Hokkaido旅行その1 千歳→根室400㎞
真冬の北海道で鉄道旅行をしたい、とはずっと思っていた。本州とは比べ物にならない低い気温。果てしなく広がる雪の景色。
2025年1月、3泊4日の日程、ついにその機会がやってきた。
1月19日日曜日。羽田6時50分の新千歳行AirDoに搭乗。鉄道ファンたるもの、本来は北海道までは鉄道と津軽海峡フェリーで行きたい、というかそれが「義務」で、イスラム教徒におけるメッカ巡礼のようなものだ。飛行機は裏切り、邪道、甘えなのだ。しかし現実には、予算的にも日程的にも厳しく、やむを得ず飛行機である。片道9000円、所要1時間半の誘惑に勝てるわけがない。機内は僕を含め、レジャーと思われる人で満席。
気づいたらもう下北半島の上をかすめ、高度を下げ始めた。いよいよ北海道と思っていたのに、もう着陸態勢とは。
8時20分定刻着。非常にスムーズに空港を脱し、新千歳空港できっぷを買う。「FDAひがし北海道フリーパス」というもので、16300円で4日間、特急を含め道東方面乗り放題という非常にお得なキップである。ついでにこれから乗るおおぞら3号の指定席も予約する。
新千歳から南千歳駅まで一駅移動し、9時26分発の釧路行き特急おおぞら3号を待つ。南千歳の駅、さすがに寒い。真っ白な吐息が大量に立ち昇り、自分がディーゼルカーになったような気分だ。手持ちの温度計では-6℃である。天気は良く晴れていて、雪は少ない。新千歳が札幌のはるか南にあるのは、飛行場として雪の少ない所を選んだかららしい。同じ北海道でも、どこで雪が多いか、どこが少ないのかは注目に値すると思う。この辺の地理学的なことは僕の得意な分野である。
弁当を購入し、まだ時間が30分ほどあるので、待合室で待つ。飛行機が遅れたり、切符売り場が混んでて乗れなかったらどうしよう、と思って急いだのだが少し徒労すぎたようだ。
入線間際になると、トマムに行くのだろうか、スキーと思われる外国人で混んできた。6両繋ぎ、わが特急おおぞら3号は定刻に南千歳に入線、すぐに発車する。さっそく雪原を快走する。乗車率は50%ぐらい。僕の席だけ絶望的に窓が汚いので、適当な所に移動する。車窓に張り付く人間として、窓が汚いのは致命的だ。
追分、新夕張と止まる。特急停車駅ではあるが、小さな街で、やはり北海道は人の住まない所だなあと思う。新夕張から出ていた夕張支線も数年前に廃止されてしまった。
新夕張を出ると、いよいよ山深い所に入っていく。石勝線はその名の通り、「石狩」と「十勝」を結ぶ路線で、1986年の全線開業と比較的新しい、近代的な路線である。おかげで路線は直線的で、結構なスピードでディーゼル特急は走る。そして染みるような雪深き美しい森の景色を、暖房の効いた、リクライニングチェアのある車内から、適当な速度で眺めさせてくれるとは、まさしく汽車の恩だなあと思う。
余談だが、石勝線の信号場についてはYoutubeで『石勝線の哀しき信号場』と調べると大変興味深い動画が出てくるので、こんなつまらないブログを読む前にそちらの動画を見ることを強くお勧めします。
狩勝峠の伸びやかな高原の景色を見下ろしながら下っている所で、意識が途絶えた。初乗車の線区ではぜひ車窓に目を凝らしたいところだが、4時半起床だから止むを得ない。目が覚めたら帯広であった。びっくりするぐらい雪が少ない。道東は雪の少ない地域なのはもちろん知っているがここまでだとは、と思った。
帯広を過ぎると乗客も減り、列車の速度も遅くなった。果ての地を走る特急おおぞら3号は、釧路駅を目指す。また眠くなってきた。
終着を告げる車内チャイムの「アルプスの牧場」が流れ、釧路駅着13時20分。はるばる来たな、と思う。構内は終着駅の雰囲気を醸し出しているが、根室本線は、路線名の通り、終着の根室まで、まだ135㌔もある。ここからは特急は無い。5分の接続で、普通列車の根室行。1両編成のワンマンカーである。林や丘陵の中を抜けてひたすら列車は走る。
時々警笛が鳴り、ブレーキがかかる。線路にいるエゾジカを追い払っているようだ。大半はそれで逃げるようだが、たまにいつまでも線路に居座るような馬鹿なやつははねられるのだろう。ちなみに、釧路~根室の車窓で、僕が確認しただけでも5回は鹿が見えた。
厚岸を過ぎると、海のすぐ横を走るが、湾内で波が無く、川からの淡水も混じっているからだろうか、結構表面が凍って白くなっている。正確には白濁したような色味だ。海は凍らないものだと思っていたので、かなり驚いた。
既に日がかなり落ちて、夕暮れの雰囲気である。調べたら、今日の根室の日没は16時12分であった。それにしても、なんとなく大学や私生活など他のことが気になってしまい、旅行に集中できない。僕の良くない癖だ。何とか外を見て忘れたい。
廃止された標津線が分岐していた厚床からおばさん一人が乗車、その二つ先の落石でも高校生が一人乗車。赤字ローカル線でも、乗客がいないわけではないようだ。
この落石から先は根室本線の見どころの一つで、海のすぐ横の断崖の上を走る。内地には無いような景色で、本当に果てまで来たなあ、と思わされた。
さて、終点の一つ手前、東根室という無人駅で下車する。というのも、この東根室駅は日本最東端の駅であり、さらにこの3月のダイヤ改正で利用者の減少で廃止されてしまうからだ。僕の他、鉄道ファンと思われる人も、2,3人降りたが、なんと、まともな客も一人下車した。東根室は市街地の駅であるし、僅かながら利用もありそうだから、何とか存続させられないのかと思うが、もう決まったことだ。
東根室の駅は、板張りのホームであった。出発するディーゼルカーや、駅名の看板を撮り、目に焼き付ける。
ここから根室市街までは徒歩30分ぐらいなので頑張って歩く。今日は根室のゲストハウスに止まる。予想はしていたが、やっぱり観光地でもなんでもない地方の街の夜というのはものすごく早い。19時にはもうやっている店も無く、深夜の雰囲気であった。しかし、夜というのは本来これぐらい暗くて静かなものだ、と思った。