番外編 代官の出自について妄想する
こんにちは。あっっつい日が続く中、狼の口ワイド版の情報を待ちながら日々すごしております。
いつもは狼の口フランス語版の再翻訳をしておりますが、今回は番外編で本編の考察にもならぬ妄想をつらつら書いていこうと思います。
狼の口のお代官様は読者にも人気のキャラである一方、明らかになっている情報が少なく妄想しがいのあるキャラクターでもあります。代官について気になるところはたくさんありますが、今回は代官の出自について妄想しようと思います。
代官は2巻で自分について「若い頃苦労したせいか 私は人の顔色を読むのが得意でしてね」と語っています。出自に関する貴重な情報ですが、若い頃の苦労ってなんだろうと思いますよね。そして代官の出自について、1巻1話で関所の通行人が「俺が聞いた話じゃ狼が人間の女に産ませた子だと…」とも言われています。今回はこの「狼が人間の女に産ませた子」という部分についてフィーチャーします。
この「狼」というの、単なる動物の狼ではなくある特定の人種を指しているのではないかと考えました。というのが、中世初期ゲルマン法社会でいう「人間狼(Werwolf)」です。
中世初期ゲルマン法社会において、犯罪を行なった者は人民全体から報復を受ける「平和喪失」という状態に置かれました。平和喪失者になるとコミュニティから追放され、誰でも彼を殺していい状態になり森を浮浪する「人間狼」と呼ばれます。以下引用
彼のいっさいの法的関係は解消され、彼の妻は寡婦となり、彼の子は孤児となり、彼の財産は無主物となる。彼と人間的つながりをもつことは一切許されなかった。何びともみずから平和を喪失することなしには、彼をその家にかくまうことができず(犯人隠匿罪!)、したがって彼は、森の浮浪者・人間狼になり、gerit caput lupinum[狼の頭をもつ]ことになる。このように、平和喪失の第一の効果は放逐・追放である(Lieberich,1969 世良訳1971 p59)
仮にこのような状態の人間を指して「狼」と言っていたとして、代官様罪人の子供説を今回提唱しようと思います。まあ実際10世紀ごろから公権力による権力回収が進んでおりこのような私刑原理はだんだん制限されてくるのですが(狼の口の舞台となる時代ならとりわけ)、昔の名残の比喩表現みたいな感じで勘弁してください。(あくまで妄想なので…)
しかし、この時代に罪人の子として生まれたとなると相当苦労するのは間違いなく、あらゆる面で差別もされるでしょう。他人の嘘がわかるようになるくらいには、他人の顔色を常に伺いながら生きることにもなるでしょう。そういうのを含めての「若い頃の苦労」であれば代官の言にも納得がいきますね。もしそうなら彼がどうやって代官にまで昇り詰めることができたのかなど、新たな妄想の余地が生まれるところでもあります。
もちろんこれ以外でもいくらでも解釈の余地はあるので、出自に関してもそれ以外に関しても色々妄想していきたい次第。
代官は謎が多い分解釈の余地が大いにあるキャラクターなので、これからも俄然妄想していきたいですね。
こんな益体もない記事を読んでいただきありがとうございます。
ではまた次回!
参考文献
ミッタイス=リーベリッヒ著、世良晃志郎訳『ドイツ法制史概説 改訂版』創文社、1971年
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