アートと都市の文化形成 - 美学が都市に与える影響とはなにか -
VCP Tourism for TOKYO DAY2には千葉由美子さんが登壇されました。
美術館やギャラリーでの展示企画、アーティストのプロモーション、海外のアートフェア出展などで活躍されています。
社会インフラである美術館やギャラリーを介して捉えられてきた、「都市とアートの関係性」について丸山先生と石川先生との対談形式でお話しいただきました。
ソフト駆動の都市を形成する、「文化のエイジング」
講演はアーティストのキャリアステップに関する話からスタートしました。アーティストは以下のようなキャリアステップが多いと言います。
・アーティストのキャリアステップ
卒業制作→小さなギャラリー出展→大きなギャラリー出展→美術館での所蔵
美術館に所蔵されるアーティストは非常に稀であり、そこまで辿り着くのは一握り。つまりアーティストが育っていくためには時間(エイジング)が必要であることが重要であるとお話しされました。
これに同調したのが石川先生。美術の価値はワインに近く文脈の重なりであり、時間をかけることで生まれてくるので、アーティスト自身もすぐに価値になることは珍しいよねとおっしゃってました。
アートを介して、都市の文化はいかに育つか
美術館の意義と、富裕の義務(nobless oblige)
ギャラリーや美術館はアーティストが育つための社会的プラットフォームでもありますが、都市の文化を発展させる役割も持ちます。
美術館とは、アートが持つ時代精神(その時代で大切にされる価値観や言い切る言葉)を、ある種の客観性をもとに公的に開示する役割を持ちます。
ここでの客観性とは、美術館やアーティスト以外のステークホルダーを指します。最も分かり易いのは、貨幣価値に変換することのプロフェッショナルである銀行です。
第三者が美術館やギャラリーという場でアートを公開することにより、アートは「誰でもみることができる」という”公共性”と、「特定の人にしか購入できない」という”閉塞的な側面”を持つことができます。
美術館は都市になにを育むか
美術館に行くと展示されている作品だけでなく、周囲のひとを意識するタイミングがある気がします。
千葉先生は「隣の人はなぜこの作品が気になるんだろうと考えるようになるから、アートは都市の寛容性や受容性を高めることができる。それらが都市の多様性につながるんです」とお話しされていました。
”わからないこと”への寛容性はネガティブケイパビリティや多様性を許すことに繋がります。写真が「社会の窓」であるように、アートも「何かを捉え直すきっかけ」を与えてくれるのかもしれません。
多様性を映し出す、「本」という切り口
だれかの個性や多様性を映すという意味では、本もその1つだと考えます。
以前「本を介して、都市の魅力を映し出す」というテーマで、本の贈与交換企画をしたことがあります。
街はさまざまな人の集合体であり、「街にいるひと」が場所への求心力になりうるのではないかと考えたのがきっかけです。
街にあるイベントや建物、お店も素敵だけど、そこにいる人だってとっても魅力的。人の魅力をもっと表現する方法はないのかなと考えました。
そこで使用したのが「本」でした。
本もアートと同じく誰にでも開かれている一方、読む側にリテラシーを求めるクローズドな側面も持ちます。
街で活動する約30名の方におすすめ本を紹介してもらい、本を通じて街やまちにいる人を知ってもらおうと思ったのです。
集まった本は約30種ほど、建築からビジネス本、有名な小説や童話までさまざまで合計200冊用意し、すべての本におすすめいただいた方の自己紹介やおすすめ理由、手に取ったきっかけが書かれた紹介文が挟みました。来場者の方が紹介文を読みながら、熱心に選んでいただいていたのが印象的でした。
千葉先生の講義と自分の過去の取り組みも思い出しながら、アートや本はその街にある多様性や一種の知性を映し出し、個人に新たな物事の捉え方を教えてくれるのかもしれません。