"魔性"(2012.4.24の日記)
遠州屋の一人娘である梅野、母親と二人で上野の花見見物に出かけたのです。
そこでこの世とは思えないほどの絶世の美少年と遭遇したのです。
その少年は寺小姓で梅野はすっかり心を奪われ、その姿が見えなくなるまでずっと見とれていたのでした。
それから梅野の変調が始まったのでした。
梅野はその少年の姿を心から消すことが出来ず、幾度となく思い浮かべてはため息ばかりついて何も術なく夢の中も現実も境なくただただ夢想の苦しみ限りなく。
やがて床に臥せるようになった梅野を見てただならぬものを感じた家人はその少年の行方を探索、しかし手がかり何一つ見つからなかったのでした。
梅野は両親に、その少年が身につけていた着物と同じ柄の振袖を作ってほしいと懇願、梅野はそれを手に入れると着物を少年だと思い込み、ほどなく死んでしまったのです。
両親はその振袖を本妙寺に供養のため納めることとなりました。
しかし寺の者はその大層な振袖を供養することなくこともあろうか質屋に売ってしまったのです。
それから一年後、ちょうど梅野が亡くなった同じ日に振袖が本妙寺に供養のために運ばれてきたのでした。
紛れもなく振袖は梅野が身につけていたのと同じもので、これの持ち主のやはり梅野と同じ年の娘は原因不明の病で亡くなったのです。
しかしそれでも寺はまたしても質屋に振袖を売却をしてしまったのでした。
それからさらに一年後、梅野、次に亡くなった娘と同じ日、振袖は寺に運び込まれたのです。案の定三人目にあたる持ち主の娘も原因不明の病で亡くなったのです。
尋常ならぬものを感じた寺はそこで初めて振袖の供養をすることに相成ったのです。
梅野他の三家族も同席、その頃には呪いの振袖と江戸中に広まり多数の見物人が押しかけ見守る中、火にくべられる振袖、読経が響いています寺の境内。
するとそこに突風、火のついた振袖はまるで龍のように舞い上がり、本堂に燃え移り、周りの屋敷家々に拡がっていったのです。
明暦の大火、俗にいう振袖火事と呼ばれる事件のあらましでございます。