赤と青、外と内〜PERFECT DAYS 【2】〜【映画④】
こんばんは。
1月最終週が始まりました。
2月からの忙しさがじわじわと迫って来ていて
慄いている私、恐竜のフレンチです。
皆様はいかがお過ごしでしょうか。
今回はすでに一度取り上げた
「PERFECT DAYS」について
少し違った視点から記していきたいと思います。
色について着目していきたい。
そう思います。
青と赤
この映画の主人公は
トイレの清掃員です。
トイレといえば、あのマーク。
そうです。赤と青の
性別のマークですね。
最近はジェンダーを意識して
黒色で形状のみを分けているトイレが多く見られますし、
映画の中でもモノクロのマークが多く出て来ます。
しかし、平山の身の回りには「男性」を表す
青色が多く使われています。
印象的なものを挙げるだけでも以下の通り。
青色一覧(漏れあり)
・平山の作業着
・平山が乗るバンの色
・作業に使うタオルや手袋など
・平山の歯ブラシ
・平山の寝ている布団
・平山が休みの日に羽織るシャツ
・タカシの乗っている原付の色
・ガスコンロの炎
・ニコと休憩する時に飲む牛乳パック
逆に赤色を探すと以下の感じ。
赤色一覧(漏れあり)
・ニコのパーカー(ピンク)
・ニコが飲むいちごミルク(ピンク)
・アヤ登場時の服
・妹のケイコが渡す手土産の袋
・平山がタカシのせいで清掃することになったトイレ
・元夫と抱き合う飲み屋のママのトップス
・タカシにカセットテープを売られそうになった日のガスコンロの炎
・最後の平山の表情を映している時の光
内と外
いかがでしょうか。
この映画の中では、「青」が
平山の世界の内側を表す色
として強調されていると言って良いでしょう。
ニコと銭湯から帰っている時の平山の言葉はこうです。
「この世界は、本当はたくさんの世界がある。
繋がっているように見えても繋がっていない世界がある。
僕のいる世界はニコのママのいる世界とは違う。」
平山の中では、この世界ははっきりと赤と青に分かれており、
自分の内側にあるものは「青」
自分の外側にあるものは「赤」
となっているように感じます。
平山が嫌いなもの、ではなく
「外」にあるものとして
これだけのものを認識している。
前回のnoteでも書きましたが
平山は人と関わっている時は
人間味を感じられないほど
「完璧」なんです。
人を傷つけず
一緒にいて心地いい存在であり続ける。
いわば世間にとって「空気」である。
居酒屋で自分のお気に入りの席がなくても
意に介さずその場を楽しむ。
ただ、
自分の世界と他人の世界
好きな世界と嫌いな世界
心地良い世界と苦しい世界
をはっきり自分の中に持ち
自分の世界と決めているものには
一層の愛情を注ぐ
そのような人物である平山。
一見、貧乏育ちで
苦しい生い立ちに思える平山が
休みの日に羽織る青色のシャツは
かなり綺麗でおそらく高いもの
なのではないでしょうか
自分にフィットしたものを選び
自分が好きな事、モノを続ける
その意図がそこに見て取れます。
世間がどう思うかは関係ない。
あれだけかっこいい平山なら
朝自販機で買うのは
ブラックコーヒーでしょう。
しかし、あえてカフェオレを選ぶ。
自分が好きなものに囲まれて
自分が苦手なもの
興味がないものには踏み込まない。
だから周りの人には
自分の世界に踏み込んでほしくない。
寂しくも完璧な世界で平山は生きています。
介入者
しかし、その完璧な居心地のよい
平山の世界に踏み込んでくる人物がいるわけです。
それがタカシであり、金髪のアヤであり、ニコです。
タカシ
タカシは平山が大切にしている
カセットテープを勝手に売ろうとしたり
相談もなしに仕事を辞めたり。
初登場シーンでも
タカシの方を向きながら平山が拭く鏡は泡だらけ。
まだ掃除の始めの段階だ、と言ってもいいかもしれませんが
わざわざその段階を描くということは
意味があるのではないでしょうか。
トイレ清掃という自分の世界にいる存在ではありますが
平山の心を乱す存在がタカシです。
その証拠に、
タカシにカセットテープを売られそうになった夜の
コンロの火は「赤く」燃えていました。
タカシは平山とは違い、
境界線があやふやな人物です。
代わりに10のうち〇〇、とモノやヒトを見る物差しを持っています。
決して悪意があるのではなく
平山とは違う物差しで世界を見ているのだと思います。
ダウン症のデラちゃんにも
フラットな目線で関わるタカシを
どこか平山も認めていたに違いありません。
アヤ
アヤは平山とは大きく違う派手なタイプ
赤い服を身につけるアヤは
平山の人生には関わりがないであろうタイプです。
平山は音楽を通してアヤとの交流を深めます。
音楽を聞き直しに来た時のアヤの服装は「黄色」と「黒」
自分の世界に近づいてくれたアヤにキスをされた平山がかけるのが
「PERFECT DAY」。なんとも人間臭いです。
大きく年が離れた女性とのささやかなやりとりで「パーフェクト」を感じる。
一人の時の平山はこういう構えていないところが素敵ですね。
ニコ
ニコは平山の姪。
突然平山の家に訪れ、数日間を過ごします。
家出娘ならではの行動。
寝床を奪われ、植物に水をやるのにも気を遣う。
平山の生活は崩されてしまいますが
受け止めてあげます。
家主の平山の後ろに着いて行って
生活を見つめるニコ。
興味本位で仕事場にも着いていきます。
この時の服装は「ピンク」。仕事場にはマッチしていない存在です。
そこである種平山に失望します。
でも何かを学び取ったように感じました。
自分の進むべき道は何なのか。
将来への不安を抱えながら
平山と関わる中で
「今度は今度、今は今」の言葉に救われたニコ。
平山の輝く部分を受け取って
迎えに来たケイコの車に乗り込みます。
ケイコも青い服を着ていることから
芯の部分は平山にとっては内の存在なのだと感じます。
しかし、持って来た手土産は「赤」であることから
普段の生活は「外」の存在。その「外」のトップである父親。
彼とは明確な境界線を引いている平山。
父親もまた境界線を強く
持っている人なのではないでしょうか。
その引き方の違いに苦しんだ平山が
距離をとり始めたのかもしれません。
ラストシーン
【1】でも記したママの元夫との名シーン影踏みが終わり
ラストシーンに入ります。
車を運転する平山を照らすのは赤い光。
さまざまなシーンを経て、
苦しみ心が揺さぶられた結果
自分の「外」と向き合って夜の運転をし続ける平山。
その目には何が映っているのでしょうか。
平山にとって心地よいもの
ではないものかもしれません。
でもそれを見つめ続け、
味わい深い表情を浮かべます。
「自分の気持ちは理解されなくても良い。
むしろ分かってもらいたくない。」と
世界に突っぱねるような「Feeling Good」の歌詞と重なり
平山もその完璧な世界を保ちつつ
世界に対峙します。
平山は「外」との関わりを捨てたつもりだったが
関わっていくことを選びとった。そう感じました。
最後に
私たちの中にも
いろんな世界の境界線や評価基準が
渦巻いていることと思います。
平山のように完璧でなかったとしても
ある種の「パーフェクトな毎日」を過ごしているのだと思います。
ただそれに気づくかどうかは自分次第。
どうしたってしんどい日はあります。
どうしたって苦しい日はあります。
でもそこに自分の「内」を見出し
「外」に関わっていく。
平山のように「外」を捨てることなく、受け止めて生きていきたい。
そう思います。
ではまた。🦖🍽️
おまけ
・夢のシーンはラブデリック社制作の「moon」を感じさせました。
透明人間がラブを集めていくストーリーです。
平山が関わった人から「ラブ」を受け取っているのでは?
夢には色がないので、そこで平山が「ラブ」を受け取ったモノが青になっていく?
こじつけすぎでしょうか。
・平山が手を差し伸べた人は「黄色」
で表現されていると思います。
探してみてください。