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プロレス超人列伝第15回「CMパンク」
プロレスの世界には時に『革命』を起こすものがいる。
日本で言えば長州力、藤波辰爾、前田日明なんかも革命家であろう。
そんな革命家タイプのプロレスラーの中でも印象的な男が一人だけいる。
今回はそんな流星のごとくやってきた革命家の話をしていきたい。
男の名前はCMパンク。
本名はフィリップ・ジャック・ブルックス。
幼いころからシカゴで生まれ育ち、プロレスをみていったパンクはランディ・サベージに大きな憧れを持った。
少年は青年に成長して、CMパンクという名前でインディープロレスの世界でデビューを果たす。
彼が門戸を叩いたのはROHという団体でギミックやアングル、脚本よりも試合内容に赴きを置いたストロングスタイルを重んじる団体であった。
そこでカリスマとして君臨したCMパンクはやがて、WWEの世界に入っていくようになる。
当初、彼は二軍扱いされていた新・ECWのエースとして君臨していたが、キャラクターはストイックなシュートレスラーという地味なものでインディーのカリスマであった彼はもはや影も形もなかった。
とはいえ、世界王座に挑ませてもらうほどの格は常に与えられていた。
ビンスはおそらく彼の持つ情熱に魅了されていたのだろう。
そして、時が変わる時がきた。
2009年、世界的な大不況がアメリカを襲い不満が溜まっていた中CMパンクはその当時のベビーフェイスであったジェフ・ハーディーを強襲した。
パンクとしては、長年待ち望んでいたヒールターンであった。
個人的に仲が悪かった両者の抗争は想像以上に情熱的なものがあった。
あるものは「プロレスは信頼の上で成り立つもの」という、それはある意味では正しい。
しかし、それは100%正しいわけではないのだ。
プロレスはお互いに嫌い合う人間同士でやる時、爆発的な試合になることがしばしばあるのだ。
奔放なライフスタイルと華麗な飛び技でみせることを心掛けるパリピなジェフ、一方ではストイックな「禁欲主義」を掲げるCMパンクでは水と油のようなものだったのだ。
その後、ジェフから世界ヘビー級王座のベルトを奪うとパンクは団体の顔役ヒールとして君臨することとなった。
ジェフ・ハーディーは結果的にWWEを退団することとなった、その際にはファンの目の前でジェフ・ハーディーのメイクをして侮辱するという行為を行った。この時の彼は間違いなく輝いていた。
その後、アンダーテイカーによって彼の持っていたベルトは奪われてしまうが彼の悪行は止まることはなかった。
2010年になると、彼は「禁欲主義社会(ストレート・エッジ・ソサイエティ)」という教団を結成して観客(という仕込みだが)と他のプロレスラーを招き自分の組織を強大なものにした。
その際にはリングに観客を招くと、坊主頭にして自分の教徒に化けさせてしまうという極めて不気味なものがあった。
レイ・ミステリオの家族を襲撃して子供を侮辱するというとんでもないヒールムーブをみせることもあった。
この時の彼は最高に悪く、カッコよかった。
その後、当時WWEを席巻していた新人レスラーの暴徒ユニット「ネクサス」と同盟を結ぶこととなったパンクは持ち前のカリスマ性で逆に「ネクサス」のメンバーを洗脳してしまい、それまでのリーダーであったウェイド・バレットを追い出して、ニュー・リーダーとして君臨することとなった。
彼のカリスマ性は徐々に観客にも浸透していった。
そして、2011年事件は起きた。
ライバルで番組の絶対的エースであるジョン・シナの試合に乱入し彼を暴行したパンクは突如マイクを持った。
そこで彼はジョン・シナとこの団体を痛烈に批判した。
「俺はお前のことが嫌いじゃない。お前がナンバーワンだって考えが気に食わないんだ。お前はどうせビンス・マクマホンのケツにキスすることがうまいぐらいしか俺より優れた点はないんだ。」
「みんなも知ってると思うが、俺は退団をする。6月にこの王座とともにこの団体から去る。新日本にいってもいい。ROHに戻るのもいい。コルト・カバナ、元気か?」
「俺がこうやって何かをしていてもファンの連中はこの団体を支える。だから金持ちのビンスはより金持ちになるだけなんだ。なぜあいつが金持ちなのかわかるか?周りにイエスマンしかいないからだよ。もしもビンスが死ねばこの世界もよくなるだろう。」
「でも実はビンスが死んでもアホな娘と婿が経営するんだろーけどな!」
これは当時の団体に不満を持っていたファンは大いに声援を浴びせた。
革命の時がきたのだ。
それだけではない。
次の収録でビンスに詰め寄られたパンクはより強い言葉で痛烈にビンスを批判した。
「この団体には俺の友人がいた。ルーク・ギャローズだよ。そいつはお前らなんかよりはるかに貢献していた。だけど解雇された。俺はそいつらのためにもやってやる!」
ルーク・ギャローズは禁欲主義教団の時の相棒であった、公私問わない友人同士であったギャローズはその前年に解雇されていた。
この時のパンクは目に涙すら流しているようにすらみえた。
対峙していたビンスは困惑した表情を浮かべていた。
なんと、これは脚本ではなくガチであったのだ。
ただの革命のためではない、友情のため義侠心のために動くパンクにアメリカ中のプロレスファンは熱狂し迎え入れた。
そして、決戦の時はきた。
「マネーインザバンク2011」
場所はパンクの生まれ故郷のシカゴであった。
シカゴのさえない街で辛酸をなめていたシカゴの民たちはパンクのために集い大声援とともに彼を迎えた。
観客の一人が持ってきたボードの中には「パンクが勝たねば暴動を起こす」という過激なものをもっているものがあった。
やがて、団体を代表するライバルのジョン・シナがくると試合が始まった。
団体のエースであるシナもその名に恥じぬ活躍をみせると、好勝負が展開された。どちらも中々倒れず、ギリギリのところで何度も何度も蘇る。
それもそのはず、パンクとシナは親友同士であった。
お互いの信頼関係が生み出した抜群のバランスが生んだ好勝負といえるだろう、プロレスは信頼関係のもとに生み出されるのも間違いない事実なのだ。
パンクの行った名勝負の一つであるジェフ・ハーディーとのラダーマッチとは好対照だ。
試合そのものはビンスの横やりもあったが、パンクの勝利で終わった。
多くの人が思っていた、革命は起きると…。
確かにその兆しはあった。
パンクは団体をやめることはなかった。ギミック上であるが、同じ団体に二つの王座があるようになった。統一王座戦が行われ、パンクはそこでも勝利してベルトの保持者になった。
パンクの時代が来た、そう思われたときであった。
しかし、その1年後まさかのヒールターンを果たしてしまうのであった。
そのキャラクターも自分の権力や権威に縋りつき、他のレスラーから逃げる情けないヒールチャンピオンそのもので、格落ちした感が否めなかった。
恐らくこれは彼の熱量を、そして革命を団体そのものがうまくいかすことができなかったのだろうと思っている。
あるいはビンスやシナ以上に嫌っているトリプルHの権限が炸裂したのか、それは誰にも分らない。
結果的に言えば革命は失敗に終わったのだった。
その後、パンクは再びヒールからベビーフェイスに戻っていったが、もうこの時にはすでに遅かった。
革命は旬を過ぎていたのだ。
パンクとその信者が熱望した革命は起きなかった、失敗したのだった。
2014年、リアルでもとうとう上層部と揉めたパンクは退団を発表した。
残されたパンク信者は今でもパンクを熱望しているが、彼にはプロレスの情熱はほとんど失われてしまっているので難しいのではないかと個人的には思っている。
その後の彼の人勢もやや混迷を極めている。
突然総合格闘家に転身したかと思えば、負けてしまったり漫画家を始めたとはいったが、一回限りで終わったり、俳優をやったと思ったら自主制作のB級映画であったり‥。
彼の人生は混迷を極めた。
そして、2020年。
彼はとうとうWWEに戻ってきたはずだった…。
なんと与えられた役割は1回限りのコメンテーター。
しかも、試合興行ではなく特番のコメンテーターだ。
皆が期待してたプロレスラーのCMパンクではなかった。
そして、その後彼は戻る様子はみせていない。
現在AEWという団体が猛威を振るっているが、もしかしたらそこで復帰するかもしれないのではないかと個人的には思っている。
しかし、ファンがみたいのはやはりWWEの革命家であるCMパンクだろう。
現在、ベビーフェイスが不足しているWWEの中で戻ってくれば間違いなく主人公になれると思うのがどうなのだろうか。