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「飼い主さん」か「飼い主様」か

動物病院で、動物の飼い主を呼ぶときに「飼い主さん」「飼い主様」どっちがいいのかという事を考えてみようと思います。

みなさんは、いつもなんて呼んでいますか?ちょっと考えてみて下さい。


筋肉に聞いても今回は教えてくれなさそう。
(画像:お笑いナタリーより)

これは、僕の考え方です。
病院ごとの考え方や獣医師ごとの考え方があって全然OKだと思います。何が正しいはありません。

僕は、「飼い主さん」です。
でも、実際に診察中に向かって相手を飼い主さんと呼ぶことはありません。基本的には「苗字+さん」です。

なんで「飼い主様」でなくて、
「飼い主さん」や「苗字+さん」がいいのかはいくつか理由があります。


先に少し脱線しますが、医療での変遷をお伝えします。
現在の、医療では「患者さん」がほとんどだと思います。(美容外科や自由診療のクリニックは患者様もあるかもです)
でも、一時的には医療全体的に「患者様」が適正だと言われていたときもありました。
だいぶ前ですが、平成13年の厚生労働省の「国立病院・療養所における医療サービスの向上に関する指針」で、『患者の呼称の際、原則として姓名に「様」をつけることが望ましい』という通達があったためです。
本来は、「苗字+様」にすることで医療サービスの質を向上させることが目的だったのですが、患者という言葉にも様がつけられるようになり「患者様」という言葉も使われていきました。

でも現在、「患者様」と呼称する病院は減っています。なぜでしょうか?
これらの考えは医療、獣医療共通であると考えており、僕もこれらの理由から「飼い主様」呼びはしません。
大きくは3つあります。

それは
①患者側(飼い主側)の希望
②医療者‐患者関係からです。
③クレームの増加
です。

①患者側(飼い主)の希望
患者に対する、敬称は何が適切であるかよく考えられている時期(15年くらい前?)がありました。(今はもうあんまり行われていないのは、結論が出ているからだと思います。)
基本的に、患者自身は「患者様」という呼び方に対して適切でない、好感が持てないとしている人の方が多いのがほとんどの研究で共通していました。(1)
好感が持てない理由としては、・患者は客ではない ・へりくだる必要はない ・うわべだけ ・よそよそしい ・日本語としておかしい などが考えられています。
また実際に獣医療の研究でも、動物病院での敬称に関して飼い主は「苗字+さん」が、「苗字+さま」よりも適切であると考えている飼い主は多いと報告されています。(2)

②医療者‐患者関係
こちらは医療コミュニケーション的な側面の話です。
医療者‐患者・飼い主関係は現在の医療では対等な立場での関係性が慢性疾患、個人ごとに治療の選択が変わる疾患では推奨されております。
対等な立場の方が、動物の病気を治療していく上での信頼関係などの関係性が構築しやすく、意思決定もしやすいからです。


対等な対場でのコミュニケーションの方がしやすいですね。
例えば、社長よりも同期の方が話やすい。

③クレームを助長させる可能性
「様」を使うことで、一部の人の「誤った権利意識」「過剰なお客様意識」を助長し、必要以上のクレームが生じやすくなり診療に影響を及ぼす事例も生じているのではと考えています。
現在よく取り上げられるカスハラですが、「様」を付けることで本来の台頭であり協力関係であった医療者‐飼い主関係の立場を誤解させてしまっていることがあるのではないかと思っております。

こんな感じの理由から僕は「飼い主さん」「苗字+さん」を使います。

実際の動物病院はどうでしょうか?
僕の個人的な印象ですが、動物病院では飼い主のことを「飼い主様」という言葉を使っているのが多いのではないかと思っています。(特に従業員が比較的多めの病院では?)
「飼い主さん」か「飼い主様」と言うのかは、病院の考え方・コンセプトや獣医師の考え方次第ですが、医療での変遷や医療コミュニケーション的な視点から考えると、飼い主に対して過度なお客様意識は持たなくていいと思っています。

動物病院と飼い主の関係は対等である方が、より多くの動物を救っていけると考えているから
僕は意識的に「さん」呼びにしてます。

(1)「〜さま」と「〜さん」:患者敬称の使い方についての患者医師双方への調査研究 徳田ら

(2)動物診療施設での敬称・動物の性別・食餌表現に対する飼い主の認識 木村ら



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