「しあわせセールス」GARUGORAスポーツ物語#30(2023/3/30)
「こんなチャンスないですよ?」
「そんなこといっても、ねぇ。」
「奥さん、今ならお安くしときますよ。」
「いまどきこんな玄関まで来るセールスマン、はやらないですよ。帰ってください」
「そんなこと言わずに。今なら12万円の所を5万円に。大安売りですよ!!??」
「7万円も安く????……でもいらないわ。どうせ維持費もかかるんでしょ?」
「安心してください。こちら、維持費も込みで5万円です。」
「うそ!維持費も込みで?」
「奥さん、何回も言いますけどね、こんなチャンス無いですよ。」
「、、、、、、。ど、どうしようかしら。」
「奥さん、子どもさんもいらっしゃるでしょ。大切ですよ」
「…………分かったわ。ひとつもらうわ。」
「お買い上げ、ありがとうございます!毒ピアノ!」
「旦那、いいでしょ」
「なんども言ってるだろ。うちにそんなものは必要ない」
「旦那、そこをなんとか」
「そもそもこんな玄関までズカズカと上がり込んで来るやつぁ信用ならん。とっとと帰れ。」
「ま、ま、いいじゃないですか。」
「なにがいいんだ。そろそろ警察を呼ぶぞ、よくわからない野郎め。どっかへ行け。」
「こりゃ嫌われたもんだ。どれ、ひとつ弾いてみましょうか。」
「なに?」
「ひとつ、『エリーゼのために』でも弾いてみましょうかって言ってんです。」
「な、なんだと?」
「見てください。私の後ろの車を。積んどんですよ。」
「弾くだなんて。大口をたたきおって」
スタスタ……
「な、ま、待て。弾くなんて、まさかそんなことできまい。」
ぽロン、、、
「!!!!????」
ぽロロロロロロロロん♪
「弾いてる!?こいつ、なんてやつだ。」
ぽロ
ジャーーーーーーーん
「痛えーーー!!!!いてぇ!!!!!
アー!!!!!いたい!いたい!助けてくれ!!!!キィャア!!!!!!!あアアアアアアアアア!!!!!!」
「本物だ……。」
「たかし、元気か?」
「うん、元気だよ」
「おっちゃんはあいかわらずだよ」
「そっか」
「甥っ子はたかししかいないからさ、こうしてたまに電話で話せると楽しいよ。」
「僕も、おじさんと話せてたのしいよ。」
「ありがとうな。」
「……おじさん、あれは売れてるの?」
「あれって」
「ほら、おじさんがセールスで売ってるやつ」
「ああ、あれな。まあ、ぼちぼちだよ」
「生活は大丈夫?」
「ははは、中学生に心配されてるんじゃ俺もまだまだだな。大丈夫だよ。心配かけてすまないね。」
「おじさんこの前会った時は生活が苦しいって言ってたからさ。大丈夫ならいいんだけど」
「ありがとな。お前は?彼女とかできたの?」
「まだ僕はそんなのできないよ」
「彼女はいいぞ。いつでも悩みを打ち明けられるからな。」
「僕は一人でも生きていけるんだ。」
「ははは。そうか。」
一人の辛さを俺は知っている。たかしにはまだ分からないだろう。一人暮らしをして、自分でお金を稼いで、自分の生活をまかなう。そこに初めて本当の一人の辛さが生まれるのだ。たかしは若い。これから経験していけばいいのだ。強くなれ。どんどん成長してほしい。子供のいない俺にとって、たかしは息子のような存在だ。
ジャーン
ああああ!!!
𝓯𝓲𝓷
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