反戦の一言では片付けられない重みを描いた狂気的戦争映画「炎628」
※本レビューはネタバレを含みます。
大体この時期になると戦争反対だ、いやパヨクはどうだとか、大局的にものごとをみようだとかうだうだと議論が始まるもんである。
確かに俺も反戦ゴリ推しリベラルや左翼にはうんざりしているが、基本的に戦争はやっぱひどいもんであるとは思っている。
そんな中でナチスの狼藉を徹底的に描いたある意味では究極の反戦映画となっているのが本作である。
本作が生まれたのは1987年、製作国はソビエト連邦でおそらくお上的にはこれを作って反ナチプロパガンダで連帯しようぜってことなんだろうけど、本作はやりすぎであった。
ソビエトのお上もさすがに本作のチョーグロい作風、ヒロイズムなどかけらもないリアリズムにはおカンムリであったらしい。
本作を見てもお国のために戦おう!!!なんていう気持ちには一切ならない。
それどころか、「やっぱ戦争は怖いなあ・・・」とドン引きすること請け合いである。
舞台は第二次大戦真っ只中のソビエトが舞台、うっかり武器を拾いそれがきっかけでナチスに家族を皆殺しにされてしまった少年が主人公である。
主人公は行き場を失い、村の人を守るために反ナチスゲリラの仲間入りをしようとする。
まあ、これが日本漫画やハリウッド映画なら鬼神のごとく戦いナチスを一網打尽にしたり、やたらと面倒見のいい兄貴分の先輩軍人など仲間に恵まれるのだが・・・・この主人公はそんなことはない。
それどころか周囲から足手まとい扱いされ、追い出されてしまうのであった。
仕方ないので少女と行動をともにして、ラッキースケベな展開があったりうふふなことになったりするのだが、戦場の空気はやはり冷たく少年は疲労困憊してしまうのだった。
顔立ちのいいロシア系美少年なのだけど
しまいにはこんな風になってしまう。
最終的にナチスに目をつけられてしまい、村の人々は虐殺され少年もフルボッコにされるのであった。
ここに出てくるナチス軍人どもはめちゃくちゃ恐ろしい。
ゲラゲラと笑い、村を焼き女を犯し、略奪と破壊の限りを繰り返していくナチスはまさしく鬼か悪魔である。
こんなのと戦っていたソビエト軍の兵士はやはり士気もそりゃ高くなるだろう。
ハリウッド映画に出てくる馬鹿なナチスなど出てくる気配すらない。
ふとおもうが、本気でハリウッドはナチスの存在をたたくなら本作ぐらいハードコアにやったほうがいいぞ。
なんとかナチスの蛮行から生き延びた主人公は、ゲリラがナチスを捕まえている場所に遭遇する。
ゲリラは彼らを拷問にかけている最中である。
ゲリラもゲリラで冷たい目をしており、ナチスとはまた別の機械的で恐ろしい存在として描かれている。(これにソビエト政府はオカンムリだったのかも・・・)
しかし、ナチス青年将校の一人は決して死を恐れずゲリラたちに逆に啖呵を切ってのける。
「子供から全てが始まる 生かしてはおけない 貴様らもみんな死ね。 貴様らの民族に未来はない。 共産主義は下等人種に宿る 。絶滅させるべきだ 必ず遂行する 必ず遂行する!」
完全にキレたゲリラ兵士たちはナチス将校を皆殺しにしてしまう。
しかし、気分はいいものではなかった。
そりゃそうだ、戦争はまだ続いているんだもん。
主人公はそんな中ヒトラーの写真をみつけ、彼に銃口を向ける。
すると・・・どうだろうか・・・
主人公の頭の中にある赤ん坊の図が思い浮かぶ、先ほどのナチス軍人は「子供からすべてが始まる」といっていた。
ヒトラーも子供だったのだ。
はたして、彼は殺すことができるのだろうか。
主人公は何もみつけられず、ゲリラの一員として加わる以外なかったのであった。
これをみて反ナチプロパガンダだなあと思う人はいるだろうけど、戦争は必ずしもかっこいい制服側や兵士のドラマだけではない。
本作のように無理矢理巻き込まれる側の人間もいたのだ。
あと、中国をなめている左翼さんに言いたいけどこれと同じ光景もしかしたらそのうち沖縄でみるかもしれないよ。
あとそういえば途中でナチスの飼ってた牧羊牛が射殺されるシーンがあるんだけど・・・あれ模型じゃないよね!??
どうやって撮影してたんだろう。
わからなくなってくるなあ、こういうところ含めて本作はすごいのだ。
(追記)
本作ではナチスの蛮行ばかりが描かれているが、実際にはソビエト側もドイツ占領した後ではドイツにおいては凌辱と狼藉の限りを尽くしていたといわれている。
戦争に正義などないのである。