『狼の口 wolfsmund』フランス語版を再翻訳7 外道代官編
こんにちは。いよいよ今年の6月も終わりということで、時間の経過の早さを見にしみて感じる日々です。気候もじめじめして嫌な感じですが、どうにかやっていこうと思います。
突然ですが、代官て酷いやつですよね。作中次々現れるキャラクターに次々酷いことをして、登場シーンほとんど酷いことしてばっかりじゃね?とすら思いますよね。(褒めてます)
その中でもトップクラスに酷いシーン、3巻のテル親子処刑の場面から今回いこうと思います。
原文→仏語訳→拙訳 の順です。
誰もでてはきません 馬鹿にしないでお代官様 そんな見え透いた話に乗るほど夫も息子も愚かじゃない
Comme si quelqu’un allait se manifester! Qu’est-ce que vous croyez? Ni mon fils ni mon mari ne sont assez stupides…pour tomber dans votre traquenard !
冗談じゃありません、誰かが出てくるなんて!出てくるとあなたは思ってるのですか?息子も夫もあなたの策にはまるほどの馬鹿じゃありません
観衆の前にテル親子を引きずり出し密行者をあぶり出そうとする代官に対するヘートヴィヒの言葉。comme si 直接法半過去で「まるで〜かのように」というニュアンスの否定なので、まるで誰か出てくるみたいな口ぶりで言ってるけど誰も出てこないから!という感じの挑発入ってる感じですね。ちょっと煽り成分強め。
刑を執行する前におふた方にひとつご相談が 大罪人の身内とはいえ直接罪に関わりのない者を皆殺しにするのはあまりにも酷 常々そう思っておりました ついてはどちらかおひとりお助けしたいのですが
Avant de passer aux réjouissances…j’ai une proposition à vous faire! Devoir punir deux personnes…impliquées malgré elles dans cette rébellion…est une chose qui me fend le cœur! J’ai donc décidé…de laisser la vie sauve…à l’un d’entre vous!
祝祭に移る前にあなた達にすることで提案があります!反乱軍の身内といえども、巻き込まれた2人の人間を処刑しなければならない…そんなのは胸が張り裂けるようなことです!そこで私は…あなた達に2人のうちどちらかの命を救うことに決めました!
ここで白々しいことを言い出す代官。刑のことを"réjouissances"と言ってますが、réjouissanceの複数形なので「祝祭、お祭り騒ぎ」といった意味になります。言いよったこいつという感じですね。巻き込まれただけの人間を2人も殺すなんて胸が張り裂けそうなので1人助けると言う代官ですが、白々しさがすごい。
そして、互いを救おうと庇い合いを始める親子を見てこう言い出す代官。
そうおっしゃるだろうとは思ってました しかしながら 受刑者に決定を委ねては体裁がよろしくない
J’étais sûr que vous ne seriez pas d’accord! De toute façon…depuis quand les prisonniers décident-ils de leur sort? C’est nouveau, ça!
あなたがたがはいと言わないことはわかっていました!いずれにせよ…いつから囚人が自分たちの運命を決めることになってるのです?これはまた驚いた!
煽り成分マシマシになっている代官。互いに「母を/息子を助けて」と主張してる2人に対して、いやいや何自分らで決めようとしてるの?自分ら囚人だよ?という感じで完全に馬鹿にしている模様。原作では鎧通しを倒して決める前フリのコマでしたが、フランス版は煽りに全振りしてる印象です。
ここはひとつ 神の御心に委ねることにしましょう
J’ai une idée…laissons à dieu le soin de choisir, voulez-vous ?
考えがあります…神に御加護の選択を委ねてはいかがでしょう?
ここで鎧通しが登場。
倒れた鎧通しが示す方を処刑することと致します さあ 祈りなさい
De l’inclinaison de ce poignard…dépendra le jugement!
Faites vos prières !
裁きによってこの短刀は傾き先を示すでしょう!祈りなさい!
代官様の悪役顔が光るコマ。祈りなさいはそのままですね。
ここで、鎧通しの柄がヘートヴィヒの方に倒れます。喜ぶヘートヴィヒと恐慌するヴィルヘルムですが、代官は処刑されるのは息子ヴィルヘルムだと主張します。
さあ お話はもうそれくらいにして 息子さんの処刑を執り行いましょう
C’est bon… Vous vous êtes fait vos adieux ? Parfait ! À présent, procédons à l’exécution de votre fils !
さあ…さよならはすませましたか?よろしい!今から息子さんの処刑を執り行いましょう!
後半はほぼそのままですね。前半の「さよならはすませた?」の部分がなんか好きです。
なっ 何勘違いなさってるの?処刑は私と決まったでしょう!?
Mais…vous voyez bien…que le poignard est incliné de mon côté !
でも…よく見てください 短刀は私の方に傾いているでしょう!
パッと見ると、鎧通しは明らかにヘートヴィヒの方に倒れています。しかし…
おや?勘違いなさってるのはあなたです ヘートヴィヒさん ご覧なさい 鎧通しの切先が息子さんの方を向いています
Hmm? Je suis navré, mais…c’est vous qui êtes sauvée, madame! Regardez! La pointe de l’arme…est clairement orientée du côté de votre fils !
おや?申し訳ありませんが助かったのはあなたの方ですよ、奥さん!ごらんなさい!武器の先端は明らかに息子さんの方を向いているでしょう!
鎧通しは刺す道具 肝心なのは切先 誰も柄頭が向いた方とは言っていません
Vous conviendrez que dans un poignard… c’est surtout l’extrémité pointue qui est utile, non? Je n’ai pas le souvenir d’avoir mentionné le manche !
認めなさい、短刀においては何にもまして尖った先端が有用でしょう、ちがいますか?柄に言及した記憶はございませんよ
最初からただヘートヴィヒとヴィルヘルムの絆を利用して遊びたいだけだった代官。外道なんてもんじゃない。フランス語版、ここも全体的に煽り成分強めです。
戯れですか 今のは…ただ私達を弄ぶためだけの
Ça vous amuse, hein…de jouer avec nos nerfs !? Vous n’êtes… qu’une pourriture !
ねえ、楽しんだのですか…私達の感情で!?腐った人間としか言いようがない!
pourritureは俗語で「腐ったやつ、下劣なやつ」になりますが、マジでそれとしか形容できないぞ代官!
いやはや 泣いて懇願したり怒って食ってかかったり なかなか楽しい反応です ヘートヴィヒさん お許しください 反抗的な言い方をされるといろいろといたずらをしたくなる性分でして
Mon dieu ! Vous passez de la joie à la haine en une fraction de seconde ! Vous feriez une excellente comédienne…chère madame ! Cela dit..quand on m’insulte…je peux moi aussi me montrer très méchant…
とんでもない!あっという間に喜んだり憎んだりするのですね。あなたはすばらしい女優になれたでしょうねえ奥さん!それはさておき、侮辱されると私もとても意地悪をしたくなることがあるんですよ
ここも色々ひどい。(いい意味で) 原作のほうはヘートヴィヒの懇願したり怒ったりの感情について「なかなか楽しい反応です」と言ってますが、フランス語版はそれを指して「女優になれたでしょうね(feriezはfaire[〜する]の条件法。より正確に訳すなら「あなたが女優であったならなあ」みたいな感じになると思われます)と揶揄しておる…人を馬鹿にするにも程があるぞ代官!
では 仕置き執行
Allez ! Que justice soit faite !
そしてここで仕置き執行。いやあ酷い。酷すぎます。しかしまあ代官はこうでないとという回でもありますね。フランス語版は全体的に双方ともに煽り成分マシマシになってたのが面白かったです。
今回はここまでです。
誤訳、間違いなどありましたら教えていただけると助かります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。ではまた次回!