アイリッシュ・ジャックと幻のトーキョー・モッド Part.3
『甘い生活 〜アイリッシュ・ジャックへの質問 後編〜』
ジャックとピート
GB ザ・フーのピートとの思い出を教えてください。
ジャック ピート・タウンゼンドとは生涯を通じての思い出がある。思い出してほしい、私は今77歳で、そのうちザ・フーのことを知らなかったのは最初の19年だけなんだ。それって本当に長い時間だよ。私はよくフーのギグの後、車の中でピートに自分の話をした。悩みとかコンプレックスのことをね。私は4つの大きなコンプレックスがあって、身長、髪の毛、アイルランド風の名前と、アイルランド風の訛り。ピートはいつも優しく微笑んで僕の話を聞いてくれたよ。もちろん私は知る由もなかったけど、同時に彼の頭の中にはアイリッシュ・ジャックという名のモラトリアムのキャラクターが出来上がっていたんだ。後にそれはすべて『四重人格』として登場する。我々は今でも良い友達で、メールをしあってるよ。
アイリッシュ・ジャックの現在
GB 現在のあなたのアイルランドでの生活について教えてください。今でもアイルランドのモッドと交流があったりモッド・クラブに行くことはありますか?
ジャック 現在の私は、アイルランドのコークに住んでいる、引退した郵便配達夫だ。2006年に退職した。モーラ・ケントと結婚して51年になる(彼女は私より背の高いモッドだ、ハハ)。2人の息子と一人の娘、4人の孫がいる。アイルランドやイギリスのたくさんのモッドと今でも交流があるよ。モッド・クラブには行かないね、きっと入れてくれないと思う、ハハ。
GB あなたのクールな赤いベスパに乗って出かける場所や、楽しいと感じることは?
ジャック いいね素晴らしい質問だ。週に1度はベスパに乗って行く特別な場所があるよ。私の家から5マイルほどのところにあるリバーズタウンというところだ。道はきれいだけど細い。よく茂った木々で道は暗くて、私はそこを時速30マイルで、出来るだけ木の茂みの側を走るんだ。旅の終わりにはカプチーノを嗜む。スクーターを停めてるとたまに人に話しかけられて、中には昔乗ってたという人もいる。スクーターって、とてつもなくクールで大切な何かがある。美しい曲線のボディに、2ストロークのポン!ポン!ポン!というエンジン音。スクーターは『甘い生活』(訳注:イタリアの映画監督、フェデリコ・フェリーニの60年の映画)を思い起こさせるんだ。不格好なヘルメットをしなければならないのが残念だけどね!
GB あなたにとってモッドとは何ですか?
ジャック 私にとってモッドとは何か?何年か前に大学生が論文に私のことを書きたいと、インタビューを撮影したことがあった。私たちは座って話して、彼の友達が撮影した。彼はモッドについてあまりよく知らなかったので、私は彼に何度もモッド・カルチャーの本質を説明しなければならなかった。1時間も話してたらいいかげん疲れはて、彼は立ち上がってまとめにかかったと思ったら、突然こう言ったんだ。「ジャック、本当に面白いですね・・・でも結局、モッドって何なんですか?」思わず彼の持ってた書類ボードで頭をはたいてやろうかと思ったけど、代わりに激しい口調で私は彼に言った。「ああ!まったく!そうモッドっていうのはつまり・・・来週の週末はもっと最高だと信じてる奴らのことさ!」彼はとても感銘を受けた顔をしてたよ。そのあと、スタジオを出て家に帰る途中で、信号で止まった。これは日本のモッドにぜひ伝えてほしいんだけど、その時何かの啓示のように、部屋に私の写真を飾っているという、名も知らぬトーキョー・モッドのことが頭に浮かんだんだ。私は信号で止まって、さっきのインタビューで答えたことを思い返した。モッドとは、来週の週末はもっと最高だと信じてる奴らのこと・・・そう、それがモッドだ。
日本のモッズに、私が君たちをリスペクトしていると、君たちを愛していると伝えてくれ。ありがとう。
2021年9月 アイリッシュ・ジャック
インタビュー : 上釜一郎
翻訳・文 : 牛島俊雄
構成・デザイン : minechiyo
イラスト : 原子高志
編集後記
『四重人格』の主人公ジミーのモデルといわれ、伝説のオリジナル・モッドとして知られるアイリッシュ・ジャック。今回彼から"日本のモッドに関するトゥルー・ストーリー(物語り)"を受け取り、彼とコミュニケーションを重ねていくうちに、自分の好きなカルチャーや家族・友人をとても大事にしている彼の真摯な人柄に我々も沢山の刺激を受けました。
ジャックはアイルランドから遠く離れた日本で自分のことを知ってくれていた幻のトーキョー・モッドの存在を今でも嬉しく思い、その気持ちをこのエピソードを通じて日本のモッドたちと共有し、楽しんでもらいたいとのことでした。
映画『さらば青春の光』は今から42年前に公開、音楽やファッションなど様々なシーンや人々に多大な影響を与えました。当時から現在に至るまで、モッドカルチャーと60年代を愛する全ての人々、そして未来のモッドにこの記事を、ただそのままに楽しんでいただければ幸いです。
最後に、この企画を実現する為に協力していただいた、イラストレーター・原子さんとナンバースの仲間たち、そしてモッドキング "アイリッシュ・ジャック"に感謝を伝えます。
GATSBY BLUES TOKYO
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