呪詛孔千十五モジュール(管理コード285)「殺生石」への接触記録
詳報
2022年3月 経緯報告
呪詛孔千十五モジュール(管理コード285)に異常な内圧を感知。現地モデレーターより緊急連絡。
当該モジュールは前年より「特異監視」([情報開示]20220414により解禁)に該当すると判断。その旨、周辺モデレーター及び各管轄へ封書にて周知。過去のモデレーターが記す詳報を遡り、対策を協議。加えて、現地モデレーターとモジュールオブザーバー(C+)により、当該モジュールへと接触を試みる。
「松尾芭蕉」([情報開示]19330808請求、同日拒否。後に19330915により解禁……特例事項。仔細、戦火により消失)旧調停局局員により以下の報告有り。
「千十五呪詛体は幾年経ても毒気抜けず。なお周囲の生命体を殺生せしめている。故に法術を用い、呪詛体の走査を行うものとする。証に付近へと石帯を設置。今後の監視を引き継ぐ。我が旅を続けるものとする」
「松尾芭蕉」による処置が奏功。モジュールは既知作用による一種の中和を経て、今やその呪詛孔はほぼ封じられているものと確認。現地モデレーターが目視にてモジュールへの亀裂を確認。複数人の承認を経て、新規モノリス設置の手続きをペンディング。
しかしながら、2022年3月の時点でモジュールの再活性化が確認される。月内のフォローを予定するも、非呪詛取扱人によって外殻の破損が目撃されてしまう。
この事態に2022年4月の組織改編にて割り当てられたモデレーターが管理コードの変更を視野に現地入りすることが決定。コンストラクションの成立及び呪詛孔の残滓を確認するものとする。
…………
詳報 結果報告
2022年5月4日
前日に引き続き天候は晴天。駅にて乗用車を調達する。
別件に先ず取りかかる。要望のあった、国造碑とされるモノリス(資料31)への影響を調査。及び保護にあたったモデレーターの記録を収集、報告。
「徳川光圀」(保護事項にはあたらず。理由としては当人の希望により)、この地に碑文を発見し、後に管轄者へと保護を提言。速やかに一帯は整備される。
懸念されたモジュール活性化による共鳴反応は見られず。当時の情緒を残すのみである。アクセスを試みるも孔口が完全に破損しており不能。特筆すべき点は他に無し。
こればかりは当時代のモデレーターへの畏敬を感じざるを得ない。一般的に老朽モジュールへの処置として、周辺施設の整備や記号化が行われるのだが、まさか400年以上前にその重要性を理解していたモデレーターがいたとは驚く限りである。
翌日、改めて呪詛孔千十五モジュール(管理コード285)への調査へと向かう。周辺道路の酷い渋滞で足止めを食う。付近に「那須どうぶつ王国」なる動物展示施設が存在し、そちらに人々が集結している模様。その影響を受けたのもあるが、一部の人々はモジュールの既知作用により、ついでのような格好で立ち寄っている。
駐車場狭し。車による待ち列まで形成される始末。案内人の姿もない。ほぼ無法状態。車のナンバーを見るに全国各地、津々浦々より来訪している模様。
現地到着。軽装にて呪詛孔千十五モジュール(管理コード285)へと向かう。
既知作用良好。地獄を再現した周辺整備も確認。賽の河原の光景、その寂寥とした雰囲気を形成できている。
辺りに硫黄臭立ち込める。火山性ガスは風に乗り流されているが、風の弱い日は立ち入りを制限される模様。[松尾芭蕉]の頃はこのガスにより多くの虫が死に、辺り一面は死骸が積み重なって絨毯のようになっていた。現在はその面影も無し。
到着後、三十分以内にスキャンを開始。モジュール孔は全てが崩壊しており、活性化の傾向は見受けられず。念の為、コンストラクションの手続きを実行。反応無し。
内圧上昇の際に発生した呪詛等による有害反応を認める。しかし、中和の形跡あり。
考察の域を出ないが、モジュールにまつわる既知作用の一環として「玉藻前伝説」が存在することが意味を成したのではないか。
伝説によれば、モジュールは「砕け散り、幾つもに分裂した」との由緒を付帯されている。それが此度の活性化に際しての外的な変化と連動し、既知作用をより強力なものにした可能性がある。しかも、即座に。
もし、モジュールの性質を利用しての環境整備がなされていたとしたら、見事としか言いようがない。1000年先のモジュール孔への処置をやって退けたのである。恐るべき先見の明だ。
結論として当該ケースは直ちに害を成さず、また後の世にも重大な厄災をもたらさないと判断するものである。
本件において、後世まで見据えての呪詛孔モジュールへのアプローチを成したモデレーターへの敬意は尽きる事がない。全てのモデレーターが手本とすべきケースとして、本件を記録して活用すべきと考える。
以上