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日本から Google, 百度のような国産検索エンジンが生まれなかったわけと今後の戦い方

【自己紹介】

私は MARSFLAG(マーズフラッグ)というサーチエンジン専業企業の創業者でCEOだ。現在当社はSONY, Panasonic, Canon, TOYOTA, HONDA, NISSAN, YAMAHA, HITACHI, 三菱電機, MUFG, 内閣府 等日本の大手グローバル企業や中央官庁の「サイト内検索」市場をほぼ一手に担っている。彼らの日本サイトのみならず、多い場合には世界64ヶ国、18言語などグローバルなサーチも一手に引き受けており、日本のグローバル製造業の海外マーケティングと歩みを共にしている。昔は Googleのような一般向けのサーチエンジンで勝負したこともあった。「日本で唯一、グーグルに勝った男」“元祖ギーク”起業家が選んだ、オンリーワンの戦い方も参考にされたい。

さて表題の件(日本から Google, 百度のような国産検索エンジンが生まれなかったわけ)については、これまで主にテクニカルライター諸氏が「国産検索エンジンの空白」について独自の記事を掲載していて気鋭を放っているが、現場の当事者からの発言が見当たらないので、私が書いておく事とする。

確かに、当時GDP世界第1位の米国からは Google , 当時2位の日本からは無し、当時3位の中国からは 百度(バイドゥ)が存在感を示している。韓国や欧州にも存在するが、例えば日本の Yahoo! 全文検索エンジンはGoogleなのである。何故そうなったかは、日本でのサーチエンジンの歴史を調べて頂くこととして、以下に現場の私なりの見解を示す。

【テクノロジー系のメガベンチャーが産まれない日本】

そもそも、サーチエンジン如何を論ずる以前にテクノロジー系のメガベンチャーが日本からは産まにくい。LINEは辛うじてそうだが、あれは私に言わせればキセキだ。(ライブドアの破綻で宙に浮いた一流のチームに韓国第一位のサーチエンジン企業、NAVERがカネを出した)

【資金が無い】

日本のベンチャー投資は世界でも恵まれたほうではあるが、それでも本件に関連して2つの問題がある。ひとつは米中に対しては絶対的に資金量が足りない。もう一つは、投資規模以前に「特許やビジネスモデル、高額な人件費に大金を出せるキャピタリストが居ない」ことだ。全文検索エンジンは、投資先行型である。日本には100億円から1000億円の初期ラウンド先行投資を行えるベンチャーキャピタルが存在しない。決断できるキャピタリストも私が知る限り居ない。私は「出したいが前例が無いから無理」と言われたことさえある。当社MARSFLAGとGoogleは 1998年創業だが、(私の実力不足はあろうが)当時、サーチエンジンへの理解は金融機関からも投資家からも無く、私も長らく投資を得られず時給200円みたいな働き方を6年間仲間として身を詰めていた。同様に資金難の起業家も数名知っていた。結局私は初期の資金を得て(それでも10億しかない!)多くの他社は根本的に何かを出来る状況には無かったように思う。これは現実だし、今でもそれほど大きく変わっていない。もっとリスクマネーを用意しないとベンチャーは育たない。特にサーチエンジンは初期に金食い虫だ。

【特許の壁】

Google の PageRank 特許

Googleが ロボット型全文検索エンジンの精度を圧倒的に改善する PageRank という特許を取得していて、これに私は参っていた。この特許を回避した特許をカウンターで取得して対抗した。私たちMARSFLAGは URLRank という、ユーザの利用動向からサイトの人気度を測定する技術を持つが、これの為に「オンラインお気に入りサービス MARKAGENT(後にFACE)というサービスを無料で展開し、このお気に入りのビッグデータを利用してサーチエンジンの精度を高めていた。他の国産アルゴリズムも相当苦労していたのを知っている。PageRankそのものと同様の質を担保することは技術的には可能だと思われたが、何せ PageRankは、クローリングの最中に同時に PageRankのデータも集まってしまうので「極めて速度とコスト性能が高い」のだ。当時のサーバと回線速度を考えるとこの差は圧倒的だったと言わざるを得ない。ちなみにこの PageRank 特許はそろそろ切れる。

特許に対する投資家の無理解

日本の投資家は特許に対する投資にそこまで理解が無く、資金が出ないか、出た後でも資金使途をモノヅクリとエイギョーに回すように遠からず圧力が掛かるケースが多かった。当社は元々特許の塊で起業したのもあって、そこは他社よりはマシだったが、それでも厳しかった。

国際特許出願時に欧米で戦える弁理士が居ない

国際特許(PCT)を形式的に出すでは無く、特に米国で特許を押さえるために「闘って特許をもぎ取る」弁理士が殆ど居なかった。特にITベンチャーの声を聴いてくれる人材は少ない。この点、私は友人が偶然日本最大級の国際特許事務所を経営していたので助かったが、この偶然が無ければ相当苦労しただろうと思う。いうまでもなくサーチエンジンは「特許戦争」なのだ。

※ Googleが欲しかった特許 (MARS サジェスト Intelli-Adviser)
余談だが、Googleが最終的に日本でのサイト内検索市場から撤退した理由は私が保有する特許に少なからず起因する(と考えている)さてこの特許はキーワードサジェスト特許の一種だが、Googleがユーザの「過去利用動向」からキーワードをアドバイスするのに対し、本特許は「そのサイト内で使われている単語や文章、言い回し、製品名を分析してサジェストを出す」「ひらがな、カタカナをローマ字で入力し始めてもサジェストを出す」という特許群で、これが Googleのサイト内検索には付けられなかった。この技術が使えないのは日本におけるサイト内検索では致命的で、手厚い日本語のサジェストが出来ないだけで無く、新製品の製品名サジェストなどは当社は出せるが、Googleは「過去に誰も検索していないのでサジェストできない」という状況になってしまったりした。

【使えるデータとユーザフィードバックの量が少ない】

米中は日本と比較すると人口が多い。これはまあ仕方が無いが、両国ともサーチエンジンのデータ利用に関しては国策として極めて柔軟な姿勢をとってきた。正直これは羨ましかった。

言うまでも無く、サーチエンジンのAIエンジニアにとって、安心して使える大量のデータと利用データはサーチエンジンの質を高めるために極めて重要なデータで大前提なのである。

【人材が居ない】

私が10億円を溶かし、それでもGoogleに再度挑もうと思った時点で、エンジニアやマーケティング領域に大量に高度な人材が必要だと痛感したが、結局勝つために日本人の採用を諦めて外国人部隊を集める経営判断を行った。これは回り道に思えたが後に奏功した。しかしこれは偶然にも当社の経営陣が海外で育ったり海外の大学を出ていたりという文化と言語の壁が少なかったから可能であっただけで、日本の起業家にとって中間疾走時に日本人の高度人材が獲得できるに越したことは無い。

私たちも当時優秀な理系大学院生を獲得しにくかった事は致命的だった。当社の創業メンバーのツテで10人程度は集められたが、それでも学校から積極的に学生を紹介して貰えたり、共同研究が出来るような状況にならなかった。

本件には様々な理由があろうが、私は理系エリートが自由より安定を選ぶ日本と自由を何よりも大事にする米国と、この差があるように感じる。スタンフォードやMITの学生は、第一に起業、第二にベンチャーへの就職しノウハウと資金を貯めて起業、という優先順位だそうだ。日本の真面目で安定が美徳という社会ではなかなか高度人材がITベンチャーには集まりにくい。勿論昔よりは居る。しかしそもそも米中とは基礎的な人口が違うのだから、この違いは埋めがたい。

当社は外国人も多く採用している。AIの研究に関してはエチオピアで研究開発も行っている。Googleもインド人、中国人エンジニアが多いわけだから何も国産検索エンジンを日本人だけで創る必要はないだろう。しかし日本の雇用制度や労働法で外国人が外国に居住したまま日本企業の研究にコミットメントするにはハードルが多すぎる。

【成功体験の罠】

我が国がソフトウェアが主要な産業だと気がつけなかった点も背景として大きい。日本におけるソフトウェアとは、現在でも主流の考え方は「ハードウェアの付属品」なのである。悲しいかな。

【国策の方向性】

日の丸検索エンジンとも言われた「情報大公開プロジェクト」がある。250億円が投じられたが、その殆ど全てが大企業に行き渡り、成果は芳しくなかったように思う。

ちなみに当時私は総務省で国産検索エンジンについての講義を求められ、講師として数回のプロジェクトに参画した。会議には経産省の若手も数名居たし、実際この「情報大公開プロジェクト」のリーダーとして抜擢された方も着席していた。しかし、我々を含め「全文検索エンジン」を創っていた連中に資金が流れなかったのは「日本に何故検索エンジンが無いのか」という問いに対する一つの答えでもある。

「情報大公開プロジェクト」の「検索エンジン」とは、家電、RFIDやヘルスケア製品関連等日本の強い閉じた世界に資金が投入されており「実際経産省の担当者も「今からGooleと同じことをやるつもりはない」と発言しており、これが経済界と経産省の答えだろう。最初は「国産のGoogle」みたいなことを仰っていた気もするが・・・。問題は国策として本気で「全文検索エンジン」を育てる気が無いことにある。

※ サーチエンジン覇権の今後
グーグル支配の今は、「ネットの石器時代」とその昔の私がイキっているが(体重も今の倍くらいある写真だが)、確かに最近の Google 検索結果は所謂メガサイトが上位を占めるようになった。Twitter, Facebook, Wikipedia, 食べログ, 価格COM, 企業公式, ECサイト等だ。個人サイトや中小のブログサイトなどはその存在感を消し、超大手メガサイトに目的別のコンテンツが集中したのだ。こうなると人々は目的によってサーチを Twitterや 価格.COM 等で直接行うことになり、Googleで行う検索は「メガサイトを見つける為」のものが増大していくということでもある。
ネットメディアの収益源は基本的に広告収入であり、この広告費の総量はもうあまり変化しない。即ち Google とメガサイトは「富の奪い合い」が起こるわけで、この静かなる闘争の中でメガサイトは又改めて Google がサイト内検索を彼らに提供することにしたとしても、そう簡単な話では無いだろう。つまり、何れはオウンドメディア検索、即ちサイト内検索がより重要視されるようになると予想しており、当社はここに賭けているし、どんどん強気でここの特許をとり続けていく。

【結論】

大前提として「日本から国産検索エンジンが産まれない」のではなく「そもそも日本からは世界で戦えるテクノロジー系のメガベンチャーが産まれない、だから当然全文検索エンジンも無い」そして、上記のような諸問題をクリアしないと世界で戦えるレベルの国産全文検索エンジンは育たない。維持も出来ない。

言うまでも無いが、イマドキ国家を滅ぼすのに核兵器は要らない。国土も汚染されるし。もしある国で何かの間違いでうっかりGoogleが止まったら? 想像してみて欲しい。自衛隊の予算も重要だろうが、国産検索エンジンが生き残っていていつでも国家のために使える準備が整っていることはそれなりに重要だと思う。心底そう思うし、私や私の会社では無くても誰でも良い。

ポータルサービスが無くとも国産検索エンジンさえあれば、有事に転用するのにそう多くの時間は掛からないのだ。例えば当社の顧客であるSONYやTOYOTAの全世界のWEBページは、億単位のページ数なのである。これは一昔前の「インターネット全体」と同じような量である。

【今後】

最後に私なりの対応案を練ってみた。

・特許を武器にすべく税制優遇や国際出願し欧米で戦える弁理士を増やす(短期的には弁護士を特許弁理士に転用)
・サーチエンジンの利用データ、クロールデータの利用に関して柔軟な法整備を行う
サーチエンジンへの投資を国が主導する 1000億円規模のITサーチエンジンベンチャーファンドを設立する
・トップスクールとの産学連携を国家が後押しする


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