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中秋の名月

今夜は中秋の名月だというけれど、雨が降っていて月が見えない。
平安の歌人なら、雨雲の向こうに美しく輝く月を想像して「名月」を詠むだろうな… などと思って、今夜の月のかわりに昔撮った満月を探して久しぶりの投稿。

過去写真のついでに何年か前の中秋の名月の夜の思い出を。

その夜、月の光に誘われて、友人が経営するカフェに徒歩で向かう途中、狭い路地を歩いていると女性の声が聞こえてきた。
気持ちの良い夜だったから近所の奥さん同士で玄関先で立ち話でもしているのだろうと、そのまま歩いて行くと、
こじんまりとした平屋の家の玄関先に佇んでいたのは年配の女性が一人きりで、男性の写真が入った額を胸に抱えて月に向けながら、その写真に向って話しかけている。私が聞いたのはその声だった。
「綺麗ですねぇ…」そう聞こえた。朗らかな声だった。
額の中の男性はほのかに笑っているように見えた。
何も言わず軽く会釈して通り過ぎた後、さまざまな思いが私の胸に満ちてきてきた。
額の中の写真の男性は、亡くなった旦那さんだろうか。亡くなる前は毎年中秋の名月は二人で見ていたのだろうか。
彼女は今と同じように「綺麗ですねぇ」と言い、旦那さんは「そうだな」と答えただろうか。それとも黙って頷いたのだろうか。
月がとても美しかった。秋めいた空気と満月に少し足りない月と、優しい声。溢れてくる愛おしさ。寂しさ。気づくと自分は泣いていて、涙が乾くまで遠回りして月を見ながら歩いた。そんな思い出。

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