極短編「ちょっと人面犬」
雨の中をトボトボ歩く犬が笑えたのは、その顔の中に、深夜にもかかわらず家を追われてトボトボ歩く哀愁の塊たるおじさんの姿を見出したからかもしれない。もしもあの時、私が犬に傘を差し出していたならば、その顔の中のおじさんのあまりの哀愁に引きずり込まれ、地面に落ちる雨脚にひとり涙を加えていただろう。今私が健全面して笑っていられるのも、悲しみの最中の彼と接点を持つことなく、部外者でい続けられるからだ。笑いとは、残酷なものである。そして笑う私もまた残酷だ。きっと再びあの犬に会った時、私は表