オーストラリアで九死に一生を得て、笑いも取れた話
私がワーホリでオーストラリアに滞在して一カ月目くらいの頃、サーフィンの名所として有名なゴールドコーストでボディボードに初めてチャレンジしました。
その日はかなりの強風で、海岸には数か所ほど遊泳禁止の区域が設けられており、人が入り込まないかどうかライフガードの人たちが目を光らせていました。
私は当然ながら安全なエリアの方で、初心者用の小さなサイズのボードでチャプチャプ遊んでいました。
ところが楽しくてしばらく夢中になっているうちに、強風で流されてしまって私はいつの間にか遊泳禁止区域に入り込んでいたのです。
浜ではライフガードの人たちが私に向かって大声で
「そっちは危険だ!早くこっちへ来い!」
と叫んでいるのが聞こえたので慌てて戻ろうとしたのですが、波が高いことに加え、足に結んだ小さなボードが邪魔をして上手く泳げません。
焦ってもがけばもがくほどに沖合の方へどんどん流されていき、しまいに高波にも飲み込まれ出して、私は必死で"Help! Help!"と二度叫びました。
が、二度目の"Help"の直後に大波が襲ってきて、私は完全に溺れてしまいました。
「俺の人生ここで終わりか…
もっと生きたかったな…」
と本気で死を覚悟しました。
と、その時です。
浜の方から大きなボディボードに乗ったライフガードの若いお兄さんが、猛スピードで私のところまで泳いでくるのが見えました。
そうして私の体を自分のボードに引き上げて
「俺につかまれ! そのまま動くな!」
と言ったかと思うと、片手で私を掴みながら再びもの凄い速さで泳ぎ出し、浜辺まで連れ戻してくれたのです。
「ああ、助かった…」
と安堵して全身の力が抜けました。
と同時に、私の不注意でライフガードの方にご迷惑をおかけしたのを申し訳なく思い、私はうつむき加減で
"I'm sorry."
とお詫びしました。
私はてっきり
「何やってんだ!気をつけろ、バカヤロー!」
とでも怒鳴られるかと思ったら、そのお兄さんは
"Are you OK?"
と私が特に問題ない状態であることを確認すると、そのまま無言でさっとまた自分の持ち場に戻ろうとしました。
完璧なまでのプロフェッショナルな姿に対する感動と、助けてもらった感謝の気持ちが抑えきれなくなり、私は胸を詰まらせながら
"...Thank you very much!"
と声を振り絞って言いました。
するとお兄さんは顔だけこちらを振り返って、メチャクチャ眩しい笑顔でグッとサムアップのポーズを取り、また無言で去って行ったのです。
これが吊り橋効果というやつでしょうか。
私はその笑顔にズキューンと胸を貫かれ、ノンケであるにも関わらず恋をしそうになりました。
思わず「抱いて!」と言いかけたほどです。
(あくまでその瞬間だけで、私はノンケです)
その日ホームステイ先のホストファミリーにこの話をしたら、爆笑してくれました。
いやちょっとは心配してくれよとも思いましたが、まだ自由の利かない英語で笑いを取れたことの方がうれしく、それからこのエピソードは私の鉄板トークになりました。
ただし、これ以降トラウマで海に入ることが怖くなりもしました。
というわけでここで一句。
「海は 遊ぶものじゃなく 眺めるもの」
(自由律俳句)
今回もくだらない話にお付き合いいただきありがとうございました。