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分譲マンションで新サービス・新技術を入れるなら、事業継続性を考えろって話

クックパッドマートのサービス縮小

突然ですが、クックパッドの赤字と人員削減が止まりません。

 (クックパッドは妻も有料会員として愛用しているだけに何とか持ち直して欲しいのですが…)
マンションに関連する話としては「クックパッドマート」というサービスがあります。

この特徴を強引にまとめると以下のような感じです。

  • スマホのアプリで食材が簡単に注文できるよ!

  • 食材は店舗や農家から当日配送するよ!

  • 駅とかに設置した専用冷蔵庫で受け取れるよ!

  • クックパッドはその販売手数料で収益を上げるよ!

  • 専用冷蔵庫はマンションのエントランスにもタダで置けるよ!
    (置けるマンションには旗立てたから連絡してね。売り込みに行くよ!)

旗立てたイメージ。リクエスト受付中からリクエストすると営業が売り込みに来る仕組み。理事会で否決したと連絡しても旗は立ち続けるから警告を発して消してもらうことに。すっげぇ迷惑

共働きで通勤導線上にスーパーがないような都市部の世帯には嬉しいサービスだと思いますし、実際にお住いのマンションに導入されて便利だったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

一方で、Twitter等のSNS上では、
「週1回に配達が減っちゃった」
「エリア縮小でマンションから撤退」
「ラインナップがリニューアルされたら3,000円以上のものばっかに…」
といった口コミも見られ、サービス縮小の波が感じられる事態に至っています。

ここでは、分譲マンションでは新機軸の取り組みに慎重になった方が良いかもねという話題を取り上げたいと思います。

プラットフォームビジネスは難しい

クックパッドマートは供給者(店舗・農家等)と消費者を結ぶプラットフォームビジネスに該当します。
プラットフォームビジネスは、一定の固定費がかかるケースが多く、売り上げが上がらないとなかなか回収に至れないことから規模の経済性が働きます。そのため、ある程度の市場性は求められますし、同時に市場規模があったとしても勝者の立場でなければ投資回収効果が見込めないという特性があります。

そのため、プラットフォームビジネスが成立する要件としては
・市場性と勝者へのシナリオ
・黒字化に至るまでの企業体力・投資姿勢
が必要と言えます

生産者と消費者が繋がれば理想なんだけどね。難しいのよね。

さて、クックパッドマートはどうなのでしょうか。
個人的な意見ですが、このサービスがローンチしてうちのマンションへの売り込みがあった時点では、スケールしにくそうな上に長期的なサービス提供が難しそうだなと見ていました。

当時私が考えていたのは以下のような内容です。

  • クックパッドマートのユーザー像は、大都市圏の共働き世帯くらいしか見えない
    (大都市圏に限定しているのは、共働きでも車通勤だと容易にスーパー立ち寄れちゃうので宅配ニーズが限定されてしまう)

  • けど、大都市圏だと土地代が高く、冷蔵庫置くのも難儀しそう
    (タダで置ける? むしろ賃料を払うべきでは?)

  • 本業のクックパッドコムの売上・有料会員数は減少継続
    (企業体力面でも事業継続性は怪しそう)

土地はお金になるのよね

その責任、誰が取るの?

マンション管理組合というものは「タダ」という言葉に弱いようで、それなりの分譲マンションで導入が進んでいるように見受けられます。

しかし、先の事業継続性以外に分譲マンションならではの問題もありました。
それは、事業者たるクックパッドがプラットフォーマーとしての立ち位置を明確にしており、トラブル時の解決に全く寄与しなさそうな姿勢を示していることです。

(クックパッドマート基本規約より)

  • クックパッドは製造物責任法上の製造業者等ではない

  • 商品売買契約に基づく引渡義務は配達完了時点で履行したものとみなし、配達完了後の商品について生じた不具合は一切責任を負わない

この内容を見る限り、仮に商品に関する問題があったとしてクックパッドは一切の責任がなく、製造販売業者(店舗、農家等)と住民の間でトラブルを解決する必要があります。
また、この解決が拗れると管理組合・理事会が巻き込まれる可能性も否定できません。

私が師として仰ぐはるぶーさんも規約に懸念を表明されていました。

サービス縮小や撤退されても面倒なの

さて、冒頭の通りクックパッドは苦境に立たされており、クックパッドマートもサービス縮小・見直し傾向が示され、愛用者の間には悲しみの声が広がっています。

とはいえ、嘆いても事業者は生き残りをかけて収益改善を図るしかないので淡々と見直しは進むでしょうし、既に導入されている多くのマンション管理組合・理事会はその影響を受けることになります。

ここでは見直し・撤退で考えられる面倒なことを3点挙げてみます。

  • 契約も解約も総会が必要
    導入する際にはクックパッドへの申し込みが必要になりますが、申し込みとは契約です。
    また、冷蔵庫を置くということはマンション標準管理規約で言うところの「敷地及び共用部分等の第三者の使用」にあたると考えられますので、多くのマンションでは契約にあたって総会決議が必要であったと考えられます。
    さて、そのような手続きで導入したのであれば、解約にも総会決議が発生する可能性があります。マンション側の都合でもないのに面倒ですね。
    (なぜか同社の資料では理事会決議で導入できることになっているようですけど・・・本当なのかしら)

(出展)クックパッドマートご紹介資料
ホンマにこんな早く入れられるんかいな(´・ω・)
  • 撤去後の原状回復
    冷蔵庫を買い替えた方なら分かりますけど、結構クロスとか床とかに汚れや跡が付くんですよね。この辺のケアも必要になってきます。面倒ですね。

クロスとか床って汚れやすいんですよね。
  • 「便利だったから代わりのサービス探してよ!」という居住者の対応
    代替サービスを求める声はだいたい出てきます。
    クックパッドマートは勝手に地図に旗を立てて「連絡貰えれば営業活動するよ」で、マンション側は受け身で良かったのに…代替サービスを探そうとするとこれまた面倒ですね。

強くお困りの声を出されても、理事役員も困る。

ミニショップとか託児所とかはもっと大変(#^ω^)

クックパッドマートから話は外れますが、大規模マンションだとマンションの中に居住者専用のミニショップや託児所が設けられているケースがあります。
これは分譲時にはデベロッパーが販売促進目的で設置するのですが、およそ5年の契約期間を満了すると採算性が悪いので管理費からの負担を求めたり、場合によっては撤退したりということが生じます。

私が住んでいたマンションではどちらも撤退して、当時の理事会が大変な思いをしていましたので、マンション販売時だけ良いという考えで有償サービスを設けるのはマンション管理組合の事業継続性の観点から再考して欲しいなと思います。
よくそんな売り方でSDGsとか言ってられるな、あぁ!?

(参考)大変だった時の話をまとめたnote

マンションのセキュリティは本当に勘弁

先ほどのクックパッドマート、ミニショップ、託児所等は、利用者が一部の住民に限定されるサービスです。しかし、これが誰もが使うサービスならどうでしょうか。

私が前に住んでいた都内タワーマンションでは、マンションの基幹システムとも言えるセキュリティでマンション独自仕様が採用されており、システム継続・部品供給が出来ず、汎用品への切り替えで大揉めという事例がありました。

そもそもセキュリティとはなんぞや?

多くの分譲マンションでは、エントランス等の開閉を自動的に行うセキュリティシステムとしてオートロックが導入されていると思います。
最近ではポケットに鍵を入れていても開閉できるハンズフリータイプもあって、とても便利ですよね。

ハンズフリーイメージ(ラ・カーサグランデ タワー ザ・甲南より拝借)

私の住んでいたタワーマンションでは先進性を売りにしていたこともあり、セキュリティに「Felica規格」を採用。通常の非接触キーとして使えるだけではなく、おサイフケータイで開錠ができたり、携帯電話で来訪者履歴確認・映像確認が出来たりと、2000年代のマンションとは思えぬ高機能なセキュリティシステムが採用されていました。
このシステムを支えていたのが、多くの分譲マンションで採用されていた汎用製品(非接触キー)とは異なるマンション独自仕様のカスタマイズ部品と専用システム。もちろん大変お高い(笑)
一方で、当時は携帯電話の通信規格が3G回線の時代。
映像確認機能を活用する方は皆無でコストに見合わず、他のマンションでは採用に至らなかったことで、本当に当マンション独自仕様として幕を下ろすことになってしまいました。

当時最も売れた携帯電話sらしいです。ガラケー全盛期。

そうなると次に出てくるのはいつまで保守してもらえるのかという問題です。
部品もシステム(この場合はサーバー)も当マンション独自仕様ですから、それはもう事業者としては継続することが苦しくて仕方がありません。
一方で、マンション側はセキュリティの更新はなるべく引っ張りたいので、サービスの維持・保守部品保有継続をお願いすることになります。
(実際はお願いという綺麗な言葉ではなく、「おうおう、勝手に辞めんなや」という圧力とも聞きましたが…)

とはいえ、築11年目くらいになると「保守部品が底を付きたため、早めに更新を検討いただきたい」と事業者から白旗(という名の最終通告)。
で、その時、問題に直面したのが理事長になりたての私。
どうやら、2年前の理事会で更新依頼の話があって突っぱねたっきりらしく、引継ぎ事項にはなかったため私の立場ではいきなり申告を受けたような形になり、とても慌てました。

だって、セキュリティだよ。
あの鍵をタッチする場所が仮に壊れたら常時開錠しておくしかないんだよ。
セキュリティをウリにしているタワマンの玄関に「鍵が故障しています」とか張り紙したら、坪単価xx万円くらい落ちちゃうでしょ(錯乱)

当時の心の声

てな焦りの中で、関係する理事役員の皆さんとウンウンうなりながら急ピッチで汎用品への切り替えの検討を進めることになりましたが・・・。

この切り替えで今使っている非接触キーが使えなくなったり、おサイフケータイや携帯での来訪者確認が出来なくなったりと、手間とダウングレードのダブルパンチで、居住者からは不満たらたら。

この黒いのが使えなくなって全交換。文句言われても使えないのは使えないのよ。。。

当然、セキュリティ切り替え前後のトラブルが多発することになりました・・・トホホ。

リスク評価と事業継続性評価はしっかりと

今後も上記のような目新しいサービスや機能がマンションに導入されることは考えられます。
もちろん居住者の利便性を考えていち早く導入するのも良いのですが、リスクと事業継続性の評価と天秤にかけて検討しないと数年後に後任がとても苦労することを、私は声を大にして伝えて今回のnoteを終わりたいと思います。
(注・私の住んでたマンションは最初に入れたデベが悪いんですけど)

天秤にかけましょう。そのサービス、終わり方まで考えられてます?

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