プラモの解説文:4(ファルケ/M9アグレッサー編)【作品メモ】
※2018年(?)ごろ、バンダイスピリッツから発売されたプラモデルの組立説明書に、賀東が寄稿した時のものです。キット付属のオリジナル武器などにまつわる内容ですが、新設定やキャラクターの証言などもあって、もったいないのでテキストだけ抜き出して掲載しておきます。
【1/60 HG ファルケ】
EHI Otegine HEAT-Lance
恵比寿重工 〈オーテギネ〉HEATランス
ASの代表的な格闘用武器といえば、使い捨てのHEATハンマーが挙げられるだろう。成形炸薬弾を頭部にはめ込んだだけのシンプルな構造だが、現用兵器のほとんどの装甲を貫通する威力を備え、しかも安価である。
HEATハンマーの問題点は、1:連続使用ができないこと、2:自機も弾頭の爆発にさらされる危険があること、3:攻撃動作が単純になること、などがある。
これらの問題を解決するため、恵比寿重工(EHI)が試作したのが〈オーテギネ〉HEATランスである。堅牢な長い柄と、シンプルな連装・撃発機構を内蔵した穂で構成されたこのランス状の武器は、陸上自衛隊の96式AS向けに開発されたものだった。
諸事情で制式化は見送られてしまったが、この槍状武器のコンセプトは同社のスタディモデルとして、10年後に〈ドラゴンフライ〉という多目的ウェポンに結実することになる。当時試作されたHEATランスは30基以上ともいわれるが、その一部がどのような形で〈ミスリル〉に渡ったのかは不明である。
M9 (serial D) FALKE
M9(D系列)〈ファルケ〉
冷戦終了以前、英独では独自開発された第二世代型AS(『サイクロン1」や『ドラッヒェA』)は期待通りの性能に達しておらず、やがて現れるであろうソ連製の第三世代型ASに対抗可能な新型機を開発できるか疑問視されていた。
そのため当時のアメリカ政府は、M9を主要NATO加盟国に限ってのみ供与する方針を打ち立て、さらに現地企業とジオトロン社との共同出資による生産工場を設立するよう働きかけていた。
これは部品と仕様の共通化によるコスト削減と、パテントの独占による米企業の立場強化を狙ったものだった。だがこの計画はソ連の崩壊と冷戦の終了、大統領選による政権交代によって白紙撤回されてしまった。
すでに落成していたドイツ、ドルトムントの工場は、現地のクラウス・マッファイ社に売却。M9の生産ラインは解体された。しかしそのドルトムント工場では、すでに生産試験型のM9が少数試作されており、ドイツ軍の一部と〈ミスリル〉に供与された後だった。
これら最初期型のM9は、シリアル番号の筆頭から『D系列」と称されている。基本的に『D系列』は、他のM9とほぼ同様の設計だが、装甲と頭部の外観は大きく異なっている。さらに四肢の重量配分、マッスルパッケージの径番も違うため、よりピーキーな、いわば「格闘戦」向きの仕上がりになっている。
後にドルトムント工場では、ドイツ軍に制式採用された〈ヴォルフ〉という第三世代型ASが生産されている。このヴォルフもまた格闘戦を得意とする機体で、兵士から『ソードマン(剣士)』と呼ばれることもしばしばである。
もちろんM9の設計をそのまま流用することは許されなかっただろうが、D系列の関係者がヴォルフの開発にも携わったことはほぼ確実である。その意味でこのD系列——通称〈ファルケ〉は、ヴォルフにとって庶出の兄のような存在にあたるのかもしれない。
〈ファルケ〉について語る
証言者:ベルファンガン・クルーゾー大尉(当時は中尉)
「ファルケ? ああ、いい機体だった。なにしろ黒くて目が二つだ。渋い敵役が乗り込んで、主人公のピンチに颯爽と現れて手助けして、『だが勘違いするなよ?おまえを倒すのはこの俺だ』とか言いそうな機体だ。そんなシチュエーションがあったらいいなー、と思ったこともしばしばだったが……まあ、なかった。
(咳払い)あー、当然だ。……それより、だ。よく違いされることなのだが、あのM9(Mファルケのこと)が格闘戦に特化した特別な機体のように思われているが、それは間違っている。単純に、私のスキルが優れていたからだ。凡庸な操縦兵——たとえばウェーバーのような男がこの機体に乗っていたら、まったく活躍できなかったことだろう。そこは覚えておいてほしい」
※賀東注:クルーゾーの証言はもう少し長いバージョンがあったはずなのだが、テキストが見つからなかったので説明書から直接文字起こしをしている。また説明書にはM9Dという表記があったのだが、これは本来の設定上にはないものなので削除させてもらった。
【1/60 HG M9(アグレッサー)】
M9 GERNSBACK (M9 ガーンズバック)
M9〈ガーンズバック〉は当初から、複数のNATO加盟国で採用・生産が予定されており、イギリス、ドイツ、カナダなどの企業が開発計画に参入していた。
それぞれの参入国に生産・整備工場も建設されたため、その工場に応じていくつかの「系列機」が存在する。
ほとんどは北米カリフォルニアのジオトロン社工場で生産された「E系列」である。その後に米軍に配備されたほとんどのM9(制式A1型、A2型など)も、シリアル番号はE系列に分類される。
イギリスではオックスフォード郊外に工場が建設され、シリアル番号は「A系列」とされる予定だった。だが冷戦終了後の予算削減を受けてM9の採用計画がキャンセルされたため、工場建設も中止され、A系列は実質上、存在しない。
ドイツではジオトロン社とクラウス・マッファイ社の合弁事業としてドルトムントに工場が建設され、最初期のM9が少数生産された。これが「D系列」である。
ミスリルが運用した「ファルケ」がこれにあたるが、『M9D」という表配は誤りである。『D』はあくまでシリアル番号にすぎない。
「C系列」は〈アーバレスト〉のシリアル番号に該当するが、生産工場については不明である。E系列と同様のカリフォルニア工場だとする説もあれば、カナダに極秘建設されていた工場だという説もある。
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