続編「星の王子さま 〜自由の旅〜」
王子は砂漠でパイロットと別れてからも、幾つもの星を訪れながら旅を続けていた。しかし心の中では、いつも薔薇のことが離れない。彼女を愛していたはずなのに、なぜかその愛は、時に重たく、息苦しいものとして感じられることもあった。
「なぜ僕はあの薔薇にこんなにも縛られているんだろう?」
そう思いながらも、自分の星に戻る勇気は持てず、ただ彷徨う日々が続いていた。
ある星に降り立つと、そこには光り輝く湖があった。湖のほとりで出会ったのは、静かに佇む年老いた賢者だった。
賢者は王子に微笑みかけ、問いかけた。
「おや、若者よ。君の瞳には迷いが見える。何を探しているのかね?」
王子は迷わず答えた。「僕は、愛しているはずの薔薇のことを考えるたびに苦しくなるんだ。彼女を守るために星を離れたけど、いつも不安で、彼女がいなければ僕はどうしたらいいのかわからない。これって愛なんだろうか?」
賢者は静かにうなずき、湖を指さした。「この湖を見てごらん。君の心が映るだろう。」
王子が湖を覗き込むと、水面には自分の姿が映っていた。その姿はどこか小さく、怯えたようにも見えた。
「愛とは、縛られるものではなく、自由を与えるものだよ。君が薔薇を守りたいのは愛かもしれない。しかし、守ることで君自身が苦しんでいるなら、それは君が自分の心を縛りつけているからだ。」
王子は少し考えた。「でも、僕がいなければ薔薇はどうなる?枯れてしまうかもしれない。」
賢者は湖に小石を投げ入れた。「愛とは水だ。自由に流れれば大地を潤すが、閉じ込めれば淀む。薔薇が本当に君の愛を必要としているなら、彼女は君の自由を奪わず、君の自由を尊重するはずだ。」
その夜、王子は星に戻る決意をした。「僕は薔薇とちゃんと向き合おう。でも、彼女のためだけじゃなく、自分のために。」
星に帰り着くと、薔薇は元気そうに咲いていた。王子を見つけると少しむくれたような顔をしながらも、どこか嬉しそうだった。
「ずいぶん遅かったのね。どこをほっつき歩いていたのかしら。」
王子は薔薇の前に座り、穏やかに言った。「君のために旅をしていた。でも、それだけじゃなく、自分のためにも。僕は自分の自由が何かを探していたんだ。」
薔薇は少し驚いたように見えたが、言葉にはせず、ただ揺れるだけだった。
王子は続けた。「僕は君を愛している。でも、その愛が僕自身を縛るのは違うと思うんだ。君を守るために僕が自分を犠牲にして苦しむことが、本当に君が望んでいることなのか、考えてみたんだ。」
薔薇は静かに言った。「私はあなたに感謝しているわ。あなたがいなければ私は枯れてしまう。でも、あなたが苦しんでまで私のそばにいるなら、それは私も望まないわ。私が本当に望むのは、あなたが自由で幸せでいることよ。」
王子は涙がこぼれそうになった。「ありがとう。君の言葉が欲しかったんだ。」
それから王子は、薔薇を守るために星に縛られることはなくなった。必要があれば星を離れるが、戻ったときにはいつも薔薇の元気な姿がそこにある。
薔薇もまた、王子が自由に旅を続けることを受け入れた。「愛しているからこそ、お互いに自由でいられるのね」と薔薇は言った。
王子は星のあちこちに花の種を植え始めた。薔薇だけでなく、いろんな花が咲き乱れる星に変わった。それは、彼が愛を「縛るもの」ではなく、「広がるもの」として理解したからだった。
「僕は自由だ。そして、君も自由でいい。」
星の上で薔薇が風に揺れ、静かに微笑んでいるようだった。