
地域の理解と誇りに繋がるガストロノミーツーリズム、日本で推進するためのヒント
(やまとごころ・コラム記事より転載)
ガストロノミーツーリズムは、日本だけではなく世界的に推進されている。
UN Tourismは2015年から毎年、世界各国でガストロノミーツーリズム世界フォーラムを開催しており、世界的にガストロノミーツーリズムの普及を目指している。地域ごとに差別化ができ、訪問者に新しい価値観や体験を与えることができるからだ。
また、地域に内在するガストロノミー資源を掘り起こし、ストーリーを重視するガストロノミーツーリズムは、地域の食文化保護、地域経済の発展に繋がる施策として注目されている。
UN Tourismは、ガストロノミーツーリズムを「食べ物以上のものであり、さまざまな人々の文化、遺産、伝統、共同体意識を反映」したもので、「観光客の体験・活動が、食や食材に関連付いていることを特徴とする」としている。
そして、ガストロノミーツーリズムは、「旅行中の食品および関連製品や活動に関連する観光活動」であり、その対象は、「歴史、文化、地理、経済、地域社会により構成され、本格的、伝統的又は革新的な体験と併せて、地域特有の食文化を知り、学び、食し、味わい、楽しむ体験」としている。
世界の観光に目を向けると、新型コロナウイルス感染拡大による観光客の大幅な減少からは、ほぼ完全回復の水準に達した。UN Tourismが発表した2024年の国際観光客数は、感染拡大前の99%まで回復している。
感染拡大の影響は旅行者の旅行スタイルにも影響しており、太平洋アジア観光協会(PATA)の発表によると、感染拡大終息後の旅行スタイルとして、安心、安全が最大の関心事となっており、旅行の質的向上、特に観光地での食や宿泊施設の充実を求めるSIT(Special Interest Tourの略、趣味やテーマ性が高い特別な目的に絞った旅行)が増加するとされている。さらに、持続可能な観光に関する意識も向上しており、世界の旅行者はサステナブルな旅の実践に関心を抱いている。
ガストロノミーツーリズムの推進が、地域の理解と誇りに繋がる
日本は、2030年の訪日外国人旅行者数6000万人、消費額15兆円を視野に取り組みを進めており、さらに多くの観光客が日本を訪れることが期待される。彼らの訪日の目的はさまざまだが、日本の食文化に触れたい、感じたい、体験したいというのもその一つだ。
では、日本の食文化とは何か。本物の日本食を求めて日本を訪れる外国人旅行者は、食を通じて、各地域の歴史、伝統、文化を知り、地域ならではの食文化を体験したいと思っている。重要なのは、それを伝える側が、日本の食文化を知り、地域の食文化を理解して伝えることができるかどうかだ。
その点、ガストロノミーツーリズムは、地域に内在するガストロノミー資源(食文化資源)を掘り起こすことで、地域の事業者がその地の食文化を再認識し、地域に誇りをもつことにも繋がっており、訪日客の求めに対応できる。
また、食は、環境問題など世界的課題と切り離すことができない。グローバルな視点で食を見つめ、訪れる旅行者にメッセージを伝えることも今後とても重要なことである。
スペイン・米国の現場から見る、食文化と環境への意識
2023年、スペイン、バスク地方特産品のワインであるチャコリのワイナリーGaintza(ガインツァ)を訪れ、ワイナリーツアーに参加した。家族経営で4代目となるワイナリーのオーナーから語られた内容は、気候変動による課題が半分以上を占めていた。ぶどう畑が続く斜面と北からの風がガインツァのテロワールを形成している。美しいぶどう畑で、地元で愛されているチャコリの歴史や魅力を聞き、実際にいただきながら、私自身、環境への問題意識を強く持つこととなった。
日本に戻り、あるワイナリーツアーに参加したが、環境の話は一度も出てこなかった。私から質問をして初めて回答してもらえたが、これからの食のツーリズムは、事業者自らの課題や哲学を伝えていくことが大切になってくると感じた場面だった。


一方、2024年の夏に訪れた、アメリカのサンランシスコでは、オーガニックへのこだわりがカリフォルニア全土に広がっていると実感した。
サンフランシスコに20年以上在住するElliさんと訪れた商業施設「フェリービルディング」は、オーガニックをテーマとしたマーケットプレイスとして2003年にオープンしている。普通の商業施設と違う点は出店基準だ。オーガニックにこだわり、持続可能な経営をしていること、地元で支持を得ていることが、出店の基準となっている。
土曜日にはファーマーズマーケットも催されており、各地のオーガニック農家が多く集まる。


見渡すと、観光客だけではなく、地元の方も多く、地域にも愛されていることがわかる。世界的ブランドに成長したブルーボトルコーヒーもこのフェリービルディングからスタートした、と聞いて驚いた。


Elliさんは、サンフランシスコのオーガニックへのこだわりは、サンフランシスコ郊外のバークレーで生まれたFarm to Table(農場から食卓へ)の考え方が大きいと語ってくれた。Farm to Tableは、2000年代から日本でも話題となり、各地で実践されている。提唱者のアリス・ウォータース氏は今から50年以上前の1971年に、ローカル、オーガニックにこだわったレストラン「シェ・パニース」をオープン、今も変わらず料理を提供している。


1990年からは、学校に通う子供達が、自ら土に触れ、作物を育て、料理をつくり、食について考えるプロジェクトであるエディブルスクールヤード(食べられる校庭)も展開されるようになっている。この取り組みは、今アメリカを中心に世界6000校以上に拡がっていると聞き、一人の食へのメッセージが世界に拡がる力強さを感じた。


「本物」の旅の提供に向けて、地域や世界を学び続ける
日本には各地に受け継がれてきた、世界に誇る食文化がある。食に関わる事業者、観光関係者は、自分たちの地域に内在するガストロノミー資源を掘り起こすとともに、世界に目を向け、伝える力、発信する力をもつことが求められていくだろう。地域の事業者が、環境に対しての考え、未来へのメッセージを伝えることも大切だ。
最後に、UN Tourismが「ガストロノミーツーリズムの発展ガイドライン」で示している「思い出に残る体験の提供」要件を紹介する。
<思い出に残る観光体験の要件>
・独自性のある環境の整備やシナリオを策定する
・楽しみ、くつろぎ、あるいは非日常の体験を提供する
・アクセスを限定する
・テーマ別にする
・観光関連事業者との交流の機会を提供する
・地域の産品を活用した土産物等を含める
・学びの機会を増やす
・感情を解き放つ
本物を求める旅行者が、日本各地域を訪れ、五感すべてを使って思い出になる経験をする。そうして日本を好きになったら、再び日本の各地域を訪れてもらいたい。そのために私たちは、私たちの地域について、そして世界の動きについて学び続ける必要があるだろう。
(写真は筆者撮影)
執筆したコラム記事より転載
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ガストロノミーツーリズム研究所 Gastronomy Tourism Institute
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