。練習ちゃんと足りますか?

白田
 上手い上に生意気だぞこいつ!!

白田は人工芝の上で叫ぶ

小西
 遠山、お前サッカー部入れよ。次の試合は…間に合わないかもだけど、取り戻すのは今からでも遅くねーって。

遠山
 …そうっすね。2年のお二人がこんなんで心配なので、俺もサッカー部入ります

遠山は生意気なこと言ってるが、子供のような無邪気な笑顔だ

白田
 クソ生意気な!オメェが来たらまず洗礼として外周20周だおらぁ!

遠山
 パワハラですよ先輩



2日後
サッカー部入部届を出し、晴れて遠山駿はサッカー部の一員となり、夏休みの部活動に参加した

【11話終わり】

いいなと思ったら応援しよう!