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【特集】もう一度観たい、やばいB級映画 第三回 「鮮血の美学」【ネタバレ】

この記事を読んでる人ならウェス・クレイブンの名前でピンとくる人も多いだろう。

「エルム街の悪夢」でホラー映画史上最も性格が悪く、なおかつ殺されたくないキャラのナンバーワンであるフレディ・クルーガーをうみだし、ジャンルそのものが衰退しかけていた90年代末期に「スクリーム」を作りもう一度若者の手にホラーを取り戻した功労者でもある。

グロテスクなホラー映画だけではなく、飛行機に偶然乗り合わせた相手がテロリストだったら?という飛行機サスペンス映画の傑作「パニック・フライト」や実際にいた耳の聞こえない音楽教師の人生を映画化した(普通に泣ける)「ミュージックオブハート」などを作るほどの才能を持った個性豊かな人物だ。

彼も2015年に長い生涯を終えてしまった、76歳である。

そんな彼の映画デビュー作が本作であるのがこの「鮮血の美学」である。

映画の内容は大体こんな感じだ。


17歳の誕生日になった優等生のマリーは親友だが不良なフィリスとともにコンサートに行くことになる。

マリーはダンディなお父さんと優しいお母さんに愛を持って育てられた幸福な少女だった。

道中で不良ちゃんなフィリスは麻薬を買うためにあるマヌケそうな若者に話しかける。

麻薬をキメながらロックでも聴こうというフィリスの考えだった、おびえながらも友人についていくマリー。

彼はマリーたちをある場所へ案内する。

心配するマリーをよそにフィリスはノリノリだった、だがそんな彼女を待っていたのはなんと脱獄した殺人鬼一味だった。

若者は殺人鬼一味のボスの息子であった、結構焦る息子をしり目にボスとその仲間たちはフィリスを惨殺してバラバラにした後、処女だったマリーをレイプして殺してしまう。

やがて、殺人鬼一味は何食わぬ顔である家を訪れて「一晩だけ泊めてくれませんか?」と頼んでみる。

夫婦は「いいですよ!晩飯でも食いましょう!」と快く泊める、殺人鬼一味も逃亡者なのでまるで去勢された犬のようにおとなしくなっていた。

しかし、ここがなんとマリーの両親の家だった。


最初は快く出迎えたが、やがてマリーがつけていたネックレスを殺人鬼一味がしていたことを知ってしまった両親・・・。

おまけに娘の死体まで見つけてしまうのでした・・・・。

両親は鬼のように変貌すると、殺人鬼一味を追いかけまわしながら虐殺していく。

あるものは母親に「欲求不満なの・・・しましょ?」と誘われてチンコを噛み切られて惨殺させられる。

またある者はさんざん追いかけまわされた挙句血まみれでプールに落ちてしまい首を切られて死亡する。

さんざん親父にパシられてイラついていた息子はリーダーに銃を向けるが、勇気が出ずに自殺してしまう・・・。

そして、リーダーはマリーのお父さんによってチェーンソーで惨殺されてしまうのだった。

すると、そこへ父の友人である保安官が偶然巡回に訪れて「なんてこった」と悲鳴をあげる。

善良な夫婦は、殺した相手の血まみれになった服を着ながら互いに自分のした行為を悔やむかのように号泣していた・・・。


というのが本作「鮮血の美学」のシナリオである。

まったくどうしようもなく後味が悪く、憎悪に任せて他人を殺してしまっても手元に残るのは何もないという悲しい現実を描いた映画だ。

本作、ホラー映画としてみればあまり怖くなくサスペンス映画としてみてもあまりサスペンス要素はない。

話の内容も因果応報そのものだ。

しかし、見終わった後に残る不快感は壮絶である。

そして、その不快感が奇妙な快感になり見終わった後「すごい映画をみた!」と感動すらしてしまうのだ。

そして本作の最大の魅力はキャラクターたちだ。

まずこの映画で少女をレイプして殺す殺人鬼グループの面々だが、暴虐なリーダーと愛人、そしてリーダーの息子、影が薄いリーダーの相棒とバラエティに富んでいる。

リーダーと息子と愛人の微妙な関係もなかなか面白い。

リーダーと息子の関係は親子というより、奴隷とご主人様であり終始親父の顎で使われている。

またリーダーは目の前で息子が自殺しても悲しんだり怒ったりせずまるで射精したかのようなうっとりとした表情をみせる。

数ある最低親父キャラの中でも最悪の父親だろう、ここまでくれば碇ゲンドウすら子煩悩にみえてくる。

息子と愛人の関係も妙にベタベタしており、風呂に入った愛人が息子に対して猫撫で声で話しかけたり、息子が車を運転している中からだを触ったりじゃれたりと性的な関係を暗示しているのも中々興味深い。

愛人の女にとっては血のつながりのない息子である反面、浮気相手でもあったのかもしれない。

その光景をリーダーの親父が見ても咎めないあたりも奇妙である、女の愛情すらもこの殺人鬼には何の価値もないのだろう。

ちなみに殺す側だった彼らが殺される側になった際だが、逃げるものもいれば夫婦にやり返すものもいたりするのが面白い。

特にリーダーは怒るマリーの父相手に逆にあおり返すという行為をやってくれる。

殺されてしまう優等生のマリーと不良娘についても、地方都市の高校や大学にいけばこういう「お前ら絶対に気合わないだろ」というような連中同士仲良くしている光景をよくみていたり経験していた身としてはかなりリアリティがあった。

そして、この映画コメディリリーフとして保安官一味が出てくるがこの保安官がほんとうにどうしようもなく役立たずで、帰ってこない娘を心配して捜索依頼を出した両親の通報を受けるが車がエンストしただのでコントをひたすら繰り返すだけの存在になっている。

困ったことに純粋に不愉快なだけの映画ならおそらく歴史に残っていないが、こういう奇妙なコント部分の影響でこの映画の存在をただの不愉快映画ではなく一級のエンターテイメントに変化させているのだ。

もしかしたら、探せばどこかにあったりオンデマンド配信される可能性もあるのでぜひチェックしてほしい所存である。

(追記)

ちなみに本作、2009年あたりにリメイクされているがそっちの内容は殺人鬼の息子がイケメンになっていたり全体的に美男美女であふれた最近のホラー映画になっておりガッカリさせられるのである。

この当時のホラーリメイクラッシュは何も残るものはなかったのだ。

以上

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