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ドローン - 静止と極限の音楽

今ドローンと言えば、プロペラがいっぱい付いた空飛ぶラジコンが思い浮かぶ方が大半かと思いますが、音楽にもドローンと呼ばれる分類があります。非常にマイナーで解りづらい音楽で、だいたいアンビエントミュージックの分派に位置づけられています。

そんなドローンの構造と魅力を、ドローンが好きでそれっぽいトラックも作っているKURAYAMIが考察します。なお本稿では例示のみで、特定の盤やアーティストについては言及しません。それなりに掘ってはいますが、聴き手としてはそこまで詳しくないので。制作者の気づきとしてお読みください。

ドローンの定義

まず音楽におけるドローンという用語について、みんな大好きウィキペディアを頼ってみましょう。

音楽におけるドローン(英: drone)とは、楽曲の中で音高の変化無しに長く持続される音である。完全五度などの複音の場合もある。
ドローン(音楽) - Wikipedia

音楽におけるドローンは、もともとは楽曲内の音の一形態を指す用語です。クラシックや現代曲でも、面的に支える音としてドローン音は良く用いられています。そのドローン音を主体に先鋭化した楽曲が、そのままドローンミュージック(以下ドローンで統一)として成立しています。(たまに通奏低音と説明されることがありますが、間違いです)

以上を踏まえて、ドローンのジャンル的な定義です。音楽のジャンルを定義する際に厳密さを求めるのは筋が悪いんですが、その点ではドローンはとても定義し易いと思います。

【音高の変化が極端に少ない、長く続く持続音を中心に構成された楽曲】

この条件だけでドローンとして判断していいと思います。この定義のシンプルさはドローンの魅力の一つです。それだけでは作品としてなかなか成立しないので、楽器の組み合わせや和声の構成、時間経過による音響の変化などで個性を出します。特に音響の変化は、変化の少ないドローンでは楽曲展開の強い要素なるので、鑑賞する時も作るときも重要です。でも中には本当にまったく変化をしないドローンもあり、それはそれで緊張感があって良きです。

(そこそこ長いドローンの例。39分あります。)

また長く持続するという点も重要で、1曲10分以上の作品はザラで1時間超えの作品もあります。長ければ凄いわけではないですが、長時間のドローンを作品として聴かせるには相応のテクニックが必要です。ただどんなに素晴らしい曲でも長いと聴いてて眠くなります。そういうときは素直に寝ましょう。睡眠用BGMとしてもよく用いられます。

リズム楽器の可否は判断が分かれるところかもしれません。自分はリズムが入っても、ドローン音より明確に弱ければアリだと思っています。でも観測範囲では、リズムが入っていると比較的アンビエントやエレクトロニカと見なされることが多いようです。

ドローンで使用される楽器

使用される楽器は何でもよく電子楽器に限りません。シンセサイザーの作品が多いので案外誤解されてるかもしれません。

シンセサイザーには、生楽器にある息継ぎや発音構造などの肉体的、物理的制約がなく、長い持続音が作り易いのでドローンで多用されています。また連続的な音響変化が簡単にコントロール出来るので、音高が制約されても複雑な表現が出来るという点も、かなりドローンに向いています。

特に長時間のドローン音を作る場合はそうした電子楽器以外にも、コンピューターを利用して録音した音を加工したり、プログラミングで音を生成する技術なども用いられます。鍵盤を押さえて演奏するというより、スイッチを押すと無限に音響が生成される方法論の方が作りやすいので、そうした技術とは相性がいいです。

(オルガンのみとギターのみで作られた作品)

電子楽器以外にも、ヴァイオリンやギター、オルガンなどの生楽器を活かした人力ドローン作品もあり、人力ゆえの緊迫感や凄みがあったりします。また世界各地の伝統的な楽器も利用されていて、特に民族楽器の一部には元来ドローン音に特化されたものがあり、独特な魅力のある持続音を出す楽器があります。

オーストラリアの先住民族の楽器であるディジェリドゥやインドの伝統楽器タンプーラなどですが、ドローン音を出すことに特化している形状や奏法であることと、西洋楽器より出せる音階が制限されていることが、独特な魅力の要因かもしれません。逆にこれらの民族楽器がドローンミュージックの元祖と捉えることもできます。

もちろん電子楽器と生楽器をミックスしたり、生楽器を録音して加工するなど、楽器の組み合わせにも制約はありません。目的の音響さえ表現できれば何を使ってもオーケーというのは、ジャンルの雰囲気に反してノイズミュージック的で楽しいです。

時間の静止した音楽としてのドローン

自分が最初にドローンに関心を向けたのは、まだテクノのDJをしてた頃です。クラブで踊らせる事に特化した音楽へのカウンターとして、静止させる為の音楽も面白そうだな、と興味を持ったのがドローンでした。

音楽にはテンポに応じたリズムがあり、人はそれに合わせて踊ります。テンポが遅いほど動きは緩慢になりますが、さらに遅くしていくと音と音の接続性が認識できなくなり、動きを合わせられなくなります。テンポがかなり0に近くなった時、音楽はどう聴こえるでしょう?

(タイムストレッチを応用したドローンの例)

この動画は、ブライアンイーノ作曲で有名なWindows95の起動音を、4000%引き伸ばして作られたドローンです。このように音高を変えずに音の時間を引き伸ばす技術を、タイムストレッチと言います。

この技術を動画のように極端に適用すると、どんな音楽でもテンポがゼロに近づき、音響的にはドローンになります。このように、ドローンはテンポ≒0の音楽、静止した音楽という解釈ができます。

極限の速さの音楽としてのドローン

逆の場合でも同じように考えられます。自分はミニマルテクノが好きですが、その中には1小節ではなく1拍で反復するかなり強迫的な曲もあります。1拍を延々と繰り返しながら、僅かな音質の変化だけで進行します。これ、ちょっとドローンと発想が似てると思いませんか?

(1拍で反復するミニマルテクノの例)

さっきとは逆に、タイムストレッチで音高を変えずにテンポを速くしていくと、音と音の隙間が短くなっていきます。アバウト計算ですがBPM1500くらいで、基音がベースくらいの音域が出ます。リズムで区切られていた音は完全に繋がって、可聴域で振動した持続音=ドローンになります。

…ちょっと強引な説明ですが、同じ音高で持続しているドローンは、一つの周期波形を超高速で反復させて、テンポを可聴周波数まで収斂させた音楽、極限の速さの音楽という解釈が出来ます。(IDMなんかで 、ループ波形のエンドポイントを短くして音を発振させるグリッチテクニックがありますが、あれとほぼ同じ発想。)

まとめ

このように自分はドローンを、速度が両極限にあるミニマル・ミュージックと捉えていて、それを魅力に感じています。

まとめると、ドローンという音楽は
・定義がシンプルである
・静止と極限という両極にある二つの解釈が出来る

という極端で独特な特徴を持つ、かなり変わった音楽です。この点を意識して鑑賞すると、一聴ただの持続音であるドローンを、音楽としてより楽しめると思います。

(KURAYAMI - Polymerization E.P. [Akihabara Heavy Industry Inc.])

ついでなので自分がドローン音を主体に制作した作品を紹介します(ダイマ)。ノイズやピアノ、シンセアルペジオなどの装飾が多いのでドローンというよりは、インダストリアルアンビエントという感じです。しかし全編主題はドローン音で曲の尺も長く、純粋なドローンを聴く入り口になればと思いつつ制作しました。(というか完全なドローンでCDを出す度胸はなかった…)

ドローンは作る上で制約が少なく、エレクトロニカやテクノのアーティストが作品の幅を広げるため部分的に取り入れているケースも多く、意識せず聴いている人もいると思います。しかし純粋にドローン音のみで構成された楽曲や、CD単位で構築されたガチ長時間ドローンには、特別な聴き応えがあります。

自分の推しのアーティストなどはまた別の機会に。[ドローン 音楽]で検索すると結構オススメ記事や作品がみつかるので、是非お好みのアーティストを見つけてフォローしたり、実際に曲を作ってみてください!(いいアーティストを見つけたり曲を作ったりしたら、こっそり教えて下さい)

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