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ブサイクなサックス奏者が整形する話〜最近、営業演奏があるたびに読んでいた本、紹介します【夜想曲集/カズオ・イシグロ】
ノーベル賞作家のカズオ・イシグロさんの本て読んだことなかったんやけど、
たまたま新宿駅の本屋さんで空き時間をつぶしていたときに
この本(短編集)が置いてあって、
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ぱらぱらめくったら
音楽演奏する人あるあるの
いわゆる「営業演奏」のシーンがよく出てきて
なんだか面白そうと思って買って読んでみました!
で、普通は本て買ったら読み終わるまで(だいたい読み終わらないんですけど)その本を持ち運んで読んでるんですけど、
なんとなくこの本は「自分が営業演奏に向かうとき」に読むとすごく雰囲気良いな〜と思って、そういうときだけ読むっていう
変な読み方してました(笑)
表現の世界で成功していたり(現在)、成功してい「た」り(過去)、これから成功を夢見ていたり(未来)、いろんな奏者が登場するんですけれど(現在成功している人はいなかったかも。。)、
大体において自意識過剰で、自分を客観視できておらず、
そしてそんな客観視できていない複数人が話をしているシーンもたくさん出てくるのですが、その会話の言葉もなんだかかみ合っておらず、
ある人が放った批判的な言葉も意図を読み取れず良く解釈してしまったり、またカズオ・イシグロさんが設定した、残念でかわいそうな(罠のような)シーンも、そこに登場する人物は喜々と自分の表現を評価したり、楽しんでいたり、なんとなく意地悪な文章だなあとも思ったのでした(笑)
音楽のことについて熱く語るシーンなども、
なんだか変な横やりが入って一気に冷めた話になったり、冷めた話になっていることに当人たちもさほど違和感を感じていないような描写がたくさんありました。
そんな人生でもまあいいかと思わされたり、自分のことを言われているようで胸がズキズキしたり、そんな評価軸で音楽するのは嫌だなあと思わされたり。ただのコメディとも読めるしものすごいアイロニーとも読める、面白い作品でした。。!
ちなみに「ブサイクなサックス奏者が整形する話」は『夜想曲』ていうタイトルの短編です。こんなとんでもない設定の話なんてあるんですね。。!すごい!
気になった言葉をメモしておきますね!
「でも、二人とも音楽を信じているから演奏する−それが第一よ」とゾーニャが言った。「見たところ、あなたもそうみたい」
「自分の音楽が信じられなくなったらすぐやめますよ。躊躇なくね」とぼくは言った。
「なぜって、伝えてジェフが喜ぶとは思えないから。それが理由よ。それに、自分の仕事とあなたの仕事が同じレベルにあるなんて、絶対に受け入れないと思うから」(中略)ぼくは怒りで身体をこわばらせ、閉じたドアをにらみつけた。
おれがサックスを手に”個室”に籠もるたび笑ったものだ。トイレに入るみたい、と言った。確かにそんな気分になることもある。つまりだ、風通しの悪い小部屋にすわって、個人的な用を足すことに専念するのは同じだろ?誰も近づきたがらないところも同じだ。
そして、もちろんポリシーの問題がある。おれは純粋芸術志向ではない。それは、さっき言ったことからわかってもらえると思う。金のためならじゃりんこ向けの音楽だって演奏する。だが、それとこれとは問題の次元が違う。(中略)なんで美容整形が必要なんだ。
この子ったら、ウェイン・ショーターみたいな前衛的なプレーヤしか聞かなくて、だからよくお説教してやったものよ。
おれはCDを手渡した。(中略)「右から二番目。アロハシャツ着て、アイロン台を持ってる男」
おれたちは和やかに別れを言い合った。だが、ほんとうの別れは、実はもうすんでいたと思う。
周囲に気に入られたいという若者の気遣いを失い、慎重な立ち居振る舞いをなくしているように見えた。まあ、この世を生きていくにはいいことだと言えないこともない。
おやすう
横田寛之