ハンバーガー・ショップのスケッチ(注文〜支払い編)
はじめに
今年もお世話になりました。おそらく今年最後に書いたことになる台本をあげます。モンティ・パイソンが好きで、気取った気分の時にはコントのことを「スケッチ」と呼んでしまうのですが、ご覧の通りこのタイトルはおそらく気取った時に付けたのでしょう。本文は比較的夢から覚めた状態で書いているはずです。pdfもつけているので、読みやすい方からご覧ください。
最後に感想フォームもつけています。よかったらそちらもぜひご利用ください。なんでもくださった言葉は丁寧に読んでいます。
PDF版
ハンバーガー・ショップのスケッチ(注文〜支払い編)
【登場人物】
水際・・・店員
その他客や店員が何人かが出てきたり出てこなかったりする
****
レジカウンターで接客をする店員の水際。
目の前で今まさに対応中の客の他、ひとりが後ろに並んでいる。
水際の前から順に客1、2。
客1 「セットとコンビは、なんか違うの?」
水際 「セットだと、お好きなバーガーにポテトとドリンク両方付いてて、コンビだとどちらかひとつを付けることができます」
客1 「ひとつってのは、ポテトだと1本ってこと?」
水際 「いやMサイズがひとつです」
客1 「Mサイズのポテトが、1本?」
水際 「いやひとつ、1袋です」
客1 「へえ」
水際 「……コンビにされますか?」
客1 「うーん、そうねどうしよっかなあ。コンビおすすめ?」
水際 「そうですね、ポテトもドリンクも単品Mサイズだと250円なので、コンビにすると50円お得になります」
客1 「お得かどうかは聞いてなくて、おすすめ?」
水際 「えっと、はいそうですね」
客1 「店員さんがおすすめって言うんだったら、それにしてみようかな」
水際 「ありがとうございます。ポテトかドリンク、どちらにされますか?」
客1 「どっちもほしいな」
水際 「それでしたら、こちらのセットの方だとどっちも付きますけど」
客1 「まあでもコンビがおすすめなんでしょう?」
水際 「いや、えっと……セットもおすすめです」
新たに客が入ってきて客2の後ろに並ぶ。客3。
客1 「あれもおすすめこれもおすすめって言われたら1個に絞りにくいよね。おすすめは1個にしてくんないかな?」
水際 「すみません」
客1 「で、どれ頼んだらいいの俺は?」
水際 「はあ……じゃああの、セットがいいと思います」
客1 「おすすめってことね?」
水際 「はい」
客1 「ふーん。じゃあドリンクは?」
水際 「こちらからお好きなものを選んでいただけます」
客1 「じゃなくて。おすすめは? どのドリンク頼んだらいいの?」
水際 「コーラはいかがでしょうか?」
客1 「俺炭酸だめなんだよね」
水際 「はあ」
客1 「ウーロン茶でもいいけど、おすすめじゃないもんね?」
水際 「いえおすすめです」
客1 「じゃあおすすめ2個になんじゃん。1個にしないと」
水際 「ウーロン茶、にしますじゃあ。コーラはおすすめじゃないですもう」
客3 「なにもたもたしてんのこっちは待ってるんですけど!」
水際 「申し訳ございません、順番におうかがいしますので少々お待ちください」
客3 「こっちは時間ないんだけど」
水際 「申し訳ございません」
客3 「謝ってるひまあったら早くしてくれない?」
水際 「はい、申し訳ございません」
客1 「そんな強く言わなくてもいいじゃんね?」
水際 「いやまあ、いや……」
客3 「ちょっと、早く」
客1 「はいはい。ドリンク、どれにしたらいい?」
水際 「ウーロン茶でいいですか?」
客1 「おすすめ?」
水際 「おすすめです」
客1 「じゃあそれで」
水際 「ありがとうございます。では注文繰り返させていただきます。チーズバーガーのセットがおひとつで、ドリンクが」
客1 「待ってバーガーもおすすめってあるの?」
水際 「えっと」
客3 「まだ?」
客1 「なんだよ。俺あとでいいや急いでないし」
客1、列のいちばん後ろに回ろうとする。
客2 「いいですよ、先頼んでください」
客1 「いやいいよ全然」
客2 「ダメです、先並んでたんだから。先に並んだ人から順番に注文していくものですから」
客1 「そりゃそうだけど」
客2 「大丈夫ですよ、私急いでないですし」
客3 「ああもう早くして!」
客2 「どうぞどうぞ」
客1 「はあ。(店員に向き直り)なんだっけ?」
水際 「チーズバーガーがおすすめです」
客1 「そうなんだ。じゃあチーズバーガー」
水際 「では注文繰り返させていただきます」
客3 「チーズバーガーセットでウーロン茶でしょう! そんなん繰り返さなくてもわかるわ!」
水際 「申し訳ございません。では、チーズバーガーセットがおひとつで、
750円になります。お支払いは現金で?」
客1 「あーどうしよう。なにがおすすめ?」
水際 「えっと」
客3 「いつまでもたもたしてるの? 急いでないんだったら私先に注文させてちょうだい!」
客3、列の先頭へ行こうとする。
客2 「ダメですよ、順番なので」
客3 「急いでないんでしょ? こっちは時間ないの!」
客1 「じゃいいよ先でも」
客3、列の先頭へ行こうとする。
客2 「ダメです、順番なので」
客1 「いいって、先通してやんなよ」
客2 「いや、私が先なので」
客1 「じゃああんた先でこの人2番目、俺いちばん後でもいいから」
客2 「いやいや、順番ですから、最初に並んでらっしゃったので最初に注文してください」
客3 「なんで、あの人いいって言ってるんだからいいじゃない」
客2 「ダメですよ、ルールは守らないと。1回ないがしろにすれば次もないがしろにしてしまいやすくなって、最終的に社会全体が無法地帯になってしまいかねません。そしたら、あなたが何気なくやってきて食べられるハンバーガーだって、なくなってしまうんですよ」
客3 「もっと柔軟に考えなさいよ。トータル短い時間でさばけた方がお店的にも助かるんだから、すぐ済む人とか急いでる人を先にパパっとやった方がいいのよ。あなた急いでるの?」
客1 「だから急いでないって」
客3 「あなたは?」
客2 「私も全然急いではないです」
客3 「じゃあ私最初で次あなた、最後この人でいいでしょう?」
客2 「でもあなた最後に並んだじゃないですか?」
客3 「ああもう、この時間がもったいない! 順番でもなんでもいいからさっさとしてくれない?」
客2 「(客1に)ゆっくりでいいですよ」
客1 「はあ。(店員に向き直って)なんだっけ?」
水際 「お支払い」
客1 「なにで払うのがおすすめなんだっけ?」
水際 「えっと」
客3 「交通系IC! 交通系、アイシーッ!」
客1 「nimocaでもいい?」
水際 「すみません交通系使えなくて、現金かクレジットカードのみになります」
客1 「ああそう」
客2 「福岡なんですか?」
客1 「え?」
客2 「nimocaっておっしゃってたから」
客1 「ああ。まあ」
客2 「へえ。私の母のいとこも福岡なんですよ」
客1 「……へえ」
客2 「いいもんですか、福岡?」
客1 「どうかな」
客3 「早く金払え! 注文に関係ない話するな!」
客2 「ゆっくりでいいですからね」
客1 「……いくらだっけ」
水際 「750円です」
客1 「じゃ現金で」
客1、財布を開けて小銭を漁る。が、すぐには見つからない。
新たに客4が入ってきて、列のとなり、店員のいないレジカウンターの前に迷わず進む。
客4 「持ち帰りでチーズバーガーセット、ドリンクがジンジャーエール。支払いクレジットカードで」
水際 「すみません順番におうかがいしますんで、列に並んでお待ちください」
客4 「え? でもここもレジですよね?」
水際 「はい、でもそちら今対応できる者がいませんので」
客4 「いいですよ」
水際 「はい?」
客3 「ちょっとあなた、ちゃんと並びなさいよ」
客4 「え?」
客3 「私のうしろでしょう、順番なんだから」
客4 「でも僕こっちのレジに並んだからそっちの列関係なくないですか?」
客3 「なに言ってるの、そっちレジ開いてないじゃない」
客4 「レジはレジでしょう。ねえ?」
水際 「レジは、レジですはい」
客3 「はあ? あなたもちょっと言ってやりなさいよ、順番抜かしよ」
客2 「でもあちらの列はあちらの列なので。この方はあちらの列の1番目、あなたはこちらの列の3番目、争う義理はないような気もしますけど」
客3 「だからあっちのレジやってないんだからそもそも行っちゃダメなんじゃないのって」
客1 「まあまあまあ、あんまカッカしないでさ」
客3 「あなたさっさと現金出しなさいよ! あなたがもたもたしてるからこっち待ってるんですけど?」
客1 「ちょっと小さいのないんだけど1万円札でもいい?」
水際 「大丈夫です」
客1 「悪いね」
客1、レジのトレイに1万円を出す。
客4 「ちなみにどれくらいかかりそうですか?」
水際 「はい?」
客4 「レジ、開くの」
水際 「ちょっとすみませんわからなくて、よろしければこちらの最後尾に」
客4 「いやいいです大丈夫です」
水際 「はあ」
客3 「ちょっと、あなたこっちの列の店員でしょう? となりに構ってないでさっさとして」
水際 「(下手舞台袖、厨房のある方向に向かって)1万円入ります」
店員 「(舞台袖、厨房の方から怒号だけ飛んでくる)もっとでかい声で言えって言ってんだろ聞こえねえんだよ! 『1万円入ります!』って」
水際 「1万円入ります」
店員 「もっとだ!」
水際 「1万円入ります」
店員 「やめちまえ!」
客1 「そんな言わなくてもね」
客2 「あれだったら私1万円両替できるのでやりましょうか? 千円とかだったら入りますって言わなくてもいいですよね」
客2、財布を取り出して中を見る。
客2 「あー、千円札4枚しか入ってなかったです」
客3 「もうなにやってんのほんとに。私5千円あるわよ」
客2 「ということは、合わせたら9千円ですね」
客3 「あと千円、あんたないの?」
客4 「僕キャッシュレスなんで」
客1 「まあじゃあちょっと両替は無理か。言える? 大きい声で『1万円入ります』って」
水際 「だ、大丈夫です。……1万円入ります!」
店員 「バイトだからって舐めてやってんじゃねえぞ!」
客1 「ひでえな」
客3 「もう急いでるっていうのに。私言ったげるわ。1万円入ります!」
店員 「誰だてめえ!」
客3 「は?」
客1 「ちょっと俺文句言ってくるわ」
水際 「あ、ちょっと」
客1、カウンターを乗り越えて厨房のある下手袖へ消えていく。
と、ボロボロの姿で袖から飛ばされ転がってくる。
客1 「ぐあ、あ」
客3 「なによ」
客1 「つええ……」
客2 「やっぱ両替した方が」
客3 「でも千円足りないんだから。あなたほんとに持ってないわけ?」
客4 「キャッシュレスなんで」
客3 「なによそんな悪びれもせずに。キャッシュレスがそんなに偉いわけ? キャッシュレスでも非常時のために千円くらいカバンに入れとくもんじゃないの? キャッシュレスとしての自覚が足りないんじゃない?」
客2 「争ってもしょうがないですから」
客1 「誰かもうひとり、千円持ってる人がいたら」
客4 「店員さんは持ってないんですか?」
水際 「ああ……ロッカーに置いてます」
客4 「そうかあ」
客2 「私、千円持ってる人知ってるかもしれないです。ちょっと呼んできますね」
客2,店を出ていく。
客4 「いったいどこに」
客3 「ねえ、あの人どっか行ったんだから私が先に注文してもいいんじゃない?」
客1 「さっきからあんたは自分の都合ばっかりで動きやがって」
客3 「なによ?」
客1 「1万円両替するためにはあんたの5千円が必要なんだ。それを、あんたが早く買いたいからって順番抜かして帰ったらこの子がまたあんなひどい目にあっちまうだろうが、(水際に)なあ?」
客3 「それだってあなたと店の都合じゃない、私だって時間がないんだから少しは考慮したっていいんじゃないの?」
客1 「時間ないなら飯買いにきてんじゃねえよ」
客3 「だってファストフードでしょう? ファストじゃないならファストフードって言わないでもらっていいかしら?」
水際 「……すみません」
客1 「そうやって店員に高圧的な態度とってさ、そういうのなんていうか知ってるか? カスタマー・ハラスメントっていうんだぞ」
客3 「だったらなんだっていうわけ?」
客1 「だったら? だったら、ダメだろうがよ」
客4 「まあちょっといったん落ち着きましょうよ」
客3 「(客4に)あなたが千円さえ持ってればこんなことになってないのよ。(客1に)いやあなたが千円持ってればよかった話じゃない」
客4 「まあまあ、ない話してもしょうがないですから。たとえばこういうのはどうですか? 僕があなたの分をクレジット払いで立て替えるんで、あとで現金でくれれば」
客1 「だから1万円しかないんだって」
客4 「いいですよ僕は全然。1万円でも」
客1 「俺がよくないから」
客4 「そうですか」
沈黙。客たちの視線は自然と水際の方へ。
水際 「……1万円、1万円入ります!」
店員 「うるせえ!」
客3 「うるせえっておかしくない?」
客1 「うるせえはおかしいな」
客4 「うるせえは違いますよね」
水際 「……1万円」
客1 「無理すんなって」
水際 「1万円入ります、1万円入ります、1万円入ります、1万円入ります!」
店員 「うるせえ、やめちまえ、やめちまえ、死ねえ!」
客4 「死ねとか簡単に言うな!」
店員 「なんだよ! 簡単に言ったかどうかわかんのか! え、こっちが悪いのか! 真剣に言ってんだ! お前らに俺の気持ちのなにがわかるんだよ? 呑気に好きなタイミングでハンバーガー食い散らかしてよ、どうせわかったように上司や同僚の悪口を恋人とかに話してんだろ。この仕事やったことあんのか? この仕事やったことあんのかって! いっつもそう、いっつもそうなんだよ昔からさあ! 俺の辛さには誰が寄り添ってくれるんだよ! 俺のことなんも知らないのに俺になんか言うんじゃねえ! 言うんじゃねえ!」
沈黙。
水際、なにも言わず店から出ていく。客もなんとなく声をかけられない。
沈黙。
客2、出ていった時よりボロボロの姿で戻ってくる(袖が取れてるとか)。
手には綱を握っており、綱の先には誰にもなんだかわからない塊。
生きているように見える。
客2 「千円持ってる人、連れてきました」
客1 「人?」
客4 「これは……?」
誰にもなんだかわからない塊、内部から千円札を外部に出す。
客2 「じゃあ、両替しますか、1万円」
客2は4千円、客3の5千円、誰にもなんだかわからない塊の千円を集めて1万円分の束を作る。それを客1の1万円と取り換える。
客2以外は、目の前の塊がなんなのか気になっている。
客2 「で、あれ……」
客3 「あ。これ誰が受け取るの?」
客4 「ああ。いったん崩して、分けないとですよね」
客2 「私が4千円で、5千円と千円……両替とかできたりしますか?」
客4 「僕現金持ってないんですよねキャッシュレスなんで」
客3 「持ち歩きなさいよちょっとは」
客4 「そうですよね、ちょっと今度からそうしようと思いました」
客1 「(1万円札を差し出して)これ1万円」
客3 「でもそれ渡したらいっしょのことだから」
客1 「そっか、えっとじゃあ……」
客4 「これダメじゃないですか?」
客たち、この方法で両替がうまくいかないような気がしている。
溶暗、そしておしまい。
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