なぜ医療コミュニケーションは難しいのか?②~疾病と病い~
好評につき第二回です。(自己満)
なぜ医療コミュニケーションは難しいのか?前回は情報量の非対称性について書きました。
今回は、別の要因のお話します。
獣医師に限らず、医療者なら知っておいた方が得なのではないかという話ですので、名前だけでも覚えて帰って下さい。(サンドイッチマン富澤風)
それは、「病気」という言葉を考えたときの
「疾病」と「病い」という考え方の違いについてのお話しします。
疾病と病いという言葉を聞いてどんなイメージを持ちますか?同じだと思いますか?違うと思いますか?
英語にすると
疾病はdisease
病いはillnessと訳されます。
ひとまず、定義のお話をすると
「疾病」は、生物学的な異常としての状態
「病い」は、症状や障害を患う本人や家族の視点からの社会心理的側面を含む状態
難しいですかね?
図で見ると分かりやすいんじゃないでしょうか♪
病気という全体の考え方の中に、
「疾病」と「病い」というそれぞれの考え方の部分があって、またそれらが重なってるところもあります。
そして、ここでもう一つ補足で疾病と病いは必要な治し方が異なります。
疾病には治療(curing)
病いには癒やし(healing)
が必要とされます。頭がこんがらがっちゃいましたかね?
例で考えてみるとわかりやすいかな♪
犬が連日吐いてて、ご飯食べないよって飼い主さんが、動物病院に連れてきました。
獣医師(医療者)はまず、食欲不振で頻回嘔吐か…ふむふむ…胃腸炎かな?膵炎かな?それとも高齢だし腫瘍かな?とか病気の名前を考え、必要な検査内容を考えると思います。
状況を整理して、生物学的な異常としての病気の考え方をします。
これが疾病の考え方です。
逆に飼い主さんは、この子の好きなご飯が食べれなくてかわいそう。それに毎日吐いてて辛そう。前に飼ってた犬が同じ症状で癌だったから、そうだ、この子も癌に違いない。
とか、その子の生活に基づく社会心理的側面からの考え方、経験に基づく病気の考え方とをします。
これが病いの考え方です。
これって大きな病気の捉え方の違いですよね。
そして重要なこととして、飼い主さんは病いの考え方しかしないってことでなく、疾病と病いの考え方をまぜまぜして病気という形にして動物病院に来ます。
なので、獣医師は動物を治すのはもちろんですが
飼い主さんが病気のどこの部分で悩んでるのかを考える必要があると思います。
そして、疾病に必要なのは、動物の状況を改善させるための検査や点滴とか薬とか治療になり
病いに必要なのは、飼い主さんの不安や悩みへの心理社会的側面のフォローをするために
相手の気持ちを理解しようとすること、不安を聞くこと、一緒に目標を立てることは癒やしに当てはまります。
ちょっとイメージついたでしょうか?
この考え方が理解できてないと、飼い主さんが病いの考え方をしてるのにどんどん検査や治療をすすめていってもうまくいかないし
疾病の考え方を持っている飼い主さんにはただ優しい言葉で寄り添うようなコミュニケーションを取るのではなく、理論整然としたインフォームが必要になります。
ここにコミュニケーションギャップが生まれやすいポイントがあります。医療コミュ二ケーションって難しいですね。
・治療して病気が良くなってるのに、飼い主さんが満足度が低いのはどうしてだろう?
・ちょっとごはん食べないだけで、あの飼い主さんはどうして病院に来るんだろうか?
・「大丈夫だよ」って伝えてるのにどうして理解してもらえないのだろうか?
おそらくこういう悩みは、
病気の中の、疾病と病いという別々の考え方があることを知っていると、相手のことを理解し、解決するヒントになると思います!
獣医師の仕事って奥が深いですね!