ヴァンダムを救ったのはこの映画なのでは‥「その男、ヴァンダム」
ジャン・クロード・ヴァン・ダム、知らない人はほとんどいないだろう。
世界で一番有名なアクション俳優の一人である彼。
今回紹介する作品はそんな彼の低迷次期に取られた自虐ネタ満載のブラックコメディである。
と、本作の紹介に入る前にヴァンダムのキャリアを振り返っていこう。
1980年代、アメリカンニューシネマを克服して新しい黄金時代を迎えたハリウッドではアクションスターが欲しがられた。
ベルギーからやってきたジャン・クロード・ヴァンダムも、その一人であった。
男前だがイケメンではないシュワちゃん、泥臭いブ男だったスタローン…イケメンだが人間味がないドルフ・ラングレン、彼らと違いヴァンダムはどこか人間臭さと線の細いイケメンさがあった。
1980年代に「シンデレラボーイ」で悪役としてハリウッドにデビュー、主人公を完全に喰ってしまうそのふてぶてしい悪役っぷりで一気に人気者になるのであった。
その後、「キックボクサー」で主演を飾り王道系の主人公もできる事をアピール。
これが彼の名声をさらに高めることとなった。
しかし、1990年代…時代は移り変わっていった。
筋肉俳優がウケる時代ではなくなっていった。
映像技術の発展は、彼らの食っていたパイを徐々に徐々に浸食していった。
キアヌ・リーヴスがその典型例だろう。
シュワルツェネッガーは「ラストアクションヒーロー」で大コケをしてしまい政治家に転向を始めていた、スタローンは「コップランド」で演技派に転向し始めていた。
器用な彼らとは違い、ヴァンダムにはアクション映画しかなかった…。
そして、00年代…。
CG技術の発展でアクションヒーローではなくアメコミヒーローの映画を量産するようになっていった。
もはやヴァンダムは過去の人になっていたのだ。
90年代はまだメジャー級の映画があったが、この時代は完全にDVDスルーや未公開作ばかりになっていた。
もう彼の時代ではなくなっていたのだ。
前置きが長くなってしまったが…本作はちょうどそんな時期に取られた彼自身の悲哀と皮肉・自虐のこもった笑うに笑えない名作である。
びっくりすることに彼が本作で演じるのはヴァンダムそのものである。
ゲームやパソコンで育ってきた若い世代の監督になめられ、仕事はセガールにとられ、奥さんから三行半を突き付け垂れ…びっくりするほど運がないヴァンダムを本人自身が割と真剣な表情で演じている。
さらに運の悪いことに銀行強盗に巻き込まれてしまい、その人質になってしまうのだ。
人質になり、強盗団から罵倒されバカにされるヴァンダムの姿はみていてつらいものがある。
そんな絶望の中に立たされたヴァンダムは唐突にモノローグを始める。
そして、第四の壁を破り観客に語り掛けるのだ。
「ここにはお前と俺しかいない…。俺とお前の勝負はお前の勝ちだったな。俺の負けさ。」
「アメリカにいたが、英語なんてできなかった。」
「信じられないかもしれないが、昔はガリガリだった。でも、空手が俺の人生を変えた。空手が俺に尊敬を教えてくれた。俺はそれを信じていた、敬意を信じていた。だが映画の世界に敬意なんてものはない。だました奴が勝つ…それだけだ。」
やがて、独白はマスコミへの批判に移る。
「ハリウッドは確かに欲望の多い街だった。女、ドラッグ…俺はいろんな女と付き合っては離婚を繰り返した。そのたびにマスコミは批判をする。『あいつは最低だ』とね…。」
「でも、多くの女性と付き合えばわかるが、決して誰かを嫌いになったわけじゃない。みんなを愛しているんだ。」
「確かにドラッグはしたさ、でも…マスコミどもは書き立てる。『ヴァンダムは野獣だ』『キックボクサーの俳優が薬物中毒者に…』とね…。」
自身のドラッグ中毒者であった過去を暴露してしまうヴァンダム、ここでいう『お前ら』というのはマスコミ関係者も兼ねていたのだ。
最後の最後で彼はこういう。
「俺は誰も否定しない、だが人々は簡単に俺を否定して責め立てる。」
ヴァンダムは独白しながら泣き始める。
皆さん知っての通りだが、ヴァンダムは演技派俳優ではない。
彼にウソ泣きはできない。
つまり、これらはガチなのだ。
やがて、映画は彼のモノローグを何もなかったことのようにして再び劇映画に戻り始める。
勇気を奮い立たせたヴァンダムは強盗を取り押さえることに成功したが…大怪我をおってしまい、さらに悲しいことに強盗の容疑者として警察に捕まったしまう。
強盗団のメンバーの中にはヴァンダムのファンもいたが、彼も死んでしまう。
一人になったヴァンダムは裁判を待つという驚異のバッドエンドで映画は終わるのであった。
まるでヴァンダムの私小説である、だが私小説はやはり悲劇的な内容に限る。ここら辺わかっていますかね?庵野大先生?
しかしながら、本作のキテレツな内容がきっかけでヴァンダムは再び世界の注目を浴びるようになった。
その後、エクスペンダブルズ2で悪役を熱演まだまだ頑張れることを世界中に見せつけた。
そういう意味では本作かなり有意義な内容だったのではないだろうか。
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