『狼の口 wolfsmund』フランス語版を再翻訳5 激おこ代官編
こんにちは。
本日発売の青騎士から久慈先生の新連載『鋼鐵の薔薇』がスタートしましたね!今回は薔薇戦争が題材とのことで今後が非常に楽しみな作品であります。
作中で代官は部下相手にも常に敬語を使い、ほぼ全編に渡ってそれが崩れることはなかったのがとても印象的です。ですが、フランス語版では結構敬語が崩れてる箇所があるので今回はそこを中心に見ていこうと思います。5巻1話目の農民軍が遺体を積み上げて門を渡ろうとしたシーンから。
原文→仏語訳→拙訳の順です。
何をしようとしてるんです!?連中は
Qu’est-ce qu’ils manigancent…ces rats!?
何を企んでるんですか…あの鼠どもは!?
ここはほぼ原文通り。代官の農民軍達への「鼠さん」呼びが生かされています。
冗談じゃありません 弩 暴徒が飛び込むのを止めなさい
Mais je n’ai pas dit mon dernier mot…
Arbalétriers! Empêchez les de franchir cette herse!
ですがまだ諦めることはありません… 弩!奴らがこの格子戸を超えてくるのを止めなさい!
ne pas avoir dit son dernier motで「持てる力を出し切っていない、諦めてはいない」で、まだ諦めたわけではない、まだ間に合うから止めなさいと言っていると思われます。ここまではまだ敬語で指示しています。問題は次。
何をのんびり見てるんです!?さっさと射殺しなさい
Qu’est-ce que tu attends, toi!? Tire, bon sang! Tue-les!
何をぐずぐずしているんだお前は!?射て、まったく!奴らを殺せ!
誰やお前はというレベルでキャラが変わっている代官。どうしたの?
フランス語には二人称が二種類あり、親しい相手や目下の者へ使ういわゆるタメ口にあたるtu、目上の相手へ使う敬語のvousがあります。これまで代官は目下の部下相手にも一貫して敬称vousを使っていましたが、ここではtuの非敬語です。しかもbon sangは「ちくしょう!」みたいな吐き捨てるニュアンスの言葉で、これまた代官には似つかわしくない言葉です。よほど頭に血が上って焦っている状況であるというのを表しているのでしょうか。
ちなみにフランス代官、実はこれ以前にも敬語が崩れた瞬間があります。
3巻1話目のアルベルトとバルバラが敗れた後侵入者の報せを受けるシーンから。
何故それをすぐに報せて下さらなかったのです?
Puis-je savoir…pour quelle raison tu ne m’en as pas informé plus tôt?
なぜお前はもっと早くそれを報せなかったのか教えてくれるか?
ああ、キレてるなあ…という感じ。原作でもコマの雰囲気やこの後の行動から「代官が怒っている」というのは伝わりますが、フランス語版ではそれをよりわかりやすく伝えようとしてこういう訳になったのかなと思います。全体的にオーバーな表現になっている感じですね。こういうとこは比較して面白いポイントだなと思います。
ここまで読んでくださりありがとうごさいました。
誤訳、間違い等ありましたらコメント等で教えていただけたら幸いです。
それではまた次回!