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【有料】ミステリーホラー短編集「ミスティック・ディテクティブ〜最知真理の事件簿~」 序章「ある動画サイトの奇妙な暗号動画」

割引あり

世に溢れた謎を解き明かす探偵、通称『ミスティック・ディテクティブ』の最知真理(さいち・まこと)の元には日々様々な依頼が舞い込む。
とある動画サイトにアップロードされた、乱数放送を思わせる奇妙な暗号動画。
歓楽街の寂れたホテルに実在するという、監獄を彷彿とさせる一室『ROOM‐324』。
秘密組織がネットの電子書籍として販売する、彼の有名なヴォイニッチ手稿にも似た奇書。
最知の体験した事件簿を、嘘八百と一蹴するのは容易い。
だがしかし世界を見渡せば類似した不可思議な恐怖は、現実や電子の海の至る所に存在し、深みに嵌まれば見た者を底なしの奈落へと引きずり込むだろう。
現実と非現実の狭間が曖昧になる、ミステリーホラーを貴方に……



以下、作者(?がらくた)からの注意書き

現代が舞台の世界の不可思議な謎や都市伝説、オカルト等の要素を作中にふんだんに盛り込んだ短編ミステリーホラー集。
この小説はFC2ブログ、小説家になろう、ハーメルン、noteに投稿されています。



あまりにも精巧に建造されたピラミッド、海に沈んだ古代文明、解読すら困難を極める奇書―――世界には未だに解き明かせない謎が溢れている。
それを聞いて君たちはどう思った?
未知に対して恐怖を感じるのは、至極当然の反応だ。
古代の人間は天体の成り立ちという不可思議を、神話で説明し未知を既知に変えた。
わからないものをわからない、というのを人は堪らなく恐れるものだ。
俺はどうなのか?
俺は謎を知りたくてしょうがない。
組織に相応しいかテスト用の暗号でも、悪人が法から逃れる為の苦肉の策でも。
謎が作られた経緯はどうでもいい。
だから俺、最知真理(さいち・まこと)は『ミスティック・ディテクティブ』に……オカルト専門の探偵になった。



2024 5/18 最知探偵事務所にて



オカルト関連の調査、積極的に承ります! の黒板ボードが目を惹く事務所の中で、慌ただしく男女が動き回る。
数日前に匿名の依頼が届き、報酬の前金が振り込まれたと助手から最知に報告があったのだ。
メールの依頼はとある動画投稿サイトにUPされた、動画のタイトル『33#44444422222111』への徹底調査だ。
ホラー作品の演出の一環で作られたものは、タイトルを文字化けし、見る者の恐怖を煽るのはありふれた手法だ。
しかしこの文字列には別の、何らかの意図が隠されている。

「よし、そんじゃ謎解きやりますか」

垂れた瞳に茶髪のごく普通の青年、最知真理が声を張り上げると

「そうだね」

黒髪のショートの助手の無田睦月、愛称ムームーが元気よく返事した。
依頼を受けた真理と睦月は、さっそく依頼にあった該当動画に目を通した。
ビデオ録画したような時折砂嵐が入る、時代遅れのぼやけた画面はブルーバックの背景を映し出し、黒文字の数字『1122333311324』の謎の数列が並ぶ。
数字には一定の法則性がある為、意味を持つ暗号だと瞬時に判断できた。
動画のタイトルも、おそらく同様の方法での解読に違いない。
動画時間は3分24秒もあり、真理と睦月が細かな変化も見逃さぬよう集中し凝視するも、表示された画面は一切微動だにしない。
現状は意味不明な動画だが暗号を解読すれば、依頼の解決に一歩近づくだろう。
そう考えた矢先―――不気味な機械音声が何かを次々と読み上げて青年は

「うおっ」

と、驚きの声を上げる。
どうやら英単語のようだ。
耳障りな大音量に真理は慌てて調節し、再度動画に耳を傾ける。
だがしかしザーザー……というノイズ音が混じり、肝心のアルファベットが上手く聞き取れず、彼らは動画を見終えてしまった。
面倒ではあるが、まずはここから問題を解決せねばなるまい。

「睦月、ムービーメーカーの動画編集で英単語だけ抽出してくれないか? その文字に何かヒントがあるはずだ」
「うん、了解」

所狭しと本棚や紙の書類が置かれ、雑然とした空間の中で、睦月が軽快にキーボードを叩く音だけが響き渡る。
情報は少ないものの推理自体は可能だ。

「謎の数字と機械音声でアルファベットが読み上げられる、奇妙な動画……おそらく諜報や同胞にだけ情報を向けた、暗号動画の類で間違いないだろうな。でも世界中で利用されるサイトだし、現状は何処の国の誰が使ってるかもわからないけど……」

作業の邪魔にならぬよう、独り言の如く小さく呟き頭を整理する。
こういった暗号関連の動画は、乱数放送が特に有名だろう。
乱数放送とはラジオや動画サイトで数字やアルファベットを用い、解読法を知る特定個人に情報伝達する方法だ。
依頼者の興味は、諜報の傍受なのだろうか?
そんなものは本職の軍人にでも頼むべきなのだが……不信感が募るも、金銭を受け取れば仕事をこなすのがプロ。

「この手の暗号は大体カエサル暗号やら、頭文字のアクロスティックで解けるモンだけど。何文字ずらすかの鍵まではないか。面倒臭いから睦月が、総当たりで復号もやっといて~」

カエサル暗号はAからZまで順々に並ぶアルファベットの文字を鍵の数値分ずらす為、シフト暗号とも称される。
例えば最知真理は、SAICHI MAKOTO。
これを3つ前のアルファベットでカエサル暗号化したものはPXFZEF JXHLQL。
和洋問わず用いられる、一般的な暗号である。
アクロスティックとは各行の最初の文字を並べると、別の意味を持つ言葉となる暗号。
平たく言えば縦読みの手紙なども暗号の一種だ。

「興味のないことは、すぐ他人任せにする……本当にテキトーなんだから。真理も仕事してよ〜」

PCを鋭く睨む瞳で一瞥し、再び睦月が作業に没頭した。
とはいえ2人だけの探偵業なので、サボれば自分にも後々作業が降りかかるのは事実。

「でたよ、いつもの悪口が……ま、暇だし、いろいろ調べてみるけど。動画説明文はなし。SNSとの連携もされてないか。そっちでボロ出してくれたら楽だったんだけど……」

SNSや匿名掲示板のそれらしき情報を漁るも、さして有名ではないのだろう。
全くといっていいほど『33#44444422222111』は、話題に上がらなかった。
暫く数列の暗号の意味を探って紙に書き出すも、どうもしっくりこない。
悪戦苦闘する内に作業を終えた睦月は体を伸ばし、砂糖をスプーン2杯分入れた、甘めのコーヒーを啜る。

「編集したから、勝手に見てて。それよりチャンネル登録者が100人以上もいるけど……意味不明な動画で、有名な動画投稿者に宣伝された訳でもないのに? 不思議……」
「……ああ、確かに。動画自体も50本前後でそれほど多くないのにな」
「だよね。でも登録者をお金で買う人もいるみたいだし、別におかしくないか〜」

観察力に裏打ちされた素朴な疑問に、睦月は自問自答し解決した。
しかし、どうも引っ掛かる。
基本的には動画の本数に比例し、チャンネル登録者は増えるものだ。
にも関わらず内容に見合わず、不自然に多いのは気になる点だ。
無論、睦月の考えにも一理あるのだが。

「編集した動画、流すね〜。作業で疲れたし、暗号の解析は真理がやってよ。こういうの得意だもんね〜」
「おう、任せとけ。ただ聞き取る為に音量上げるから、寝るなら移動した方がいいぞ」
「いや、大丈夫だよ」

離席した睦月はソファで横になり、耳栓をしてスマホを眺めて息を抜く。
無機質な音声で読み上げられるアルファベットを何度も何度も聞き返し、L、A、W、Y、E、R……文字が次第に輪郭を帯び体を成す。

「アルファベットをメモに残して……ん、この意味は。LAWYER……つまり弁護士?」

この単語が何を指すのかは不明だが、地道に真相に至る鍵を探す他ないのだ。
画面にへばりつき神経を尖らせるとC、O、N、M、A、N、S、H、O、E、S、T、O、R、E……先ほどと同じくある単語となった。
調べるとCON MANは詐欺師の略称、SHOE STOREは靴屋だという。
だが真理の脳内にはその後の謎の1文字、『B』のことしかなかった。
紙を手渡すと睦月は瞬く間に仕事モードに入った。

「単語自体は意味があるものだけど、特に危険性はないのかな……数字の羅列は何を指してるんだろう?」
「……それが1番重要なのよなぁ。余った『B』が気になるけど、たぶん暗号には関係ないだろうし」

言葉を交わし推測していくが、答えには辿り着かず、悶々とした状況が続いた。
神からの手助け、天啓が欲しいが……手をこまねいていると睦月へ、ある人物から連絡が届いた。
こういった雑音は集中を削ぎ気が散るが、今は藁にも縋りたい気分だ。

「あ、おばあちゃんからだ」
「ふ〜ん。睦月のおばあちゃんは一人暮らしだったっけ。こまめに連絡取ってさ、大事がないようにな」
「心配してくれてありがとう。慣れないなりに色々覚えてね。快々フォンから普通のスマホに乗り換えようか、悩んでたね〜」

今頃は可愛い孫と通話する為に縁側でくつろぎつつ、電子機器に触れている最中だろう。
想像すると気が緩み……脳天に稲妻が走ったような衝撃が走った。
これが正しいか確かめねば、頭より先に体が動いた。
通話が終了するとほぼ同時にシャーペンで、文字を変換し―――ビンゴだ。

「じゃあね、おばあちゃん」

通話を切った睦月に

「この数列、妙に同じ数字が連続で並んでて法則性があるよな? 睦月が電話してるのを見て気がついた。これ、ガラケーを使った暗号だ。22が『け』、11が『い』、3333が『せ』、11が『い』だから……歓楽街で有名な傾城町(けいせいちょう)を指しているのか? この法則でいくと33#44444422222111は『実行(じっこう)』、何かをやれと仲間に伝えてる」

要点をまくしたてるように伝えた。

「というより日本で誰かが作ったものだったのか……それに一番驚いたよ」
「さっきのLAWYER、CON MAN、SHOE STOREの単語は、きっと参加者の職業か与えられた役割だと思う。その人たちに『実行』を促してるんだよ。その背後の意図までは読み取れないけど……」

言いしれぬ恐怖を前に睦月は、ぽつりぽつりと喋り声を震わせた。
現状は画面越しの動画投稿者の意図は不明だ。
しかし立ち止まる訳にはいかない。
謎の究明を依頼し頼ってくれた人物への無礼であると同時に、神秘探偵の矜持がそれを許さなかった。

「読み上げられたアルファベットの職業が参加者となると、弁護士LAWYERに加えて詐欺師CON MAN、靴屋のSHOE STORE……他にも『B』がいるが傾城町で、人が集まって何かが行われるのか? 集合場所まではわからないが、黒い噂の絶えない町だ。暴力団関係者や反社がたむろしてるし、正直かなり不気味だな」
「この依頼は深く追わない方がいいんじゃ……危ない気がするよ、真理」
「明日、傾城町に調査にいく。睦月は自分の意思で判断してくれ……俺も危険なヤマに巻き込みたくないからな」

真剣に告げた青年は作業に戻り、動画の投稿日時などを丹念に調べ、事実を積み上げた。

「俺が守ってやるからついてこい」

と啖呵を切れれば、どれだけよかったか。
責任から逃れたいが為に、睦月に選択を委ねた。

(……俺は卑怯者だ)

その日は彼女と片手で数えられるほどの会話を済ませ、荷造りをして泥のように眠りについた。



2024 5/19にて



「……なぁ、どうする。睦月?」

喧嘩をした後にぎこちなく仲直りを望むような、湿っぽい態度で青年が訊ねた。
どちらの言い分が間違っていると、外野がとやかく言える問題ではない。
自らに危険が及んでまで依頼に忠義を尽くすべきか。
思い悩むのは当然だ。
無言を貫き、彼女の言葉を待つ。

「……心配してくれたの、嬉しかった。でも私も真理に何かあったら嫌なの。だから……」

伏し目がちに勇気を振るう睦月に

「ハハハ、相棒がいてくれて心強いわ」

青年はただ一言発し、無邪気に微笑んだ。

「験担ぎに占いでもみっか」
「うん、そうしよう」
「続いてのニュースです。昨晩未明〇×都の傾城町にて、全身に刺し傷のある女性の遺体が発見されました……女性は風俗店勤務とみられ……臓器を抜き取られた形跡が……」

意識もせずに何の気なしに電源を入れたテレビから、衝撃的な放送が流れた。
脳が揺さぶられるような情報に思考が停止するも、アナウンサーは一切の感情を持たぬロボットのように淡々と読み上げる。
鼓膜を震わせた抑揚のない声は、飽きるほど見返して脳裏に刻み込んだ動画の機械音の記憶を呼び起こし、ぞくりと背筋が冷やした。
傾城町での猟奇的殺人という事実と、匿名の依頼をこなし、ようやく辿り着いた傾城町のヒント。
これは単なる偶然なのだろうか?
……俺たちが渡る橋は、思った以上に危ないかもしれない。
睦月を心配させぬよう平静を装うも、続報を待つ釘付けの視線が、青年の恐怖心を露見させる。

「……ねぇ、真理。これってLたちの仕業なんじゃないの?! ねぇってば!」
「だ、大丈夫だ。猟奇的殺人なんて、世界中の何処でも起こってるじゃないか。それが昨日たまたま、傾城町で発生しただけ……きっとそうさ」

―――言い聞かせるように真理は繰り言を呟き、本心から目を逸らして。


序章

「隠された悪意」

匿名の依頼を受けた真理と睦月は、云われるがまま動画サイトにUPされた奇妙な暗号の羅列動画への調査に取り掛かる。
混じるノイズを除去し、読み上げられるは事件と関係あるかすら定かでない単語。
解読した数字と記号には、とある場所と何らかの命令を彷彿とさせる言葉。
意味深な文字に怯えつつも調査へ向かおうと自らを鼓舞した、2人の不安を煽るかのように恐ろしい情報が鼓膜を震わせた……

第1章

「都市伝説ROOM‐324」

奇妙な動画にUPされた数字の意味を解読し、傾城町(けいせいちょう)に赴く真理と睦月。
性と欲望、死の臭気が充満する暗黒の街で情報収集する中で、彼らは暗号動画の謎の数字324と関連した、都市伝説ROOM‐324へ辿り着く。
少年少女の話によればその1室はとある廃ホテルにあり、監獄の如き内装をしていて、夜な夜な人の生き血を啜るという。
件の廃ホテルとおぼしき土地へ、所有者の遠橋氏に許可を取ってから内部へと入ると、そこには常軌を逸するほど324の数字を意味する謎や暗号にまみれた、異様な空間が広がっていた……


ミスティック・ディテクティブ 最知真理(さいち・まこと)

MBTI:ENFP
アライメント 混沌·善

超常現象やオカルトに関連する依頼を解決に導く、通称『ミスティック・ディテクティブ』の青年。
世間ではオカルトや妄想と一蹴される出来事に直面し、誰にも相談できずに追い詰められた人物や、金を持て余した人間の道楽など、日々様々な依頼をこなす。
本人は趣味が高じてオカルト専門の探偵業を営んでおり、好奇心の赴くままに事件の真理を解き明かすのが何よりの楽しみ。
名前が女に間違われやすい為、宅配などで本人の確認が必要な際には面倒臭がり、助手の睦月に任せる模様。



自称オカルト専門家 無田睦月(むた・むつき)

MBTI:ISTJ
アライメント 中立·中庸

自称オカルトの専門家を名乗る女、通称ムームー。
知識面では最知に劣るものの現地の調査や、ネットで証拠の裏を取るなど、細かな実務で活躍する助手。
感情表現はあまりせず、依頼者にも最知にも愛想が悪いのが玉に瑕。
だらしがなく適当な性格の最知には不平を漏らしながらも、数多の依頼を経て信頼を寄せている。

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