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『狼の口 wolfsmund』フランス語版を再翻訳 串代官編

当方久慈光久先生の『狼の口』のファンです。もとい信者です。 

『狼の口』は中世オーストリアハプスブルク家支配下のスイスを舞台にした独立物語で、米国版、フランス版、イタリア版と様々な言語で訳され世界中で楽しまれています。(好きすぎて全版買いました)その中でもフランス語版の訳は独特で、原作の台詞とはまた違った意訳の要素がかなり含まれております。ところどころ面白いので、好きなシーンを中心に再翻訳していこうと思います。なお、私もフランス語は学習中の未熟者ゆえ間違いなどもあるかと思いますので、おかしい所などどんどん突っ込んでいただけると嬉しいです。また、訳の部分について「この方が適切かなあ」と判断した箇所については適宜修正しますので、よろしくお願い申し上げます。

まずは作中屈指のインパクトを誇る6巻の代官様処刑シーンから。

原文→仏語→拙訳の順です。

ざけんな 呆れた野郎だ
Silence, sale fumier! L’ordure...
黙れ、タチの悪いクソ野郎が!ゲス野郎め…

こいつよくもまあ いけしゃあしゃあと…
手当なんかするかバカ あとはもう殺すだけだ
J’ai l’impression... que tu n’as pas bien saisi la situation... Ben voyons!
Pourquoi on ferait une chose pareille...alors qu’on va bientôt te torturer à mort?
感心するぜ…お前にそんな機会なんてないんだよ…なあおい!手当なんてしたところで俺らはお前をすぐに拷問死させるつもりなんだがな?

てめえのベッドだ 急ごしらえだがな
Tu voulais une nouvelle couche, non?
La voilà!
お前新しい寝床欲しがってたよな?ほらやるよ!

着たまま寝るか?脱がせてやろうか
Ce n’est pas une tenue pour dormir, ce que tu portes... on va arranger ça!
寝るには準備が足りないな、服着たままだ…段取りしてやるよ!

これより関所代官ヴォルフラムの処刑を執り行う
L’amman Wolfram ne mérite aucune forme de procès! Qu’il soit immédiatement puni!
代官ヴォルフラムには訴訟手続きの余地は一切ない!即時に彼を罰する!

次は少し 違った刺激を加えてやろう
Pourquoi ne pas...varier un peu les plaisirs?
お楽しみに少し変化をつけてやるってのはどうだ?

ほお こりゃ面白え
Haha... C’est fou comme on s’amuse!
はは…おもしれえ狂いっぷりだ!

さてお代官 まだ何かおっしゃりたいことはありますかな?
Alors l’amman? Qu’est-ce que ça fait de voir les rôles inversés?
さてお代官、逆の立場ってのがわかったか?

おお良いお返事
J’apprécie ta franchise...
いい素直さだ

全体的に相当物騒に改変されております。憎しみや残虐さがマシマシですね。いくつか補足や自分の考え的なものも書いてみます。

まず「脱がせてやろうか」→on va arranger ça!の部分。処刑台に連れて来たヴォルフラムの服をエロ同人誌の如く破くシーンですが、arrangerは準備する、段取りするといった意味の動詞。この時代寝る時には服を着る習慣がなかったようなので、ベッド(処刑台)で寝る段取りをしてやる→服を脱がせる という意味かと思われます。

次に、ウーリのかしらがヴォルフラム処刑宣言をするL’amman Wolfram ne mérite aucune forme de procès!の部分。原文だと「これより関所代官ヴォルフラムの処刑を執り行なう」とシンプルですが、仏語訳では「ヴォルフラムには糾問や裁判の余地は一切ない」と新しいニュアンスが足されております。あくまで個人的な考えなのですが、これは暴動に伴う騒擾状態の心理を端的に表してるのかもなーと思います。古今東西の歴史の中で体制への反乱が起こると、往々にして過激な暴力、虐殺が発生するものです。そんな中で、裁判などの過程をすっ飛ばして体制側の人間が私刑で殺されるのもお馴染みの光景。(特にフランスではフランス革命で大勢の人間が裁判すっ飛ばしで大虐殺されたのは有名な話ですね)個人的にこの処刑は決して正当性のあるものではなく、農民達の圧政への怒りと鬱積が身近な地方官吏に一挙に向けられた結果の私刑であると考えております。この時代の農民に訴訟手続きの概念などあるはずがない状況であえてこの台詞を加えたのは、そういった騒擾時の集団心理を表したものなのかなー…と勝手に思いました。

そして、一番エグいなーと思ったのがPourquoi ne pas...varier un peu les plaisirs?からのHaha... C’est fou comme on s’amuse!の部分。ヴォルフラムが数回コォンされた後、次は違った刺激を与えてやるぜと杭をゴリゴリするシーンです。まずここでは「刺激」がplaisirsと訳されていますが、この単語は喜び、楽しみといった意味のほか性的な悦びという意味も含まれています。まあ考え過ぎかもですが、尻に杭を突っ込んでゴリゴリするシチュエーションに性的な侮蔑の意味も含まれている可能性もあるかと思います。(向こうは性的な侮蔑を含む罵倒語が豊富だしね…)さらに、ゴリゴリされたヴォルフラムが苦悶のあまり台に頭を打ち付けているのを見てC’est fou comme on s’amuse!と言ってますね。原文では「こりゃ面白え」のみですが(これも大概エグい)、仏語訳ではC’est fouが追加されています。fouという単語は「気の狂った」という形容詞で、要は痛みで頭をバタバタ打ち付けてるヴォルフラムを見て「キ○ガイみてえ!おもしれー」と揶揄してるわけですね…この改変が一番エグいなあ。

とりあえずこんな感じです。おかしい部分を発見したり補足の追加などがあれば適宜修正してゆく所存です。

当面は過去ツイッターに掲載した再翻訳まとめ+補足を中心に、ぼちぼち新しい訳や考察なども載せていけたらなと思っています。誤訳や間違いなどありましたらどんどん教えてください!

ここまで読んでくださりありがとうございました。

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