『狼の口 wolfsmund 』フランス語版を再翻訳2 無敵代官編
前回は代官様が散々なシーンの訳をいたしましたので、今回は代官様がクッソカッコいい1巻3話から再翻訳を載せたいと思います。
ヴァルター親子がアルプス越えをしてイタリアに抜けようとしたのを代官様に看破され止められるシーンから。 原文→仏語訳→拙訳の順です。
ちょっと待って頂けませんか?
Auriez-vous l’obligeance de vous arrêter?
止まっていただけませんか?
どうして関所を通ってくださらないのです?法を守るのが人の道でしょう。それをわざわざこんな遠回りまでして
Vous vous donnez bien du mal pour franchir la frontière...alors qu’il est tellement plus simple de passer par ma forteresse! À moins que vous ayez des choses à vous reprocher?
国境を越えるのに随分と苦労なさっていますね…我々の砦を通る方が遥かに簡単だというのに!我々があなた方を咎めることがない限りはですがね?
さあ、一緒に関所に参りましょう。さもないとここでお仕置きすることになりますよ?
Bon...je vous laisse choix...soit vous rentrez avec nous...soit je vous fais exécuter sur-le-champ!
よろしい…選択肢を与えましょう。我々とともに戻るか…それとも私がすぐに仕置きをするか!
訳としてはおそらくこんな感じでしょうか。 ちょっと待っていただけませんか?のAuriez-vous l’obligeance de vous arrêter?ですが、Ayez(avoir) l’obligeance de...は「どうか…してください」というお願いの丁寧表現。これを更に条件法(語調緩和の役割)で疑問文でお願いしてるので、ものすごーくへりくだった言い方をしているのです。ちょっとした一言なんですが、代官様の慇懃な口調が再現されててとてもよきです。
どうして関所を通ってくださらないのですか?の部分はかなり改変されていますね。Vous vous donnez bien du mal pour franchir la frontière...alors qu’il est tellement plus simple de passer par ma forteresse!で、Vous vous donnez...のくだりはse donner du mal pour + inf.…するのに苦心惨憺(さんたん)する.(ロベール仏和)ということで、国境を越えたいなら関所を通った方が遥かに楽なのに随分苦労なさってますね?ときて、À moins que vous ayez des choses à vous reprocher?で我々があなた方を咎めることがなければの話しですけどね、と留保をつけてる。要は「国境を越えたいなら関所を通ればいい話なのに、苦労してこんな道通ってるなんて何がやましいことがあるんでしょ?」と嫌味を言ってるのですね。「法を守るのが人の道でしょう」は個人的にお気に入りの台詞だったのでカットされたのは残念ですが、これはこれで代官様らしくていいと思います。
さあ、一緒に関所に参りましょうのくだりはだいぶおしゃんてぃーになっています。原文は普通に関所に来ないとここで仕置きだよ、と言っていますが仏語版ではje vous laisse choixと「選択肢を与えましょう」とニュアンスを追加していますね。一緒に関所に来るかここですぐ仕置きを受けるか選ばせてあげるよ、という具合。ノーブルかつ代官様のキャラに合った良い台詞だと思いました。
これは3話にはない台詞ですが、代官様のカッコいい台詞で外せないのが決め台詞の「仕置き執行」ですね。 「仕置き執行」仏語版の訳は"Que justice soit faite" queの独立節(命令)で「裁きをなしなさい」というところでしょうか。justiceは英語と同じく正義、裁きといった意味で、soit faite はfaire(...をする、...をなす)の受動態。ここでのjusticeはおそらく「裁き」と思われますが、正義、正しさといったニュアンスももちろんあるでしょう。正義を実行しなさい、というニュアンスかな?「仕置き執行」という言葉そのものをそのまま直訳すると"Exécutez une peine"となるのですが、そうせず敢えて"justice","faite"を使ってるのが洒落いて良いですね。またque 独立節のいい例文にもなるので学習者的にも嬉しい。ちなみにこれ、Queを省略して"Justice soit faite"でもおっけーというか自然らしいです。(ネイティブの方談)これもまたシンプルでカッコよくていいですね。声に出して読みたいフランス語です。
今回はこんな感じです。間違い、誤訳などがあればどんどん指摘してやってください。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?